空間魔法が無かった世界
信仙夜祭
第1話 プロローグ
「魔力を持っているのに魔法が使えないって、どういうことですか?」
私こと、
時間が少し遡る。
私は死亡したはずだった。いや、死亡したと思った。一人暮らしのアパートで倒れて、持病が悪化して動けなくなった。声も出せない状況での孤独な時間を味わい、やっと解放された。
生来体が弱く、徹夜や無理な運動などできない人生だった。
友人もできなかった。学校に行っても貧血や倒れたりして、迷惑をかけたので、学校からは足が遠のいてしまったな。
軽作業の職を得て、のんびりと人生を謳歌していたのだけど、体の中で何かが弾けた感じがした。
だけど気が付くと、白い空間にいて、神様を名乗る存在と会話することになる。
神様からは、依頼をこなせば生き返らせても良いと言われたが、輪廻の輪に戻らせて欲しいと言うと喧嘩になった。前世に未練はなかったからだ。来世に期待したい。
そうすると、私以外に四人が白い空間に入って来た。
私が拒否したからだろうか? だけど、私と同じくらいの二十歳前後のその若者達は、喜んで神様と会話していた。
私は興味無く聞いていたのだけど、魔法のある世界に異世界転移し、戦争を終結に持って行って欲しいと言うことだけは分かった。
私は戦争には関わり合いたくない。
嬉々として神様と話をする四人が理解できなかった。まあ、私の代わりが来たのだ、私はお払い箱だと思う。
無駄と思う時間を過ごしていると、神様から話しかけられた。
「それではキャラメイクは終わりで良いですね。それでは、異世界で頑張って来てください」
私も行くことになっていた。何のキャラメイクもしないまま……。
◇
気がつくと、絨毯の上に寝ていた。
周りを見渡すと、四人がいた。白い空間で出会った四人だ。
こうなると、五人での異世界転移したことを認めざる負えなくなったな。
正直、最悪だ。
私はキャラメイクの話を聞いても何もしなかったからだ。そして報酬の話もなく、戦場に行けということになる。
やる気が出るはずもない。
豪華な服を着た人達が集まって来た。文字は読めないけど会話はできので、話だけでも聞くことにする。
この世界には、人族以外の知的生命体がおり、種族間で戦争を起こしていた。
そして今優勢なのが、エルフ族だ。四大属性魔法を駆使して、大規模破壊を繰り返し人族を追い詰めているのだとか。
このままでは、人族は滅んでしまう。そんな時、神託が下った。
人族の頼みを神様が聞き届け、この五人が召喚というか異世界転移して来た……、と。
宴会が始まった。
豪華な食事と共に、この世界の基礎知識を教えて貰う。まあ、味は良くない。私の前世よりも時代が大分遡っている感じだ。
また、料理も異国を思わせるので、正直口に合わなかった。
とても、やる気が出ないまま、話だけ聞いてその日は終わった。
◇
そして、次の日に運命の時が来た。
キャラメイクで選んだ【スキル】を、王族貴族の前で披露することになったのだ。
私は何も選んでいない。
とりあえず、一番最後にして欲しいと言って、他の四人の【スキル】を見ることにした。
四人はそれぞれ、火魔法・風魔法・水魔法・土魔法の極振りを行なっていた。
王城の広間でそれぞれが、大規模破壊魔法を披露して拍手喝采を受けているのを、とても奇妙な感覚で見ていた。
これから戦場に送られるんだぞ? エルフ族とはいえ、人殺しを喜んで手伝おうとする四人の思考が理解できなかった。
そして、私の番だ。
「キャラメイクでは【スキル】を何も選びませんでした。自分でもどんな【スキル】を持っているか分かりません」
そう言うと、ザワザワしだした。
王様が、『鑑定士』とかいう人を呼んで、自分を調べ始めた。
ここで分かったことは、ありえないほどの魔力を秘めているということだけだ。それこそ常人の千倍、魔力の多いエルフ族と比較しても百倍はあるらしい。
だが、それだけだった。
魔法が使えなかった。
魔法とは、体から魔力を生成して、それを『精霊』が受け取り、奇跡を起こす。
だけど、私の魔力を受け取る精霊はいないと言われた。
どうやら、キャラメイク時に四大属性魔法の使用の可否を決める必要があったらしい。
〈魔法の素質〉とか後から聞いた。
◇
この世界に来て、五日が経過した。
私は魔力の使い方を訓練していた。
魔力とは、精霊に渡して奇跡を起こすだけではなかったのだ。生成した魔力をそのまま自分の体で吸収すると
私はまだ魔力操作が怪しいので、限界以上の
私は、幼少期より病弱だった。学校も休むことが多かった学生生活だったな。高校卒業と同時に親元を離れ、簡単なディスクワークの仕事に就いていた。出来れば、激しい運動はしたくないんだけど……。
とりあえず、
ジャンプすれば、五階の屋根まで飛べた。走れば、馬よりも速く走れる。力を溜めれば、目にも止まらない速さで動くこともできた。
そしてスタミナだ。日に100km走っても、まだ走れた。
これだけでも、魔力の凄さが分かる。
「あの病弱な体が、ここまで動かせるようになるなんて……」
他の四人を見る。
まず、
それよりも、大規模破壊魔法が楽しいらしい。
いくつものクレーターを作成して、嬉々として魔法の試し打ちを行なっていた。
属性が違うので優越は付けられない。
それでも、彼等は互いに称賛し合っていた。
その後、王命が下った。五人には『勇者』の称号が贈られて、戦場行きが決まったのだ。
『火の勇者』、『風の勇者』、『水の勇者』、『土の勇者』、そして私には『無の勇者』の称号が付いた。
戦争終結時には、『英雄』の称号を贈るとも言われた。
四人は前線にバラバラに配属され、私は後方の物資の集積所に行くことになる。
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