聞こえぬ声、故に信ずる

 写真家の男とモデルの青年のお互いによる相手についての語り。それは時に会話であったり心の声であったりするがその応酬の中でかつて確信された愛みたいなものが徐々に崩れていく。
 写真家の男は属性からか美を芸術的に捉えるがモデルは人を愛した。写真家がモデルを神的に表現し、そうであると主張するもモデルは限りなく人間として描写され続ける。この視座の違いは進むに連れて崩壊の道を辿る。
 モデルが「その後」からも声を持ち、自己認識が存在するあたりに写真家の本願はある意味成就したのかも知れない。ところが皮肉なことに写真家は人間なので対話を永遠に失い、ついぞ神の心情など理解できぬまま己の考える最善によってただ罪人として野に放逐され自らの無知に気づかぬまま神の愛した人間としてこれからも在り続ける。それをどう捉えるかによってこの物語の持ち味は変容する。悲劇と喜劇は隣り合わせであると。理解という神話。

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