第2話


 □




 ────なんだこれは。


 呆然とその人物を見た・・・・・・・



「────ようこそ、此処は地球です」



 何を言っているんだと、その人物を見た。



「驚くのも無理はありません。先ず最初に世界は変わりました。此処までは理解しましたか?」



 ……周りを見る。


 七人の男女がいる。

 理解出来た。


 白い世界に居る・・・・・・・

 これは、理解出来ない。


 何がどうなっている。


「……此処は?」


 スーツを着た女性が声を出した。

 綺麗な女性で普段なら見惚れるかもしれないが、今は状況が状況なので視線を逸らす。

 再び、その人物を見て……なんなんだこいつはと口を惚けさせる。


 その人物は両手を広げ、話し出す。



「此処は地球です。世界は変わりました────七夏ななが ゆうさん」


「……どうして私の名前を?」


 驚いたような感じを見せず、スーツを着た女性はその人物に聞いた。


「私が知らないことはありません。では、続きを話させていただきます」


 理解出来ないことを述べ、その人物は語る。


 語られたことは何処までも理解不能だった。



「私は世界が憎い。故に世界を変えました」



「そして、貴方達は偶然にも選ばれました」



「特別な力を授けます」



「何を成すかは、貴方達次第です」




「では、私はこれで失礼させていただきます」



 そう言って、その人物は消えた。

 煙のように、薄らと姿が透明になっていった。

 まるで最初から居なかったかのように。



「……自己紹介をするべきね」


 スーツを着た女性が、口火を切った。

 俺を含めた七人から視線を浴びた女性だったが、慣れているのか、それとも何も感じない性格なのか……何処までも堂々としていた。


「私は七夏 侑、二十三歳」


 凛としていて、少し見惚れた。

 が、すぐに周りを見る。

 多種多様な人ばかりだな。


 学校指定のジャージらしきものを着ている三つ編みの女の子。

 学校指定の制服らしきものを腹に巻いた、如何にもな金髪の不良少年。

 喪服を着て、目を腫らしている背が高い坊主頭の男の子。

 病衣を着て、胡座をかいてボーっと周りを見渡している黒髪の中性的な子。

 作業服を着た勝気な、赤髪の男性。

 上下黒のスウェットを着て、キョトンとしている茶髪の女性。


 そして、紺のスーツを着ているがネクタイをしていない、平凡な顔つきをした俺か。


 計八人。


 きっとこの場にいる誰もが、この状況を理解していない。

 誰の目にも疑問があるのは見て取れる。


 俺はスーツを着た女性……七夏さんに続いて、自己紹介をする。


平松ひらまつ 大成たいせい、二十三歳です」


 俺の自己紹介を聞いた七夏さんは目を大きくさせる。


「同い年なの?」


 聞かれたので、言葉を返す。


「えぇ、老け顔なのでよく誤解されます」


「……たしかに」


 老け顔のことはよく言われるので、もう慣れた。

 七夏さんの失礼な言葉に、不快感を覚えず俺は周りを見る。

 腕を組んでいる赤髪の男性が口角を上げ、話しかけてきた。


「へぇ、おれと同い年に見えたが年下か」


 乾いた愛想笑いが出る。


「はは」


 赤髪の男性は俺を面白そうに見て、名乗り上げた。


「おれは藤原ふじわら 幸気こうき、二十五歳だ。しっかし、これはどうなってんだ。流行りの異世界転生か?」


「……どうなんですかね」


 当たり障りないことを返し、赤髪の男性……藤原さんの名前を記憶する。

 二十五歳か、にしては若いな。

 そんな感想を抱えながらも、他に目を向ける。

 制服らしきものをカッターシャツの上から腹に巻いた金髪の不良少年が、前に出た。

 鋭い眼光で俺を見て、次に藤原 幸気さんを見る。

 そして、名前を言った。


東山ひがしやま 礼二れいじ、十七歳」


 無愛想だが、悪い子には見えない。

 見た目は少しだけ怖いが。

 名前を記憶して、上下黒のスウェットを着た女性を見る。

 フラフラとしながらも前に出て、自己紹介を始める。


