人生体験

魁星

第1話

 とあるチャットルームを見る。

 煙草を人差し指と中指に挟み……苛立ちを覚えキーボードを叩く。





 ♦︎




 名無し[どうせ無理だと思うけどしねば?]


 ふう[正論で腹が痛い]


 じん[何が正論だ 本当に死んだらお前も死ねよ]


 ふう[は?]


 名無し[死ぬ前に動画撮っておけよ]


 不幸女[面白くない 人生って何? 死ぬ為に生きてるの?]


 おかゆ[人生ってのは楽しむ為にある]


 じん[楽しみを見つけるのが人生。不幸女@ 何か楽しみを見つけた方が良い]


 ────ふうさんが退室しました。

 ────名無しさんが退室しました。


 不幸女[見つけれない どうやって見つけるの?]


 ────しゅんさんが入室しました。


 おかゆ[色んなことをやるべき]


 じん[手始めに何か目標を見つけてみよう]


 不幸女[虐められてる 親からも同級生からも]


 おかゆ[逃げることは?]


 じん[誰か相談できる人は?]


 おかゆ[もし逃げることが無理でも 耐えるべき 人生だから楽しいことが待ってる おれが身勝手にも約束する]


 しゅん[不幸女さんが自殺したいの?]


 ────名無しさんが入室しました。


 不幸女[しゅん@ そう]


 ────名無しさんが退室しました。


 不幸女[もう生きたくない 苦しいだけ 誰も助けてくれない]


 おかゆ[生きてくれ おれはその方が嬉しい]


 じん[俺も嬉しい。お願いだ、生きてくれ]


 しゅん[自殺はだめだとおもう だって負けるってことじゃん?]


 不幸女[しゅん@ 何が?]


 ────未来永劫さんが入室しました。


 未来永劫[ちーっす!]


 ────ななしさんが入室しました。


 しゅん[虐めに負けて自殺するってことっしょ? ムカつかない?]


 じん[しゅん@ それは……]


 ────未来永劫さんが退室しました。


 おかゆ[しゅん@ そういう問題じゃない]


 ななし[なにココ墓地? ウケるんですけど]


 不幸女[ムカついたから何?]


 ななし[自殺自殺ってどうせやんねーだろ お前みたいなのが一番ムカつくんだよ 死にたいならさっさと誰にも迷惑かけずに死ね]


 ────ななしさんが退室しました。


 じん[お前の所為で本当に死んだら責任取れんのかアホ]


 じん[荒らしだから気にしないでくれ 不幸女@]


 おかゆ[じん@ 暴言はやめるべき]


 しゅん[ムカついたら負けるかオラってならない? その気持ちをぶつけた方が絶対正しいっしょ]


 じん[おかゆ@、気をつける。]


 不幸女[しゅん@ なるけど 抵抗したら虐めが酷くなる]


 おかゆ[おれは逃げるべきだとおもう 正しさなんて自分が決めること 自分の正しさを曲げずに貫き通す それも一つの生き方]


 しゅん[それでも抵抗っしょ 最後まで挫けないことが大事 おかゆ@ あんたが言っていることは強い人が出来ること]


 しゅん[心が強いのであればこんな部屋作らない そうっしょ不幸女さん]


 不幸女[無理 怖い]


 不幸女[心が弱い自覚はあります]


 しゅん[なら強くなろう 協力はする 具体的に毎日この部屋にいる]


 おかゆ[不幸女@ おれも毎日この部屋にいるから愚痴をぶつけてくれ 少しは楽になるはず]


 じん[生きてくれ]





 ────不幸女さんが退室しました。

 ────おかゆさんに管理者権限が移りました。





 ♢




 煙草に火を点け、煙を吐く。

 ふざけるなという言葉と共に、煙は消えていく。

 苛立ちを覚えていた。

 チャットルームに度々現れる荒らしに。

 何もできない自分に。


 昔からだ、何一つ役に立てないのは。

 だが、そうと割り切れない。


 何かを成したい。


 例えば人を救ってみたい。


 例えば生き甲斐を見つけたい。


 例えば、不可能を捻じ曲げてみたい。



 そんなことは無理だ。

 知っている。

 だが、思うことは誰にでも出来る。


 だから────俺は今日も、夢を見る。








 ■




 ────世界は変わりゆく。



 水をかけられた女子生徒は、ジャージに着替え……虚ろな目で空を見る。



 ────願いは形に。



 スマホを見ている女性は溜息を吐き、目を瞑った。



 ────夢は現実に。



 病室で少年は自分の無力を呪う。



 ────変わりゆく、変わりゆく。



 制服を腹に巻いた男子生徒は、ニヤリと同級生を見下す。



 ────誰も知らない世界へと。



 煙草を灰皿に押しつけ、男は立ち上がった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る