置き土産という冷戦。

「アンチマーメイド」然り、私はこの手の愚行(と言うのも失礼だけど)を描いた話に惹かれてしまうのかもしれない。主人公は、彼女がいる和希の部屋に諸々の置き土産を残していくのだが、決して故意ではない、と語る。それを「計算高い遊びをしているわけではないから」の一言に集約するのが、まあ末恐ろしい。主人公が彼との関係を変えるのでなく、たまたま変革が起きないかと暗に期待をし、修羅場を企てているのだ。「和希が私にしか見せない顔をするたびに、メグちゃん(本命彼女)しか知らない顔が羨ましくなる」・・・そうそう、結局、そうなってくるんだよね。だから置き土産という、工夫や手間が必要。あくまでもわざとじゃないよ、という静かな攻防が、なんだか読んでいて泣けてくるのだ。最終的に一枚上手なのが、そうした計算高くなかったはずの仕掛けを、あっけなく抹消させて終える和希の彼女であるのもポイント。女同士の冷戦が、密かに行われているような。恋愛という競技を見たような余韻に浸らせてくれる。こういうのはどこにでも起きていることなんだろうな、きっと。


(「恋愛ショートストーリー特集」/文=紗倉 まな)

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