第9話 大規模破壊

 時間が出来たので、魔人領を見て回った。

 魔人は低地は好まないらしい。雲よりも高い標高の山の山頂に城を築いていた。

 山はいくつもあるけど、大きい城は、確認できただけで、三城だった。

 住むのは良いのだけど、何を食べているのだろうか? 食べる必要がない? まあ、興味無いが話せる機会があれば聞いてみよう。王城には、魔人族のことを知っている人もいるだろうし。



「もう良いかな?」


 太陽が地平線に沈む頃になっていた。

 二度目の静かな宣戦布告を行う。

 目立つ場所に浮いていたのだけど、意外にも魔人族は私に攻撃を仕掛けて来なかった。いや、浮いていたと言うよりは、【空間断絶】を作り座っていたか。


 立ち上がり、木の枝を抜く。

 心を鎮める。もう何千人と命を奪ったのだ。ここで止めることは出来ない。


 山の中腹に向かい木の枝を横薙ぎに払った。


 ──ズズズ……


 大地が揺れ、大気が震えた。

 一つ目の山は、半分の高さになった。轟音と共に悲鳴も聞こえる。ここで、考えを改める。


「住みやすい土地を奪うのは良くないかもしれないな」


 二つ目の山を見る。

 木の枝を頭上に掲げて真下に振り抜く。厚さ一μmの刃が、山を両断した。山頂にある城は、数秒の後崩れ出した。だけど修理すればまだ住めるだろう。

 そう思った時だった。

 地面から大きな音が鳴り始めた。


 ──ゴゴゴゴゴ……


 私は空中に浮いているけど、地震が起きているのは分かる。大気が震えている。

 何をしてしまったのだろうか? 自分でも分からない。


 直後、二つ目の山が噴火した。


「活火山だったのか。よくそんな山に住んでいられたな」


 私は、【空間断絶】で噴石を避けつつ、三つ目の山に向かった。

 ここでようやく魔人族が出て来た。数にして百人かな?

 特に気にすることもなく、私はそのまま進んだ。


 魔人達は挨拶もなく、攻撃を始めて来た。先程、魔法や剣は何も効かないと教えただろうに……。学習して欲しいな。

 それでも必死の形相で魔法を打ち込んで来る。私は黙って受け続けた。


 魔人達は魔力が尽きると墜落して行った。勝手に自滅を始めたのだ。

 本当に無駄な戦闘だな……。


 しばらくすると、三人が残った。攻撃をしてくることもせず、ただただ私を見ている。


「こちらの要件は伝えたはずです。休戦協定に応じて貰えますか?」


「舐めるな、人族が!! 今日は完敗かもしれないが、我々は貴様を見続けて必ずその生命を奪ってやる。そして、同胞の墓前に……」


 聞くに耐えなかったので、三人を切断した。

 本当に傲慢な人達だな。

 でも、私がチンパンジーに頭を下げるようなものなのかもしれない。共存共栄……。難しいことは、後の世の世代に任せよう。

 私は、この時に最善と思われる行動を取るだけだ。

 私が……いや、私達がこの世界に呼ばれた理由を思い出す。

 〈終戦に導く〉……。最短と思われる方法を取る。


 三つ目の山の山頂で【収納】を〈開放〉する。

 隕石メテオ……。そう思わせる大岩が山頂を押しつぶした。

 事前に山を一つ〈収納〉していたので、大岩というか、山が、魔人族の山に衝突した。山頂にあった城は、大岩に潰されて、もう見えない。その後、山体崩壊が起きた。


 後になって思う。大量の水でも良かったかもしれないな……。

 やりすぎたかな?


 最終的に、白旗が振られたので、帰ることにした。交渉は、私の仕事じゃあない。

 それにしても、この高度は寒いし酸素が薄い。前世では、飛行機部隊がいたけど、厚着をしていた理由が分かった気がする。

 もう必要ないかもしれないけど、【飛翔】は考える必要があるな。属性魔法との併用が実用的だと思う。火魔法で周囲を温めて、風魔法で酸素の生成……。

 そんなことを考えながら、人族の王城へ向かった。





 私は魔人領への襲撃の後、王城に帰って来た。良い思い出のない城だけど、報告はしなければならない。

 王城は、最終決戦の準備とばかりに慌ただしく人々が動いていた。

 私が王城の広間に着地すると、一斉に視線が集まり驚かれた。そして、慌てた兵士に囲まれる始末だ。


「私は『無の勇者』です。王様にお取次ぎをお願い致します」


 そう言うと、兵士の警戒心が解かれた。

 緊張していたのだろうな。力が抜けて座り込んだ者もいる。

 魔人族は、空爆を行って来たのだから、まあ、気持ちも分かる。


 暫く待つと、王様と大臣が駆け寄って来た。そして涙を流し、私の手を取った。頭も下げて来た。エルフ族の情報は伝わっているみたいだ。

 それに習い、王城のすべての人が私に頭を下げて来た。


 だけど、今は急ぎたい状況にある。

 王様に、エルフの書簡を渡して、エルフ族とは早急に休戦協定を結ぶように進言した。

 王様は頷き、次の日には、使者が旅立って行った。

 エルフ族に関しては、これで大丈夫だと思う。


 後は、魔人族だな。どうゆう行動に出て来るかは読めない。

 警戒は怠れないな。





 七十日目。


 私は、王城の北の見える部屋で待機していた。王様には、食事以外には誰も部屋に近づけさせないように言ってある。

 なにをするわけでもなく、ただ風景を眺めていた。


 北の空に、小さい点が見えた。明らかに飛行生物である。目に魔力を送り、〈遠視〉を行う。

 翼が生えた人型……。


「……来たかな。遅いって」


 飛んでいる魔人族が目に入った。魔人領の襲撃を行なって十日以上が経過していたのだ。再度、私が行こうか悩んでいた。

 魔人が来た場合の指示は出してある。無差別に攻撃して来たら私が防ぐので節度ある態度で対応して欲しいと、王様にお願いしたのだ。


 魔人は、城門の前に降り立ち、挨拶をして門を潜った。

 態度だけで分かる。節度ある人が来たようだ。


 私は、その場を後にして、その使者に会いに行った。

 いや、玉座の間に向かった。


 交渉事は私の仕事ではないのだけど、結末は見届けなければならない。

 それに、使者でなく暗殺者の可能性も捨てきれなかった。

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