「えっと、みなみ 陽菜はるなです。あと十九歳です……えと、よろしくです」


 オドオドとして、人と目を合わせない人だ。

 気弱な人なんだろうと思いながら、次に口を開いた人物を見る。

 喪服を着ている男の子は、チラリと金髪の不良少年、東山君を見て話し始めた。


白真はくま 塔矢とうや、十七。嫌いな奴は不良です」


「あぁ?」


 白真 塔矢君と東山 礼二君の睨み合いが始まった。

 静止させたのは藤原 幸気さんだ。


「まぁまぁ、落ち着こうぜ。今は争っている場合じゃない。何の恨みがあるかはわからんけど、白真君は睨むのやめようか」


 二人の間に入った藤原さんは人の良さそうな笑みを浮かべる。

 白真君はしばらく東山君を睨んでいたが、途端に興味が失せたように病衣を着ている子を見る。

 東山君がまだ白真君を睨んでいる中、胡座をかいている病衣を着た子は自己紹介を始める。


「……尽道じんどう シュウです。四日前、十四歳になりました」


 ボーっとしているのを見て、俺は尽道 シュウ君が男だと知った。

 女の子にしか見えない顔立ちだが、男の子か。

 将来は女の子を泣かせるだろうな〜と呑気な感想を抱きながら、黙ったままの女の子を見る。


 その女の子はジャージを着ていている三つ編みの女の子。

 状況を把握出来てないのはみんな一緒だろうが、ビクビクとしているのは三つ編みの女の子だけだ。

 七夏さんは、ゆっくりとした口調で女の子に話しかける。


「……落ち着いて、今はこの状況の手掛かりを少しでも欲しいの。だから教えて、貴女の名前を」


 落ち着いていて、凛とした佇まい。

 七夏さんは、人を安心させるような人だなと感心する。

 女の子は少し落ち着いたのか、肩を落とし、自分の名前を言った。


「……目倉めくら クスコ……十七歳、です」


 目倉さんか。

 なんというか……南さんよりもオドオドとしている。

 二人は気が合いそうだと、勝手ながらに思い……本題に入った。




「自己紹介は終わりましたね。……先ず、此処に来る前の記憶はありますか?」


 俺がそう聞くと、七夏さんが答える。


「仕事中だった。特に手掛かりになることはない」


 淡々とした七夏さんの言葉に、藤原さんは同意するかのように頷く。


「おれもだ。車乗ったんだが気付けば此処にいた。老け顔のあんちゃんは?」


 そういえば、言ってなかったな。

 俺は頭を掻きながら答える。


「俺は自分の部屋に居ました。パソコンを閉じて、椅子から立ち上がったらこの場所に。特に手掛かりになるようなことは何もありませんね」


「なるほどなぁ。お前は?」


 藤原さんは顎に右手をやり、東山君に聞く。


「……外で遊んでいた」


 無愛想に答える東山君は、未だ白真君を睨んでいる。

 睨まれている白真君は気にした素振りを見せず、口を開く。


「自分は妹の遺体を運んでいる最中でした」


 ……顔が引きつった。

 白真君は十七歳と言った。

 妹さんはもっと若いだろうに。

 痛ましいことだと、俺は頭を下げる。


「……嫌なことを思い出させたみたいだ。どうか、悪く思わないで欲しい」


「気にしないでください、貴方が悪いわけではないので」


 頭を上げると、白真君が東山君を一瞬睨んだ。

 不良が嫌いとはもしや、妹さんが不良と関わり…………なんて嫌な想像をしていると、南さんが声を上げた。


「わ、わたしは! えっと……、あの、家に……居ました……」


 ……まぁ、そうだろうな。

 俺同様に白真君を除くみんなが頷いた。


 続いて、尽道君が座ったまま話した。


「……ぼくはスマホを見てて、気付けば此処で座ってました」


 何も手掛かりはないなと頷き、目倉さんを見る。


 目倉さんは、ボソリと呟くように言った。


「……ウチは家に帰る途中でした」


 七夏さん、藤原さんと目を合わせ、同時に頷く。

 結局のところ、この状況は意味がわからないと。


 俺は咳払いをして、意見を聞く。



「……さっきの人……と言うべきか微妙だけど。さっきの人は此処が地球だと言った。どこからどう見ても、此処は白い世界。まるで夢のような世界です。皆さんはこの世界をどう考えますか?」


