第3話 魔力
三十二日目。
私は魔法陣の上に立ち、魔法陣に魔力を送る。そう自分自身が別の場所に移る【転移】だ。これも問題なく発現出来た。
どうやら、物資の集積所での生活は、魔力操作の訓練になっていたらしい。私は魔力をイメージ通りに扱うことが出来ていたのだ。
だが、これだけでは、まだ心もとない。
右手に魔力を溜めて10m先に飛ばす。イメージする。魔力と自分を交換するイメージ。
私は、10m先に一瞬で移動していた。見える範囲内だけど、【瞬間移動】を発現出来ただ。……これは使える。
嬉しくなって来た。
あの四人も、魔法が使えると分かった時にはこの様な感覚だったのだと思う。
その日は、【瞬間移動】の訓練を行った。特に魔力を飛ばす技術だ。結果的に、数km先まで飛ばすことは出来た。ただし、スピードが遅い。
事前に何処に飛ぶか決めておかないと窮地に陥りそうだな。
◇
三十三日目。
チートの定番を覚えたのは良いが、やはり攻撃と防御がないと始まらないと思い始めた。
空間魔法を使用した、攻撃方法の確立と、防御方法がないか考える。
まず、目の前の空間を『固定』してみた。
形は立方体であり、浮いている。
魔力の供給を切ってもそこにあり続けた。
とりあえず、強度の確認だ。
堀を作った時のミスリルの鍬で攻撃してみる。
──ガキン
痛い。手が痺れた。
確認すると、『固定した空間』は壊れることは無かった。まあ、ミスリルの鍬の刃が欠けてしまったけど。
私の空間魔法を見ている人達がいるので、魔法を撃って貰った。
四大属性のどの魔法でも『固定した空間』を破壊することは出来なかった。
まあ、概念が異なるのだ。当たり前と言えば当たり前か。
魔法を撃ってくれた人達にお礼を言って『固定した空間』を解除する。
思案した結果、『固定した空間』でテントを作りその中で攻撃を受け続ける方法が良いと思えた。個人の魔力量には限りがある。全ての魔力を使って攻撃して来てくれれば、魔力が尽きた後から反撃出来ると思う。
火の勇者は、集中砲火で討ち取られたと聞いた。きっと、大規模魔法の集中攻撃が、エルフ族の基本戦術になっているはずだ。
その作戦を逆手に取る。
◇
三十四日目。
今日は自分のテント内での実験だ。目の前の『固定した空間』を座りながら眺めていた。
どう念じても動かない……。
これはこれで、使い道があるけど、出来れば鎧や盾の様に体に纏わせたい。
考え方を変える。目の前の『固定した空間』は、どうやって作ったかだ。
私は、地面の上に立っている。
そして、私は地面を中心として空間を認識している……。
腕から、盾の形の『固定した空間』を発現させる。腕を振ると腕に『固定した空間』が着いてきた。
この『固定した空間』は、起点を何処にするかで移動させることが出来たのだ。
これで、まともに使えることになったと思う。不破壊の盾……、呼称を【空間断絶】とした。
ここまで来ると、空間魔法に対しての認識が高まったのを感じた。
目の前の荷物を、空間ごと『固定』して『圧縮』する。どんな大きさであっても米粒ほどの大きさに圧縮出来た。そして、解除すると何の損傷もなく元に戻せた。そう異世界定番の【収納】だ。
かなり先の話になるけど、『圧縮』状態から指定した物を取り出す事も出来るようになる。
後は、攻撃方法かな?
◇
三十五日目。
物資の集積所を散策する。なにか武器になる物を探していたのだけど……。
すると、以前折った鍬の木の柄が見つかった。
加工場で折れ口を平にして貰い、お礼を言う。
これからのことは見せられないので、自分のテントに戻った。
木の柄から空間魔法を『生やす』。イメージは、某有名映画のラ○トセ○バーだ。
ただし、刃の厚さは、1μm程度だ。まあ、色は黒いので見えてしまうけど、今は良しとしよう。
地面を切ってみる。何の問題もなく、刃が通った。
ミスリルの鍬に軽く触れてみると、ミスリルでさえ何の抵抗もなく傷つける事が出来た。鍬を壊したくなかったので、試さなかったけど破壊可能だと思う。
『空間魔法の刃』は長さも自在に操れる。魔力を込めれば込めただけ伸びるみたいだ。その気になれば数kmは伸ばせそうだな。
呼称を【空間切断】とした。
ちなみに鞭のイメージを持ってみたけど、刃が触れた時点で切れてしまうのだ。とても危ないのでやはり剣の形に固定した。
もっとバリエーションを増やしたいけど、今はここまでとしよう。
【転送】【転移】【瞬間移動】【空間断絶】【空間切断】そして【収納】。
これからは、この空間魔法の練習に当てることにした。
◇
四十日目。
物資の集積所に警報が鳴った。
集合場所に行くと、噂話が聞こえた来た。
「勇者が全員逃げたらしい。前線は壊滅状態だとか。そして、エルフは陣形を整えてこの集積所に進軍中と聞いたぞ。逃げる準備をしておいた方が良いかもしれない」
あの四人は、『英雄』になれなかったか。
さて、私はどうしようかな。
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