第3話 魔力

 三十二日目。


 私は魔法陣の上に立ち、魔法陣に魔力を送る。そう自分自身が別の場所に移る【転移】だ。これも問題なく発現出来た。

 どうやら、物資の集積所での生活は、魔力操作の訓練になっていたらしい。私は魔力をイメージ通りに扱うことが出来ていたのだ。

 だが、これだけでは、まだ心もとない。

 右手に魔力を溜めて10m先に飛ばす。イメージする。魔力と自分を交換するイメージ。

 私は、10m先に一瞬で移動していた。見える範囲内だけど、【瞬間移動】を発現出来ただ。……これは使える。

 嬉しくなって来た。

 あの四人も、魔法が使えると分かった時にはこの様な感覚だったのだと思う。

 その日は、【瞬間移動】の訓練を行った。特に魔力を飛ばす技術だ。結果的に、数km先まで飛ばすことは出来た。ただし、スピードが遅い。

 事前に何処に飛ぶか決めておかないと窮地に陥りそうだな。





 三十三日目。


 チートの定番を覚えたのは良いが、やはり攻撃と防御がないと始まらないと思い始めた。

 空間魔法を使用した、攻撃方法の確立と、防御方法がないか考える。


 まず、目の前の空間を『固定』してみた。

 形は立方体であり、浮いている。

 魔力の供給を切ってもそこにあり続けた。


 とりあえず、強度の確認だ。

 堀を作った時のミスリルの鍬で攻撃してみる。


 ──ガキン


 痛い。手が痺れた。

 確認すると、『固定した空間』は壊れることは無かった。まあ、ミスリルの鍬の刃が欠けてしまったけど。

 私の空間魔法を見ている人達がいるので、魔法を撃って貰った。

 四大属性のどの魔法でも『固定した空間』を破壊することは出来なかった。

 まあ、概念が異なるのだ。当たり前と言えば当たり前か。


 魔法を撃ってくれた人達にお礼を言って『固定した空間』を解除する。


 思案した結果、『固定した空間』でテントを作りその中で攻撃を受け続ける方法が良いと思えた。個人の魔力量には限りがある。全ての魔力を使って攻撃して来てくれれば、魔力が尽きた後から反撃出来ると思う。

 火の勇者は、集中砲火で討ち取られたと聞いた。きっと、大規模魔法の集中攻撃が、エルフ族の基本戦術になっているはずだ。

 その作戦を逆手に取る。





 三十四日目。


 今日は自分のテント内での実験だ。目の前の『固定した空間』を座りながら眺めていた。

 どう念じても動かない……。

 これはこれで、使い道があるけど、出来れば鎧や盾の様に体に纏わせたい。

 考え方を変える。目の前の『固定した空間』は、どうやって作ったかだ。

 私は、地面の上に立っている。

 そして、私は地面を中心として空間を認識している……。


 腕から、盾の形の『固定した空間』を発現させる。腕を振ると腕に『固定した空間』が着いてきた。

 この『固定した空間』は、起点を何処にするかで移動させることが出来たのだ。

 これで、まともに使えることになったと思う。不破壊の盾……、呼称を【空間断絶】とした。


 ここまで来ると、空間魔法に対しての認識が高まったのを感じた。

 目の前の荷物を、空間ごと『固定』して『圧縮』する。どんな大きさであっても米粒ほどの大きさに圧縮出来た。そして、解除すると何の損傷もなく元に戻せた。そう異世界定番の【収納】だ。


 かなり先の話になるけど、『圧縮』状態から指定した物を取り出す事も出来るようになる。



 後は、攻撃方法かな?





 三十五日目。


 物資の集積所を散策する。なにか武器になる物を探していたのだけど……。

 すると、以前折った鍬の木の柄が見つかった。

 加工場で折れ口を平にして貰い、お礼を言う。


 これからのことは見せられないので、自分のテントに戻った。

 木の柄から空間魔法を『生やす』。イメージは、某有名映画のラ○トセ○バーだ。

 ただし、刃の厚さは、1μm程度だ。まあ、色は黒いので見えてしまうけど、今は良しとしよう。

 地面を切ってみる。何の問題もなく、刃が通った。

 ミスリルの鍬に軽く触れてみると、ミスリルでさえ何の抵抗もなく傷つける事が出来た。鍬を壊したくなかったので、試さなかったけど破壊可能だと思う。

 『空間魔法の刃』は長さも自在に操れる。魔力を込めれば込めただけ伸びるみたいだ。その気になれば数kmは伸ばせそうだな。

 呼称を【空間切断】とした。


 ちなみに鞭のイメージを持ってみたけど、刃が触れた時点で切れてしまうのだ。とても危ないのでやはり剣の形に固定した。


 もっとバリエーションを増やしたいけど、今はここまでとしよう。

 【転送】【転移】【瞬間移動】【空間断絶】【空間切断】そして【収納】。

 これからは、この空間魔法の練習に当てることにした。





 四十日目。


 物資の集積所に警報が鳴った。

 集合場所に行くと、噂話が聞こえた来た。


「勇者が全員逃げたらしい。前線は壊滅状態だとか。そして、エルフは陣形を整えてこの集積所に進軍中と聞いたぞ。逃げる準備をしておいた方が良いかもしれない」



 あの四人は、『英雄』になれなかったか。

 さて、私はどうしようかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る