第08話 旅立ち

―― 三年後



あの衝撃的な出会いから三年、ナルとイマリは共に生活し、共に修行をするようになっていた。


一緒に笑い、一緒に食べ、一緒に泳ぎ、一緒に山に登り、一緒に怒られ……いつも一緒にいたナルとイマリは、まるで仲の良い姉妹のようでもあった。



神の啓示からも三年経ったが、ここ大和では、未だに何の動きも見られない。


世界中に居る巫女達の情報は、島国の大和には伝わり難く、オーブ争奪戦の情勢は全く読めないでいた。


剣の神と闇の神は、現状維持を望んだ……。

そんな私達に残された選択は二つ……。


動かず、二つのオーブをひたすら守り切るか、または動いて、全てのオーブを集め切り、この騒動に終止符を打つか……。


なのだが…ナルとイマリはもう決めていたようだ。



―― ある日の夕食後



「母さん、父さん、ネオ…話があるの」

いつに無く真剣な声色のナルに、ナルの父親と弟ネオは、息を飲む。


ただ、母親だけはいつもと変わらない声色で応える。

「あら、改まってどうしたの?また三姉妹で何か悪さをしたのかしら…?」


私達三人は、敢えて普段と変わらない対応をする母親の、深く包み込むような優しさに助けられる。


私達は自然と笑顔になった。


ナルは硬い表情を崩し、リラックスした顔で続ける。

「私とイマリ、ショコラは、この家を出て世界中にいる巫女達に会う旅に出ます…途中で死ぬかも知れないし、すごく危険な旅なのは解っています。でも私達は…巫女となった者は、行かなければならない宿命を背負っている…の……だから…」


行かなければならない宿命なんて無い。

ただ、ここで『待ち』を選択すると、ナルの家族にも危険が及ぶと判断した結果、剣の巫女と闇の巫女は『進む』ことにしたのだろう。


嘘が下手なナルの、歯切れが悪い言葉を母親が断ち切った。

「そう…解ったわ…でも母さんから一つだけ条件があるわ」


ナルは気付いているだろうか……。

ナルがこの話を切り出してからナルの母親は、こちらに視線を一度も向けていないことに…。

気丈に普段通り振る舞った声色とは裏腹に、その瞳には今にもこぼれ落ちてしまいそうな涙が貯まっていることに……。


「あなた達…三人とも無事にこの家に帰って来なさい!……私の大事な三姉妹なんだから……それさえ守ってくれれば、私は…いいわ」


母親は、ついに背を向ける。


その小さな背中は、悲しく震えていた……。


その背中に、ナルは感謝を込めた言葉を返す。


「母さんありがとう…私達三人は、この家に帰って来ます……絶対!」



―― 一ヶ月後


オーザリア大陸の東南につらなるロッシー山脈。


私達は、竜の巫女に会うため鬼ヶ岳登頂を目指していた。



……私達の壮大な旅は、 こうして始まったのである。

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MIKOs EX 赤と黒の衝突 浦上 とも @ura0912

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