あなたの前世の価値は……

前世の記憶があるのが当たり前の世界で、あなたならなにをする?

前世でやれなかったことを、現世で果たす?
前世は前世だから、囚われず現世を過ごす?
前世の記憶を活かして、同じ様な道に進む?

きっと人の数だけ人生があるのと同じように、前世と現世と来世の取り扱いや価値観なども人の数だけ違ったものがあるのでしょう。

この物語を紡ぐ三人は、当然ながらそれぞれ違った前世を持っていますが、前世の鎖に縛られ、普通に生きることもままならない人たちばかり。
そういう人たちは前徒(ゼント)と呼ばれ、来徒教団(ライトきょうだん)の導きがあるのだとか。
前徒の彼らが希望を見出すのは、現世か、来世か……。

この作品で最も秀逸なのは、張り巡らされた伏線とその回収劇でしょう。
ラストに向かって次々に伏線が回収されていくのはとてつもなく気持ちが良い。
ハマるはずのなかったパズルのピースがあれよあれよという間にハマっていくのです。
しかもその伏線も、この作品の設定だからこそのものが多い。秀逸なだけではなく、唯一無二の伏線なのです。

私が個人的に好きなのはこれがただのミステリーにとどまっていないところです。
謎がある→謎を解く→終わり
ではなく、解けたその謎が自分の心の中に侵入して新たな謎を創るのです。作中の人物はもう解き終わっていると言うのに。
もちろんその謎は捨て置くことも出来ます。ストーリーは進んでいますから。ですが、ストーリーを追いつつも自分の中に出来た謎をあばくことで、小説の外側に自分だけのストーリーを創ることが出来ます。
考えることが好きな人は、絶対に面白いと感じるはずなのでぜひ試してみてください。

この『前世の記憶があるのが当たり前の世界』と言う世界観は、初めこそ突飛だと思いますが、読み進めていくうちにどういうわけか共感を覚えます。自分には前世の記憶などありはしないのに。
どうして共感するのか。それは、この物語が訴えかける問題に、現代社会に対する風刺が含まれているからです。
そしてこの命題は、なんと最後に思いもよらない結末により、読者に投げられます。
結末をキャッチして、もしも前世に思いを馳せたなら、あなたは立派な前徒(ゼント)なのかも知れません。

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