雪に閉ざされた小さな村での美しくも哀しい深紅の悲劇


主人公の『私』視点で日清戦争後の情景が細やかに描き出されていてタイムスリップしたような心地になりました。


また田舎特有の親密で温かいながらも陰湿で閉塞した雰囲気の寒村に帰ってきた『私』が過去の自分の記憶を掘り起こしながら、村の隠された真実に辿り着くまでの一部始終は、平穏としながらもやはりどこか虚昏く、ゾクゾクとして読者をいい意味で不安にさせます。


村人たちにとっては因習を断ち切るという意味では救いだったのかもしれないけれど、『私』と佐保子さんのことを思うと……。時代が違えば展開はまったく異なった結果になったのかもしれません。かつては実際にそんな村もあっただろうと一考する切欠として興味深かったです。また雪女郎の伝説やその他の怪異も源としてはこのような人間の深い業から生まれたものなのかもしれないと思いました。

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