第6話

 





 しばらく歩くが、黄金の街並みは変わらない。

 幽霊ちゃんの話によれば、もう少し歩いた先に人が経営する宿屋があるとのこと。

 他にも道中で色んな話をした。

 幽霊ちゃんがが実体化をして、ライトノベルを読み、ゲームをしていること。

 幽霊ちゃんが産まれた時は、荒野ばかりで建物がなかったこと。

 幽霊ちゃんの親友である、龍王ちゃんのこと。

 龍の王様、つまりはドラゴンの王様と幽霊ちゃんは親友らしい。

 一時期……百年ほど一緒に旅をしていたが『ちょ帰るわ』とか言って何処かに行ったらしい。

 龍の王様、軽いな〜。

 とか思いながらも俺は深くは聞かなかった。

 なんせ、疲れた。


 あまりにも情報過多で頭が既にパンクしそうだ。

 おまけに結構な時間歩いた。

 そろそろ宿屋とやらに着いてほしい。


「幽霊ちゃん、あとどのくらいで着く?」


【大体、三日ほど歩けば着くのぅ】


 ……膝から崩れ落ちそうだった。

 それもそうか。

 数千年を生きる幽霊ちゃんにとってのもう少しとは、三日か。


「……ごめん、俺はもう疲れたかな。何処か寝れる場所でも無いかな?」


 情けなく俺は聞いた。

 三日、寝ず食わずで歩けば死ぬ自信がある。

 幽霊ちゃんは宙で静止して、しまったという顔で俺を見る。


【すまんの、人の身のことを考えておらんかったわ。しかしここらで寝れる場所か……そこら辺じゃ駄目かの?】


 ……まぁ、別に良いか。

 なんせ誰も居ないし。

 害は無いと思うけど……少し不安だな。


「……うん、疲れたからそこら辺で寝るよ」


【…………妾が霊力を使って飛ばすことも出来るんじゃがのぅ。少々、疲れるわい】


 お言葉に甘えたいところだけど、そこまでは迷惑かけられないな。


「気にしなくてもいいよ。固いところで寝るのは慣れてるから」


【……ふむ、ならば気にせん。強く生きるがよい、タイセイ】


 笑みを見せ、フワフワと宙を飛ぶ幽霊ちゃんは何故か楽しげだ。

 何かいいことでもあったのかな。

 少し幽霊ちゃんの様子が気になったけど、俺は金色の建物に近付き、壁を背に座った。

 黄金の地面には砂一粒も無いので、ズボンが汚れる心配は無い。


「くしゅっ」


 だが服とズボンは未だ濡れている。

 どうして濡れていたのだろうかと、今更ながら考える。

 ……わからないな。

 幽霊ちゃんが俺の横に座ったのを見て、考えるのをやめた。

 今は少しでも体力を回復させておこう。


【安心するがよい。寝ている間は妾が守ってやる。じゃから気にせず眠っておれ】


 ……見た目10歳だが、幽霊ちゃんは数千年の時を生きている。

 ここは年上に甘えたと思って、プライドを守ろう。

 いや、子供に守れながら寝る二十三歳って字面的に最悪だ。

 だから俺は年上に甘えているだけであって……よし、大丈夫。

 誰も気にしない。


 俺は地面へ横になり、濡れている服の不快感など感じずに目を瞑る。


 そして言われた。

 変なことを。



【……タイセイは顔が整っておるの。そこらのアイドルよりか全然格好良いわい】


 ……………………?

 俺が、格好良い?

 なんの間違いだと、俺は目を開け、横になったまま幽霊ちゃんを見る。

 至極真っ当な顔だ。

 ふざけているのではなく、当たり前のことを言った顔だ。


「……そんなの言われたことないよ。俺自信も平凡な顔付きって自覚もあるしね」


【…………何を言っておる。妾は嘘を吐かん、タイセイの顔立ちであれば顔だけで飯が食っていけるぞ?】


 上半身を起き上がらせ、マジマジと幽霊ちゃんを見る。

 幽霊ちゃんも俺をマジマジと見る。


 ……考えてみた。


 俺は────本当に、俺なのかと・・・・・


 思えば、鏡を見ていない。

 ……幽霊ちゃんから視線を外し、金色の建物をマジマジと見た。


 薄っすらと俺の顔が見える。



 ────否、誰かの顔が見える・・・・・・・・


 手を動かすと、金色の建物に映った誰かは手を動かす。


 ずっと、金色の建物には普段のスーツ姿が映っていたので、特に自分の顔など気にしていなかった。



 故に、叫ばせてもらった。



「────うおおおぉ!!!!」


【うおっ! なんじゃなんじゃ!?】


 いや、誰だよこれ!

 クソイケメンじゃねぇか!


「ゆ、幽霊ちゃん!俺の顔、変わってる!!」


【な、なにぃ!? ………………いや、数時前からその顔じゃが?】


 冷静に返され、俺も少しは冷静になったが。

 数秒の間、驚いた誰かの顔と、不思議そうにする幽霊ちゃんの顔が金色の建物に映る。


 気をとりなおした俺は、ペタリと自分の顔を触る。

 ……なんだこの肌のツヤ、なんだこの眉毛、なんだこのサラサラの髪。

 金色の建物から視線を外し、幽霊ちゃんを見る。

 不思議そうにしている幽霊ちゃんに、俺は言う。


「……顔、変わった」


【……そうか、変わったのか】


 変な場所に行った後か、この世界に降り立った後かはわからないが。

 幽霊ちゃんは俺の言葉の意図を悟ったのか、しんみりとした顔をした。


【なんじゃ、その……別に損はないじゃろ?】


 言われ…………たしかにと頷いた。


「……まぁ、そうだね。全然前より格好良いし。寧ろプラスだよ……でも、ちょっと気持ち悪いかな」


 これから先、俺は格好良いと言われる度に複雑な感情を抱くのだろう。

 なんせ完全に自分の顔じゃない。

 割り切れば良い話だろうが、別に以前の自分の顔に不満はなかった。

 この顔に不満があるのかと言われればないが、だが…………しかし────。




「…………寝ます」


 考えることを放棄した俺は横になった。


【……強く生きるんじゃ、タイセイ】


 幽霊ちゃんの励ましの声を最後に……俺の意識は途絶えた。



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