生存権っておいくらですか?
水無月やぎ
#1 熱情
僕には分からない。
なんで、彼女は変わってしまったのだろう。
純白のセーラー服を着ていた時は、とても輝く笑顔を見せていたのに。
今、目の前にいるグレーのカーディガンを羽織る君の眉間には皺が寄っていて、心なしか体が震えているように見える。
最初から僕にしておけば良かったんだ。
僕はもう、君の悲しむ姿を見たくないんだよ?
君にはグレーよりも、明るいピンクやオレンジ、白が似合うから。
男と別れると地味な服を着て、男ができると明るい服に変わる。
僕と一緒になれば、君はずっと、ずーーっと、よく似合う明るい服を着ていられるよ。
僕は君を傷つけない。あんな酷い男達のようにはならない。
僕達が高校で出会ってから今まで、君は4回恋をした。
でも、ある時は学業を優先され、ある時はスカウトされたばかりの芸能活動を優先され、ある時は海外に留学されて遠距離になり、先月は浮気されてたことが分かったんだよね。かわいそうに。僕なら、そんなことは絶対にしない。
え?「なんで理由を全て知ってるの」って?
そんなの、君が心配だからに決まってるじゃないか。理由を知れば、僕がどんな男であるべきかが分かる。だから今日も、僕はここにいる。
怖がらないで。もう君を泣かせない。さっきもカフェで女友達に愚痴って、浮気されてた、って言った所で泣いてたよね?……君がいたのはテラス席だったから、外からでも様子がよく分かったんだ。「新しい恋がしたい。でも今は周りに男がいない」って言ってたのも聞こえたよ。
灯台下暗しじゃないか。僕がいるのに。
……君だって、なんだかんだで僕を意識してるでしょう?
嘘だ。なんで首を横に振るの?
僕は君に25回告白している。意識できないはずがない。
それに、君は逃げるようにして引越しを繰り返すけど、心のどこかでは僕を待っているじゃないか。
「そんなわけない」なんて、急に叫ばないでよ。近所迷惑だ。
最初引っ越した先の番地は19。君と同じクラスだった時の、僕の出席番号。次に引っ越した先の最寄りの駅名は、僕のママの旧姓。その次に引っ越した先の郵便番号の下4桁は、僕の携帯番号の下4桁。そしてこれから君が帰るマンションの部屋番号307は、僕が高校受験した時の受験番号。まさに君と出会うために必要だった番号だ。
君はいつも、周りをキョロキョロして、僕を探していたね。だから僕は見つけてもらいやすいように、いつも同じ服を切ることにしたんだ。
赤いチェックシャツに、ジーンズに、ヤンキースのキャップに、丸眼鏡。特徴的で分かりやすいでしょう?
これだけの理由があるんだ。もし無意識に君がこうした行動をとっているなら、それはもう運命だ。
僕と君は、一緒になる運命なんだ。
「知らない」なんて、言わないで。「嫌だ」なんて、言わないで。
高校で僕がいじめられていたのを止めてくれた時から、ずっと好きです。
「学級委員だったから仕方なく?」そんなはずはないでしょう。
ねぇ、逃げないで。今度は僕が君を笑顔にする。だから振り向いて。
君は振り向いた。でも顔が涙で濡れている。僕の深い愛に、感動してくれたの?
「あんたのせいで笑顔が消えるの! あんたのせいでマトモな恋もできないの! どこまで来るのよ気持ち悪い! もう、いい加減やめて!」
えっ……。今の、い、今の言葉は、嘘だよね? 君の言葉では、な、ないよね?
「私の言葉よ!!!」
あーあ。やっちゃったねぇ。
…………君は今、決して言っちゃいけない言葉を言った。
「気持ち悪い」
それは小中高と、僕の人格を壊していった言葉だ。君からそんな言葉、聞きたくなかったのに。
僕は怒ったよ。もう怒った。怒った僕はね、止められないんだ。ママも手を焼いていたよ。
僕の26回目の告白を受け入れてくれなければ、僕は君を許さない。……待て、待つんだ。逃しはしない。早く言うことを聞け! 止まれ!
よろける君に追いつく。……ふう、やっと捕まえた。
もう、離さない。
目が大きく見開かれて、口を開けるけど、何も言葉が出てこない君は、やっぱり綺麗だ。
でも、僕は怒っている。今は何も喋らせない。君の口を、僕の唇で塞いでしまおう。
僕の腕の中で、君はジタバタする。……あぁ、丸眼鏡が邪魔だなぁ。
もっともっと、乱れた姿を見せてくれないか。6年も待ったんだ。
君の全てを見せて。……今日からはもう、僕だけに。
さぁ、26回目の告白をしよう。返事を聞かせてくれ。
——君のことが好きです。付き合ってくれますか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます