第2話 戦場
四人には、豪華な馬車が用意されていた。
そして私には、徒歩で行けとの王命だ。
まあ、豪華な馬車であろうと、サスペンションのない乗り物などに乗りたくもない。
この世界の地図を貰い、方角を教えて貰う。幸いにも道は出来ているので迷う事はないと思う。
『火の勇者』が五人を集めた。
「生きてまた会おう! そして、異世界無双してやろうぜ!!」
英雄願望と言うのかな? まあ、こうゆう奴が『英雄』とかに選ばれると思う。
四人は意気揚々と出発した。
さて、私も行くか。
八割程度の力で走り、軽く馬車を追い抜いて先を急いだ。
そして日暮れ前に、物資の集積所に辿り着いた。
◇
この世界に来て三十日が過ぎた。
今日も荷物の積み下ろしだ。
朝起きて行く場所がある。仕事がある。やることがある。
前世で引き籠もることがあったので、今の生活は結構充実しているかもしれない。特に魔力によって、他者とは比較にならないほどの仕事量をこなせることが自尊心をくすぐった。
簡単な仕事だけど、称賛と尊敬の言葉を受けるのは嬉しい。
本来であれば、数日かける仕事を一日で終わらせて、皆で休日を過ごすというのも楽しかった。
時間が出来始めると、別な命令が来た。
堀を作れと言われた。塹壕と言った方が良いかも知れないな。ノルマはこなしているので受ける必要も無かったけど、まあ命令なんだ……、従うか。
鍬を渡されて地面を掘る。
──ポキ
……鍬の柄が折れてしまった。それを見て司令官が何か騒いでいる。
少しすると、全て鉄でできた鍬を渡された。司令官はドヤ顔だ。
ちょっとイラついてしまった。
──ドゴン
鉄でできた鍬が壊れた。鍬の先端は地面に刺さったが、柄は曲がってしまい、地面にはクレーターができていた。また、地割れも発生している。司令官は真っ青だ。それでも、司令官は気を取り直してまた指示を出し始めた。
次に来たのは、見たこともない金属で出来た鍬だった。後で聞いたら、
前世の記憶にない物質だ。とても軽いのだけしか分からなかった。いや、見た目が美しいとも感じたか。不思議な輝きを放っている。
まあ良いや。全力で振ってみる。
──ドゴ~ン
驚いた。私の全力に耐えたのだ。司令官を見ると青い顔で汗だくだった。
まあ良い。良い物を貰ったので、仕事をしよう。
鍬を振り下ろす度に地震が起き、鍬を持ち上げると大量の土砂が空を舞った。朝から晩まで鍬を振るって、総距離にして10kmほどの塹壕が出来上がった。
司令官は、戸惑いながらだが、私に称賛を送り、司令室へ行ってしまった。
塹壕から出ると、集積所で働く同僚から拍手喝采を受ける。少し照れてしまった。
この時は、幸せだったのかもしれない。
だけど、この生活も長くは続かなかった。
前線から、敗残兵が逃げて来たのだ。
話を聞くと、初めにあの四人は、大規模魔法でエルフ族を押し返して戦場を五分に戻したらしい。
しかし、時間が立つにつれて対策され始めた。始めに犠牲になったのは、『火の勇者』だった。
エルフ族は水魔法の使い手をかき集めて、『火の勇者』を無力化したとのこと。魔力の尽きた『火の勇者』は、エルフ族に討ち取られて、首を晒されたらしい。
『火の勇者』を失った前線は崩壊し、今逃げて来た者以外は戦死か捕虜になっているとのこと。
エルフ族はそのまま、隣の『風の勇者』が陣取る砦に向かったらしい。
話を聞く限り絶望的だ。各個撃破され始めたのだから。
前世で『孫子の兵法』とか言うのを読んだことがある。戦力は集中させて一点突破を図るのが、常套手段とか書いてあった気がする。あの四人が纏まって行動すれば、エルフ族は手も足も出なかっただろうに。
さて……、どうするか。
物資の集積所は大混乱だ。『風の勇者』の砦に援軍を送るだの、『火の勇者』の陣を奪還しに行くだの、色々な噂が飛び交っていた。王城に報告を行うのが第一だろうに。
ため息をついて、自分のテントに戻った。
◇
三十一日目。
物資の集積所は、まだ混乱している。
この分だと今日の仕事はないな。
自分の身は、自分で守らなければならない。
今日は、魔法の練習を行うことにした。
この世界に来て、魔力について考えていた。魔力とはなにか? 明確には、誰も分からなかった。ただ、体から生み出される未知のエネルギー。今のところ、身体能力強化か精霊による魔法の発現しか使い道がない。
だけど、私は一つの可能性に行き着いていた。
地面に円を二つ描く。①と②としようか。
①の上に物資を置く。そして、円……魔法陣と呼ぼうか。魔法陣に魔力を流して行く。
空間を繋げるイメージ。いや、空間を歪ませるイメージ。
①の上に置かれた物資は、②の上に移動していた。
この世界で始めて、【転送】が発現した瞬間だった。
私の予想では、魔力とは物質だけではなく、空間や重力そして時間にも作用する物だった。
時間を掛けて実験を繰り返せば、実証出来ると思う。
この世界では、科学技術がそれほど発達していない。なので、精霊に魔力を渡し物質に作用する『目に見えた成果』に価値観が見い出されている。
精霊が私の魔力を受け取ってくれないのであれば、私はこの世界の理を改ざんしよう。
時間がないので、イメージしやすい『空間魔法』からかな。
私は、【転送】の練習を繰り返していた。そうすると、人が集まってくる。まあ、見たことないものな。注目されるのも分かる。
次に家畜を持ってきて貰い、【転送】してみた。何の外傷もなく家畜は生きていた。
二点間の空間を繋げるイメージは、問題なく作用することが立証されたのだ。
一応、家畜には晩御飯になって貰った。
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