第7話 魔人族
私は、【瞬間移動】を繰り返して、エルフ族の軍隊が立て籠もっている砦に近づいた。砦は三ヶ所あるけど、一番近い所で問題ないと思う。ハズレだったら、他にいけばいいのだし。
途中には、所々林がある。
樹上に立ち、【望遠】を駆使して慎重に近づいて行く。距離にして5キロメートルを切ったところだろうか。
そんな時だった。
「見られていたか……。いや、
翼の生えた者が、砦からこちらに向かって来た。
背中には、エルフがしがみついている。
推論は当たっていたみたいだ。この戦争には、魔人族も参加していたのか。
だけど、日が高いこの時間に姿を晒すというのは、愚かだな。昨日は闇に紛れての奇襲だったから成功したというのに。
エルフ族は『飛べる』という切り札を切って来たみたいだけど、それを見せるというのはそうとう追い詰められていると思う。
腰に挿していた木の枝を抜き、遠距離から一撃を見舞う。
空間魔法:空間切断
私が作成した【空間切断】の黒い刃が、飛んでいる者を襲い、真っ二つにした。背にしがみついていたエルフも両断されて落ちて行く。
また、黒い刃はそのまま伸びて行き、砦を両断した。ついでに二撃目を撃ち、砦を水平方向に両断した。これであの砦には、屋根がなくなった。もう建物として使えないはずだ。
私は、墜落した者の元に向かった。
そこには、瀕死のエルフと魔人がいた。魔人は見たことがなかったけど、外見があまりにも異質だ。
この世界の知識は、一応王城で貰っている。まず間違いなく魔人族だと思う。
エルフと魔人は憎悪の目で私を見て来た。見るからに瀕死だ。多分、後数分で事切れると思う。
ただし、エルフは何かしらの回復を自分自身に使っている。魔法か薬品かは分からないけど、傷口が光っていた。体を両断されて大量の出血をしているけど、傷口を合わせて、止血を行なっていたのだ。魔力で損傷した内臓まで回復出来るのであれば生き残れるかもしれない。
私の知識では、後は敗血症が心配かな?
まあ、ここで止めを刺させて貰うのだが。
「な、なにもの・・・だ」
「元日本人です」
誰も分からないと思う回答を行う。エルフと魔人は困惑している。
木の枝を向ける。
「待て、待ってくれ」
エルフが、止めに入って来た。
それと結構回復しているのに驚いた。あれだけの怪我を負っても、口がきけるまで即座に回復したのか……。回復魔法は優秀だな。
「なにか? 話し合いの段階は、とう過ぎていると思うのですが……。命乞いですか?」
「我々も、そなた達ももう兵力が無いだろう? ここで休戦協定を結ばないか? 私はその使者だったのだ」
何かしらの書簡を渡して来た。
早とちりしてしまったのか。
だけど、違和感を感じる。夜襲の後に休戦協定? 昨日の夜襲がなければ、喜んで受け入れられたのに……。
思案してしまう。
今の私であれば、エルフ族を殲滅出来ると思う。先程、戦場とはいえ戦えない人達を傷つけたのだ。
私が、エルフの集落を襲っても文句を言えないと思う。
「我々エルフ族は、人族のように簡単には数を増やせないのだ。もう本当に絶滅寸前まで追い詰められている。信じて貰いたい」
「では、昨日の夜襲は何だったのですか?」
「エルフ族の危機を知った、魔人族が独断で行なったのだ。今、砦では罵詈雑言の真っ最中だ」
「その言葉を信じろと?」
「証拠はこの書簡で十分なはずだ」
信じられないが、筋は通っている。一応書簡を受け取った。
私はこの世界の文字が読めないので、王城に持ち帰り判断して貰おう。
そんな事を考えている時だった。
空が暗くなった。
数人の魔人族が飛んでいる。
そして、二人ほど降りて来た。
一応、木の枝を向ける。
「戦闘の意思は無い。この二人を迎えに来ただけだ」
瀕死のエルフと、もう事切れている魔人を見る。エルフ族は戦場で死体となった元味方を吹き飛ばしていたけど、魔人族は違うのかもしれないな。
「まあ、良いでしょう。一応、書簡も受け取ったとお伝えください」
魔神達が飛び上がった。
飛べるというのは、羨ましいかもしれないな。絶対的な制空権を取った状態で魔法が撃てるのであればこれほど簡単な戦争も無いだろう。覚えてみるのも良いかも知れない。
こうして、その場には私以外、誰もいなくなった。
だけど、まだ終わらなかった。
上空より、魔人族が魔法を撃って来たのだ。私を中心として周りが吹き飛んで行く。
私は警戒を解いていなかった。反射で、【空間断絶】を展開し、魔法の効果の及ばない空間を生成していた。
数分の後、爆撃が止んだ。周りは土煙で視認出来ないだろう。
私はその状態で、【転移】して物資の集積所に帰った。
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