散華の紅雪

香竹薬孝

 坊さん 坊さん どこ行くの

 あたしは野道へ 菜を摘みに


 坊さん 坊さん どこ行くの

 あたしは田んぼへ 草刈りに


 坊さん 坊さん どこ行くの

 あたしは深沢へ 芝刈りに


 坊さん 坊さん どこ行くの

 あたしはお山へ 餅つきに


 あたしも一緒に連れしゃんせ

 一緒に行こか ふたり手引ィて


 三叉の辻を三つ曲がり

 四つ夜風コ ビュンと吹く夜は

 五つ堤を 五度巡り

 七つに足らぬ 六つ子を連れて

 八つ八島の女郎コは

 吹雪吹きゃがる 九やコンコと

 峠越えリャず 紅い花コ咲いたと

 ハア 坊さん 坊さん

 後ろの正面――


 

 そこは、真っ白な世界だった。

 そして、真っ暗な世界だった。

 何も見えず、何ももう聞こえない。

 さっきまでは、ごうごう、びゅうびゅうと恐ろしい風と吹雪が僕を凍えさせ、追い立てた。でもやがてそれも止み、今は何も聞こえず、何も見えない。真っ暗だ。でも僕が今いるのは真っ白な世界だというのは何故かわかった。もしかしたら、まだごうごう、びゅうびゅうは続いているのかもしれない。でも、もう何も感じない。さっきまで僕をここに連れてきた誰かを必死に探し回って大声で呼びながら泣いていたような気もするけど、もう何も思い出せない。

 ただとても眠かった。このまま眠ってしまったらどんなに幸せだろう。

 とても静かだ。とても冷たい。とても寒い。とても、眠い――



 はっと顔を上げると、真っ白な人が目の前に立っていた。

 女の人だった。顔は見えないけれど、とても懐かしいような気がした。

 胸に、真っ赤な花を抱えていた。

 怖くはなかった。もうそんなことを考える気持ちは、どこにも残っていなかった。

 女の人は僕の前に屈みこむと、優しく僕を抱きしめてくれた。

 初めて女の人の顔が見えた。

 その人は僕の知らない人のはずなのに、何故か母さんと同じ匂いがした。

 みると、僕の周りに、ぽつ、ぽつと紅い花が咲いていた。

 もう何も見えないはずなのに。

 真っ白な世界で、

 真っ黒な世界で、

 その花はとても紅くて、とても綺麗に咲いていて、

 その花が一体何なのか、

 この女の人は誰なのか、




 ……何もわからぬまま、私は再び目を閉じた。



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