 七夏さんは、変質した世界では?と答えた。

 藤原さんは顔をしかめ、見当もつかないと。

 東山君は意見を出さず、白真君を睨み続ける。

 白真君は死後の世界では?と冗談混じりに呟く。

 南さんと目倉さんはなんとも言えませんと口にした。


 尽道君は、真っ白な空を見上げ、聞いてくる。



「……この世界が何かは知らないけど。ぼくは共通点を探すべきだと思います。何かこの数日で変わったことはありませんでしたか」



 なるほどと頷く。

 偶然、俺達は選ばれたと言われたが丸呑みには出来ない。

 考えてみる、この数日で変わったことがなかったか。


 ……何一つ思い当たらない俺は、尽道君と同様に空を見上げる。


 静寂が訪れた。

 皆も考えているんだろう。

 そもそも、この状況は本当に不思議だ。

 とても現実とは思えない。

 心なしか、頭がボーっとしているような気がする。


 静けさに包まれた中、意外にも声を出したのは東山君だった。



「────三日前、チャットをした。変わったことはそんくらいしかねぇ」



 ……チャット。

 俺は似合わないなと東山君に目を向ける。

 どうしてかバツが悪そうに顔を背けている東山君を、俺を含め五人が見ていた。

 七夏さん、藤原さん、白真君、尽道君。

 何か心当たりがあるのかもしれない。

 俺はチャットについては心当たりがないので、口を閉じておく。


 東山君に声を掛けるのは藤原さん、何処か驚いているようだった。


「……おれもだ。三日前、偶々チャットをした。なぁ《自殺がしたいです》ってチャットルームに入ったか?」


 質問をされた東山君はピクリと反応する。

 どうやら知っているようだ。


「あぁ、【じん】って名前で入った」


 ……【じん】って東山君は下の名前である礼二のじにんを付けたのかな?

 しっかし、物騒なチャットルームの名前だ。


 呑気な俺とは違って、四人は「は?」という顔をした。

 白真君も間抜けな顔をしている。

 何か意外なことでもあったのだろうか?


「う、嘘だろ……?」


 思わずといった感じで声を出した白真君を睨み、東山君は口を動かす。


「……うぜぇな。んなことで嘘吐くかハゲ」


 東山君の言葉で四人の顔が『信じれない』と驚愕に満ちている。

 話についていけない俺は、同じく話についていけないであろう二人に近寄る。

 その間にも会話は繰り広げられる。


「意外だな、案外まともってことか。ちなみにだが、おれはチャットなんてしたことなくてな。挨拶をしてすぐにチャットルームから出た。なんて名前だったか思い出せねぇが、一応ログを見た口だ」


「……【未来永劫】」


 藤原さんの言葉に七夏さんが答えると同時に、俺は南さんの前に立った。

 挨拶がてらに話しかける。


「俺はチャットをしないからよくわからないよ。南さんもかな?」


「い、いえ。わたしは……その」


 目線を下に向け、意地でも目を合わせない南さんにどうしたもんかと肩を落とす。

 ちらりと目倉さんを見るが、南さんと同様の反応。

 やはり二人は気が合いそうだと、腕を組んで耳を傾ける。


「そういやそんな名前だったな。別に荒らし?目的で挨拶したんじゃねーぞ。おれはあのチャットルームの下に有った《雑談部屋》って所に入るつもりだったんだがな……操作間違っちまってよ。慣れてねーから挨拶した後に気付いちまったんだ」


「……いたな、そんな奴。挨拶だけして退室しやがった奴」


「ぐっ……! い、言っとくがなぁ。本気でこっちは故意的にやったんじゃねぇぞ」


 東山君から棘のある言葉を貰った藤原さんは、悔しそうにしていた。

 そして、尽道君が無機質な声で返事をした。


「別に大丈夫ですよ。【不幸女】さんは特に気にしてませんでしたし」


「……まっ、そうだな」


 東山君は溜息を吐きながらそう言って、七夏さんを睨む。


「で、アンタは誰だよ。荒らしか?」


 荒らし……とはたしか、ネット上を無作法に利用する輩のことだったか?

 普段、動画しか見ないのでそういった用語はイマイチわからない。


 東山君の苛立ちを含んだ言葉に七夏さんは、淡々と返事をした。


「【おかゆ】」


「……」


「……」


「……」


「……」


 ……うん?

