外伝41インターミッション:ゴンザレス、教師になる4

 まあ、この場合は特効薬ではないが手立てがなくもない。


「なによ、あるんじゃないの」

「まあな。結局のところ教師とか指導者というのは一種の専門家だ。得意分野が各自違うんだから、それ専門のチームを配置すれば良いんだよ。ただなぁ……」


 金も人もかかるのだ。


 そもそも労働力である子供を学校にいかせられるだけで随分豊かなのだ。

 それに付け加えて、余剰の人を集める金が降って湧いてくるわけではない。


 それに全体的なシステムが悪いわけではない。

 人と人が向き合う教育に本当の意味の正解などないのだ。


 正解などないものに向き合う時間が教える側にないのがそもそもの大問題なので、そこを改善できるだけで随分違う。


 だが、誰も改善しないし、その余裕はない。


 悪いのは自分ではなく、他の誰かである。

 そう思うのは人の性質だ。

 そうやって複雑な社会で心を守るしかない。


 人はまずもって生きるだけで精一杯なのだ。

 だが、そこに詐欺はつけ込む。


「お金もない、人もいないならどうしようもないでしょ?」

 エルフ女がへにょっと困った顔で尋ねる。


「いるだろ、暇なやつ」

「へ?」


 クレーム入れてくる親らしきものとか近所の人(無関係!!!!)な奴らだ。

 そいつらは文句を言いたいだけでもあるが、逆に暇でもあるのだ。


 金とか口実とかあるなら喜んで転ぶ!

 忙しく真面目に生きてる奴はそもそも、そんなに暇じゃねぇ!


 まずそいつらを教育だ。

 最低限度のやって欲しいことを教え込めば、それだけやってくれる。

 なぜなら、それしか知らないからだ!


 決めたからには即座に動く。

 詐欺はスピードが命。

 バレる前に動く。

 詐欺じゃねぇけど。


「とにかくだ。新規にチームを用意するわけだからな、ノウハウの蓄積はこれからだ。教師との調整も必要だ。とりあえず、このクラスの他の担当はどこだ?」


 そう尋ねた俺にエルフ女はキョトンとした顔で首を傾げる。


「他の担当ってなに?」

「俺たちは臨時教師だとしても2人だけだ。30人もいる子供を見るんだ。2人だけなわけないだろ?」

「なに言ってんの? 私たちだけよ」


 エルフ女はまたしてもキョトンとした顔をする。

 各地で臨時教師をしているエルフ女がそんな顔をするということはこれって全国の問題なのか?

「えっ、詐欺じゃなく?」

「えっ、なんで詐欺?」


「このクラス30人いるぞ? 俺とお前でも1人15人なんだけど?」

「そうよ? むしろ人数に比べて2人『も』いるけど?」

「馬鹿なの!?」

「なんでよ!」


「人が一度に見れる人数は7人までだぞ?

 見るべき内容が限定されているならともかく、聞いてる限り心のケアもだろ? どんな仕事でも人を教えるときにはそんな数相手にまともな教育にならねぇよ!」


「軍隊でも将軍とか何万とか見てるじゃない」

「将軍がメンタルケアなんかするか? しねぇだろ? そもそも小隊規模にも隊長と補佐する副官が複数、さらに個別チームでバディ組んでたりするぞ。大人でそれだ。せめて子供にも同程度にはしないと無理だろ?」


「子供たちで班長はいるわよ?」

「その班長は班員のメンタルケアができるか?」


 その班長自体が成長過程だ。

 学校教育にメンタルケア……心の教育を持ち込んだ時点で教師の数的に無理があるのだ。


 まったくできないわけではないが、教師だけで徹底的に心のケアするなど無茶苦茶だ。

 神様ですら選んだ人しか救わないのに、教師だけでなんでもかんでもできるか!


「そもそも、『育てる』ということをなめてんだよ。とにかく人数を増やせ。仕事として手分けをすれば応急処置にはなんとかなんだろ……」


 俺はあまりの現状に肩を落とす。


 とにかく本来は、学校という教育は最低限で良いのだ。

 それ以上の教育は過程が進む中で、学びたいやつが学べるようにしてやれば良い。

 その最低限をまず整えさえすれば。


「人を増やすには省庁とかその直轄構成員の会議と承認がいるわよ?」

「なら、すぐ話を通せ。その担当は学校にいるんだろ?」


「いないわよ?」

「どこにいるんだよ?」

「行政特区の役所だけど?」

「なんでそんなところに……、ああ、出張か?」


 それともチーフマネージャーのように何件も掛け持ちか?

 そりゃ忙しいな。


 俺がそう言うとエルフ女はまたしてもキョトンとした顔で首を傾げる。


「学校になんてくるわけないわよ?」

「なんで来ないんだよ、仕事だろ?」

「なんで来るの?」

「へっ?」

「えっ?」


 今日だけで何回このやり取りしているんだろう。


「現場も見ずになんでそいつらが決定権を持っているんだ?」

「現場は見ないけど、なんでか決定権を持ってるわね?」

「……全員殺せ」

「おー……、あんたがそんな物騒なことを言うの初めて聞いたわ」


「子供の未来をなんだと思ってるんだ!

 いますぐ俺の前に全員正座させに来い!!」


 教師の意見を潰しておいて、その教師の能力に依存し切ったシステムが崩壊するなど分かり切っている。


 そいつら首にして専門家を雇う。

 学校長と専任管は最低でも現場をよく知る人間だ。

 時代とともに変わるのだから、それも変化していかないといけない。


 なので、改善を求めて俺たちは教師たちのさらにさらに上、行政特区にある文◯科学省に向かった。


 そこでは下の人たちは書類を抱えて走り回っていた。


 ここも教師たちと一緒やん……。


 そして夜になっても死んだ目で仕事をしているのだ。

 それでも休日に24時間ほど寝られるからマシなのだそうだ。


 大丈夫? それって死んでない?

 シュトレーゼン、こんなのばっかかよ!


 そいつらの上司で無茶振りしつつ権力を振りかざしているゴミがいたので、とりあえずエルフ女がぶちのめしてくれた。


 ぷちっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る