第6話 強襲
私は、物資の集積所に帰って来ると、見張り台を駆け上がった。
見張り台の上には、司令官と数人の将兵がいた。
こうなると、ごまかしきれないな。
まあ、隠す必要も無いのだけど。
「エルフ族の軍隊は、八割程度削って来ました。今は、同士討ちを行なっていますね。この事を、国中に知らせてください」
司令官は、信じられないと言った表情で私を見て来た。
だけど、将兵を含めて全員が頭を下げてきた。
司令官達には、見張り台を降りて貰った。色々とやらなければならないことがあるだろうから。
今私は、見張り台からエルフ族の軍隊を見続けている。
同士討ちは、十分くらいで終わったけど、生き残った軍隊は、その場に留まり続けている。
目に魔力を集めて、【望遠】を行う。即興だったけど意外と簡単に出来た。
エルフ達は、怪我の手当を行っていた。
まあ、動かせばそのまま亡くなりそうな者も多い。応急処置をして『元勇者が守っていた砦』に移すのが妥当だろう。
それと、後軍が追いついて来た。手当を手伝い始めたのだ。
ここでもう一度襲撃を行えば、全滅させることが出来る。
思案してしまう。
ここで、エルフ族を完膚無きまでに叩きのめす意味があるかどうかだ。
どちらかが絶滅するまで殺し合いを行うのではなく、出来れば休戦協定を締結させて欲しい。いや、させたい。
その後に和平を結んで欲しい……。
結局、再度の襲撃を行うことはしなかった。
戦争だと言うのに自分でも甘いと思う。……苦笑いが出た。
◇
夜になり、宴会が始まった。
まあ、残った人数は少ない。これだけの大勝をしたというのにささやかな宴会だ。
また、見張りも立って貰っている。一応警戒は解いていない。食事は運んで貰っているけど。
アルコールが注がれるけど、飲めないと言うと、果汁が出て来た。
司令官は、もうご満悦だ。
踊っている人や、酔っ払って歌っている人達もいる。
貴重な食材を用いた料理を頂く。
前世の食事と比べれば、美味しくはない。だけど、周りが笑顔だと不思議と美味しく感じてしまった。
とりあず、夜も遅くなったので、寝ると伝えて自分のテントに戻ろうとした時だった。
月明かりだったのだけど、その光を何かが遮った。
反射的に上を向く。
何かが飛んでいた。それも複数だ。
満腹状態だったのも悪かったのだろう。思考が止まっていた。
そして、魔法による爆撃が始まった。
◇
初撃が私に当たらなかったことが幸いした。
私は、【空間断絶】で自分の身を守ることで精一杯であった。
数分の爆撃の後、飛んでいた何かは帰って行った。方角は、エルフ族の軍隊がいる方向だ。
今は、あれが何かを考えている場合じゃない。
とりあえず、宴会を行なっていた場所に戻った。
しかし、それは無意味だった。
元宴会場は、真っ平らになっており、何もなく誰もいなかったからだ。
元々残った人は少なかったのだ。被害者数は少ないと言って良い。ただし、司令官がいなくなってしまった。
そして、見張りに立っていた人達は生き延びていた。
頭だけを刈り取られたのだ。とても効率的な攻撃だと思う。戦術的な美しさを感じる。まあ、攻撃を受けた側としては最悪でしかないけど。
これは、私の甘さが招いた結果かもしれない。
歯ぎしりをして、その苦さを味わった。
◇
全員を集めて、確認を行う。
「司令官は亡くなったと思います。私達には、ここで防衛戦を行う義務はなくなりました。全員で王城に連絡するために向かってください」
「勇者殿はどうなされるのですか?」
「私はあの爆撃を行なった者を探ってから、王城に向かいます。このままでは、エルフ族の軍人が数人でも王城に近づいたら、人族は終わりだと思います。情報だけでも持ち帰ります」
「それについて一つの推論があります。魔人族です。魔人族には飛べる者がいると聞きました。また、エルフ族と魔人族は友好関係にあります。人族と獣人族の関係に近いと言えば分かりますか?」
この、物資の集積所には、獣人と呼ばれる人達もいた。特に差別されることもなく仲間として暮らしていたのである。
そして、魔人族か。
「魔人族以外の可能性はありますか?」
「消えた、鬼人族もいますが、今になって現れるとはとても思えません」
「エルフ族が、魔法で飛んで来た可能性はありませんか?」
「いかにエルフ族と言えど、あの高度を魔法で飛ぶことは不可能です。今考えられるのは、魔人族だけです」
この後少し情報交換をして、彼等には朝日と共に王城に向かって貰った。
さて、私は調査と行くか。
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