 何故か誰も喋らなくなった。

 好きなんだろうか、【おかゆ】。


「好きなんですか?」


 おっと、思わず聞いてしまった。

 七夏さんはまたも淡々と話す。


「大っ嫌い」


 ……なるほど。


「つまり苦手意識をなくそうと思って、その名前にしたんですね?」


 俺なりの見解を話すと、七夏さんは俺と目を合わせ……静かに頷いた。

 いやはや、まさか本当に合っていたとは。


 俺と七夏さんの問答に四人は微妙な顔をする。


「……あ〜、ナナガさん? たしか【おかゆ】さんって、おれとか書いてなかったか?」


 藤原さんが頭を掻きながら七夏さんに聞く。

 なるほど、【おかゆ】さんが『おれ』と書き込んでいたと。

 女でありながら男の口調で書き込んでいた。

 まぁ、それはネナベだろうな。

 動画で勉強した知識によればだが。


 コクリと頷いた七夏さんに、尽道君が微妙な顔のまま聞く。


「どうしてネナベを?」


「そっちの方が慣れてるから」


「……そうですか」


 そっちの方が慣れてる……ネナベに慣れているということか。

 どうしてネナベをに慣れているのか……まぁ、深くは気にしないでおこう。


 溜息を吐いた東山君が「そんなこともあるか」と呟き、白真君を睨む。

 さっきまでの睨みとは違って、少しだけ優しい睨みだ。


「……となると、お前が【しゅん】か。クソが、ムカつく。なんだよあの書き込み」


 愚痴を吐く東山君に、白真君は微妙な顔をする。

 そして、


「……違う」


 東山君の推理を否定した。

 あ?と睨みを深ませた東山君に、尽道君がボーっとしたまま言う。


「ぼくが【しゅん】です。すみません、ムカつく書き込みして」


「…………マジかよ」


 唖然と呟く東山君、何か予想外のことがあったようだ。

 尽道君はボーっとしたまま白真君に聞く。


「貴方は誰ですか? 荒らしには見えませんが」


 四人の視線が集まった白真君は、悔いるように言った。



「────自分は……【不幸女】の兄だ」



 ……ふむ?


 整理しようか、チャットルーム《自殺がしたいです》、尽道君の『【不幸女】さんは気にしてませんでしたし』という言葉。

 もしや ……部屋を作った人は【不幸女】さんでは?

