狂気とエゴが入り乱れる、『普通』じゃない人々による短編ホラー集

完結済み長編作品という分類ですが、中身は全50エピソードからなる短編集です。
ホラーといっても心霊的なものではなく、所謂『人怖』と呼ばれるような、生身の人間達が織り成す狂気や非日常、あるいは日常に潜む悪意や不快感といったものばかりで構成されていました。

どれも独立した内容でオムニバスとなっていますが、中には繋がりのあるエピソードもいくつかあるので、そういう繋がりを探したり考察しながら読むのも面白かったです。
更にはただ単に怖いだけでなく、切なかったりエモい話もあり、最後まで読んだ時の満足感やボリュームというのは、実際のエピソード数以上のものがあると感じました。
個人的には#3『Wanna be A子さん?』と#6『winner』と#14『鯛から逃げたい』と#20『生存権っておいくらですか?』そして#49『揺蕩って、叱って、愛して』が好きなエピソードベスト5ですかね……!他にも好きな話はたくさんありますが……!
50話のボリュームがあるので、読んだ人達もきっとそれぞれ刺さる話や好きなエピソードを見つけられると思います。

ただ多くのエピソードがある割には、各話の主人公が主に子供~30代くらいまでの若い男女、そして学生や会社員や教職関係者ばかりだったなという印象もあります。
ですのでもっと多くの年代、職業、国籍、時代の人々――更には思い切って動物視点や無機物の視点によるエピソードを組み込んだりなどの『幅』があれば、短編集としては一段階も二段階も高クオリティになったかなと思いました。
『オチ』という部分でも、確かに斬新だったり予想外な結末も多かったですが、中には「あ~ストーカーものね」や「実はこの人がイカれてるんだろうな」と予想したまま、最後までその通りに行ってしまうものもありました。ですので二転三転する展開や、驚きのあるオチのエピソードも多く用意して頂ければ、評価は更に更に高まったと思います。

まぁ短編って簡単なように見えて、上質なものを書こうとするとメチャクチャ難しいんですけどね……。
しかしそれが実現可能な伸びしろや実力を確かに感じました。これだけの数のアイデアやエピソードを生み出せた手腕は、本当にお見事です。
根底には『普通とは?』という一貫したテーマ性もあり、ホラーの夏に限らず、いつ読んでも楽しめる・どれほどの年月が過ぎても古臭さが発生しない、普遍的な内容が組み込まれた良質な短編集だと思います。面白かったです!

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