外伝42インターミッションラスト:ゴンザレス、教師になる5
わたし、メアリーの人生は控えめに言って地獄だと思った。
「誰のおかげで生活できてると思ってんだ!」
「あうっ……」
殴られているのは新しいお母さん。
先生にはああ言ったけど、新しいお母さんは私を殴ったりしない。
その身体でお父さんから私と来たばかりの妹を守ってくれている。
私を産んだお母さんは私を連れて行ってくれなかった。
新しい男と暮らすのに私は邪魔だったのだ。
どっちもどっちで2人して浮気して、残された私はせめて妹を守るだけにその人生の全てを賭けるだけだ。
どこにでもこんな地獄はあるのかもしれないし、ないのかもしれない。
ただ言えるのは、この地獄はきっと私が死ぬまで終わらない。
そのお母さんを踏み越えて、お父さんは私に迫る。
「テメェ! その目はなんだぁ!!」
手を振り上げるお父さん。
後ろの幼い妹が私の服をぎゅっと握った。
殴られても私はここをどかない!
そのお父さんの背後で天井スレスレに飛び上がったエルフィーナ先生が、カンセイの法則を無視して斜め下のお父さんに向けて蹴りを放った。
「エルフ、キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイック!!!!」
巻き起こる旋風!
それに巻き込まれ回転するお父さん!
ドゴンとおおよそ何か巨大なエネルギーが炸裂したような音が遅れてやってくる。
後には巨大な大穴を床を吹き飛ばし大地に刻みつけた。
衝撃波に巻き込まれ10回転ほどその場で回転し倒れたお父さんの横で、ゆるりとエルフィーナ先生が立ち上がる。
「ちっ、外したわね」
「死ぬわぁぁぁぁあああああああ!!!」
気づけば黒目黒髪の女の人が、お母さんと私たちを衝撃波から守ってくれていた。
その横で衝撃波に巻き込まれたゴンザレス先生が逆さまになった状態で叫んでる。
「なによ、手加減したじゃない」
手加減してコレらしい。
「まあ、なんだ。後は任せろ」
そう言って起き上がったゴンザレス先生はお母さんを抱きしめた。
その頭をエルフィーナ先生がペシっと叩く。
「女増やそうとしてんじゃないわよ」
こうして、つい先程まで死ぬまで終わらないと思っていた地獄は、唐突に終わった。
狐につままれたという言葉がある。
それほどあっけなく終わった地獄の後、お母さんは住居手当て付きの優良な仕事を紹介されてウキウキしながら働いて、私も妹も地獄から解放されて仲良く学校に通っている。
お父さんはいまは教育を受けてもう一度真人間としてやり直しをさせてもらっているそうだ。
聞けば、似たような環境にあったケニーちゃんやケンタ君も、エルフィーナ先生とおまけでゴンザレス先生のおかげで地獄から抜け出せたらしい。
その2人の先生はもういない。
聞けば臨時期間が終わり、また次の学校に行くのだとか。
そして、私たちは教えられる。
「先生、帰っちゃうったの?」
「先生、実は王様なんだって!」
「エルフィーナ先生は王妃様なんだって!」
「うっそだぁー、全然偉そうじゃないしー」
「本当に偉い人は偉いんだから偉そうにする必要がないんだよ!」
「そういえば、あの2人に助けられたと言ってる先生たちに聞いたんだけど、ゴンザレス先生ってほんとは……」
そして、やがて大人になる子供たちは知る。
その正体を。
「結局さ、当初の目的を忘れた国家は滅びるんだよ。子から孫へ、またさらにその子へ守り引き継ぎ育てていかなければ国が滅びるのは必然ってもんさ」
今回はバカ野郎にエルフ女がケリを入れて回ったが、いつか誰もがそうやって子を守らなくなれば、そんな国は滅びるし滅びたほうがマシだ。
「でも俺、もう2度と教師とかしないからな!」
「はいはい、じゃ、次行くよ〜」
次ってなんだ、次って!?
そうして2人は旅立って行った。
きっと子供と頑張る大人を助けるために次の場所へ。
官僚たちが会議のために集まった部屋に寝そべってくつろぐ男。
官僚たちに各地方の学校に行って教え『育てる』ということはどういうことか学べと。
かつて官僚の国があった。
科挙と呼ばれる試験さえ突破するほどの優秀さであれば貴族でなくても採用される、それは実に画期的なシステムであった。
ところが時代は積み重なり、科挙は無意味にその難易度を高め、官僚は貴族と同様腐敗した。
新しいものを跳ね除け国家はその力を弱め、崩壊へと向かう。
その時代にあった制度、空気を取り入れねばならない。
システムだけでは人は救えない。
そのシステムを扱うのは人だからである。
そうして伝説が一つ加わる。
ふらりと現れ、悪いヤツを懲らしめて必死に生きる人たちを救い、子供を救う心優しき伝説の『教育者』の物語。
20年後、1人の女が教壇に立つ。
その名をメアリーと言った。
彼女は語る。
世界最強と呼ばれた、ある人物のことを。
決して世界の叡智の塔に刻まれることのないその名。
世界最強と呼ばれた存在がいる。
曰く、魔王すら指先一つで滅ぼす勇者
曰く、万の敵すらも打ちのめした英雄
曰く、女神に選ばれた聖人
曰く、世界を統べる王の中の王
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
その伝説は数多く、数え上げたらキリがなく、どれほどの偉業があるのか誰も真実を知らない。
それが、世界最強ランクNo.0
でもね、とメアリーは語る。
そんな伝説よりもそばにいる人たちに、そっと手を差し伸べてくれた優しい先生のことを。
彼女を地獄からあっという間に救ってくれた詐欺みたいな話を。
彼女は語るのだった。
──そして、伝説は引き継がれる。
ゴンザレス、教師になる
完
世界最強、その名はランクNo.0彡☆ パタパタ @patapatasan
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