 となると……もう【不幸女】さんはこの世の居ないと。

 なんとも胸が痛む話だ。


 四人がハッと息を飲み込み、藤原さんは気まずそうに頭を掻き。

 七夏さん、東山君は悔しそうに、そして苛立ったかのように顔を伏せる。

 尽道君だけはボーっとしているが、少しだけ顔を強張らせている。

 南さんと目倉さんも心なしか唖然としている。

 俺と同じ推測をしたのかもしれない。


 なんとも言えない雰囲気が流れたので、俺は声を出す。



「……嫌なことかもしれないけど、話してもらってもいいかな?」



「……そう、ですね」



 そして、白真君は妹さんのことを話した。






 自分宛に妹さんが手紙を書いていて、この三日間に及ぶチャットのことと、自殺の原因が書かれていたという。

 白真君曰く『自分はミウ妹さんが虐待を受けていたことを知らなかった』とのこと。

 死因は頑なに語らなかった。

 とても口に出来る死因じゃないんだろう。

 深くは聞かず、要点だけ聞いた。


 妹さんの手紙には、三日間のチャットで希望が見えたと書かれていた。

 しかし昨日の朝、学校に登校すると……机が無く、地面に座らされたという。

 担任の教師は三ヶ月前から妹さんのことを無視していたらしい。

 故にそのまま授業を続けた。

 とても耐えられることじゃなかっただろう。



 だが……妹さんは耐えた。


 何も言わずに、黒板に書かれた文字をノートに写した。


 所々、涙で濡れた手紙には『チャットのお陰だと』書かれていた。



 移動教室の時、鞄がズタズタに破られていようが。

 女子トイレに呼ばれ、数人から暴行を受けようが。

 男子から服を脱がされ、動画を取られようが。


 全部、耐えたと。


 家に帰り、チャットルームを開き、いっぱい励ましてもらったと。

【じん】さんは絶対に死なないでくれと。

【おかゆ】さんは立ち向かうべきではないと。

【しゅん】さんは立ち向かうべきだと、【おかゆ】さんとは反対のことを書き込んでくる。


 とても私を想ってくれる人達だと。



『明日も頑張ってみます』


 そう書き込んで、チャットルームを閉じた。


 ご飯を食べるためにリビングへ行くと、お父さんしか居なくて涙が出そうだった。

 何か嫌なことがあって、お父さんの機嫌が悪いことは一目瞭然だった。


 ────そして、顔を殴られ、服を脱がされ……生きる気力を無くしたと、手紙には書かれていた。


 最後に、


『何も相談しなくてごめんなさい。

 お兄ちゃんならなんとかしてくれることはわかってた。

 でも、もう何もかも嫌です。だからごめんなさい。


 ────本当にごめんなさい。』


 そう、書かれていた。




 涙を流し、白真君は話し終えた。

 本当に嫌なことを思い出させた。

 なんて最低な男なんだと、俺は自分を蔑む。


 だが、思うことなら誰にでもできる。


 故に、俺は白真君に頭を下げて……こう言った。




「……本当にごめん。君に嫌なことを思い出させた俺を殴ってくれ、頼む」



「え、いや────」


 何か言われる前に、俺は土下座した。


「頼む!!!」



「……あ、はぁ」


 了承を貰った俺は立ち上がり、顔を突き出す。


 そして、迷ったものの……白真君は俺の顔に重い拳をプレゼントしてくれた。




 ────斯くして、此処に一つの結末が決まった・・・・・・・・・・


 が、それは遠い未来の話だ。












 起き上がった俺は、頭をクラクラさせ白真君に聞く。


「も、もう一発いっとく?」


「え、い、いや、大丈夫です」


「そ、そっか」


 良かった。

 あまりにも重い拳だったんで、たぶんもう一発喰らっていたら死んでた。

 大袈裟でもなんでもなく。

 一応、聞いておく。


「……白真君って何かやってた?」


「えっと、空手部の主将です」


 ……体格いいもんね。

 納得だと冷や汗をかく。

 危なかった、本当に死んでた。


 パッとみんなに視線を戻すと、藤原さんは腹を抱えていた。

 他の人は唖然と俺を見ていた。

 たしかに、少し暴走したかもしれない。

 昔から俺は何かと暴走してしまうので、周囲からよく呆れられる。

 が、もう慣れているので、何事もなかったかのように話した。


「さて、割り切れないことは多々あるかもしれないけど。この状況について考えようか」


 手を広げ、笑顔で言った。

 右頬が熱いので、おそらく膨れているだろう。


 七夏さんは、じっと俺の顔を見た後、ゆっくりと口を開いた。


「……私達五人はチャットルームで関わりがある。だからこれは偶然ではないと思う」


 たしかに。

 だが、俺、南さん、目倉さんは全く関わってない。

 もしや……。


「南さんと目倉さんは何か変わったことなかったんですか? 俺はこの一ヶ月、特に変わったことはありませんでしたが。二人の話を聞いたら何か思い出すかもしれません」


「……」


「……えーっと、特には……」


 俺の質問に南さんは返事をしてくれて、目倉さんは無言で頭を横に振った。

 なら、特に俺と南さん、目倉さんは関わりがないと。

 謎だな。


「……ということなので、俺達三人は接点がありません。俺達三人だけで考えると偶然かもしれませんね」


 全員に手を広げながら自分の見解を話す。

 藤原さんは何がおかしいのか口元を抑え、七夏さんと白真君は真剣な顔で何かを考え始め。尽道君はボーっと空を見上げ、東山君は不機嫌な顔で俺に聞いてくる。


「……アンタ、この場で自分が荒らしだと言いたくなくて隠してるってことはないよな?」


 ……なるほど、疑われてるなこれは。

 困った困った。

 荒らしなんてしらないけど、こういうのは言葉で信じてもらえるんだろうか?

 まぁ、一応は弁明しよう。


「それはないかな。俺は普段、動画しか見てないんだ。チャットルームに入ったこともなくて、提示版にも書き込んだことはないよ」


「……そうかよ」


 あれ、意外にもあっさり信じられた。

 やはり東山君は素直な子なのかな?


 なんて疑問を抱えていると、ボーっと空を見ていた尽道君が奇妙なことを言った。




「────ステータスオープン……出ました・・・・



 ……意味がわからない俺を置いて、みんなが各々で呟き出す。

 ステータスオープン、と。




「……へぇ」


 東山君と七夏さんは感心したように虚空を眺め、


「おいおい、やべぇなこれは」


 藤原さんが驚いたように虚空を見る。

 声を出さない白真君、南さん、目倉さんは黙って目を大きくさせている。

 なんのこっちゃと、俺は首を傾げながら呟いた。



「……ステータスオープン」





 視界に半透明の文字が現れた。


 日本語だ。

 ……幼稚な程に。





 ──────────────────


 れべる いち


 なまえ ひらまちゅ たいせい


 ねんれい にじゅうさんさい



 ちから いち

 ちりょく ななじゅうはち

 すばやさ じゅうに

 がんじゅうさ さんびゃく(まっくす)



 とくしゅのうりょく:ゆうれいがみえるのだ!

 それと たいけんできるんだお!!



 ──────────────────





 うん?





 ……こうして、俺は非日常へと足を踏み入れる。

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