第05話 何かと黒の衝突

「……封殺陣フウサツジン

闇の巫女の声が洞窟内に響いた。


次の瞬間、私たちを中心に赤い光が地面から立ち上がる。


それは、円と五芒星ごぼうせいだ。


地に刺さっている五つの手裏剣上を通る真円に、それぞれの手裏剣同士が直線で結ばれ五芒星ごぼうせいを地に描いている。


「……」

身体が…動かない…?


封殺陣と呼ばれる陣による効果なのか、身体がまったく動かせず、声すら出せない。


"…カツン…カツン…カツン…"


私の背後から足音が聞こえる。

そう、最初に聞いたあの足音…。

ナルは下を向いたまま、ピクリとも動かない。


"…カツン…カツン…カツ"

足音が不意に止まった。



【……我ノ…血ヲ……流スナ……】


誰!?

…ナルが喋ったの…?


【……血ヲ…返セ……】


やっぱりナルが喋ってるけど、声が違う!

誰?何が起きてるの……?


【オオオォアアアアアァ!!】

ナルは雄叫びを上げ、左手一本で《アマテラス》を振り回した。


"…スタッ"

闇の巫女が、少し離れた音がした。


《アマテラス》は、私たちの足元を斬り刻み、陣を破壊したようだ。


身体に自由が戻る。

「ナル!どうしたの!?落ち着いて!」


私は治癒を続行しようと、ナルの元へ急いだ。


【アアアアァ!】

ナルは雄叫びをあげる。


そして、右手で私を掴んだ……。


「……いた…いナル…やめて」

私は握り潰されようとしていた。


"パキィ……ボキッ…コキ"

骨と羽が折れる鈍い音が体内から聞こえた。


息が出来ない…


身体中が痛いよ…ナルやめて…



……突然、ナルの視線が私から外れる。


"ガキィィン"


ゲホッグハッ……ハァハァ…

私はナルに投げ捨てられ、そして、闇の巫女に助けられたようだ。


ナルは《アマテラス》を掲げ、闇の巫女が振り下ろした両手のカタルを受け止めていた。


【ォオオォォ!】

ナルは叫び、再び《アマテラス》を振り回す。


闇の巫女は、《アマテラス》に打ち払われ、吹き飛ばされたが、壁を蹴り、すぐさまナルへと疾走した。


ナルは、闇の巫女に合わせ、《アマテラス》を豪快に振り抜く。


闇の巫女の身体は更に沈み込み速度を上げた。


"ブオン"


空を斬る《アマテラス》…。

ナルに大きな隙が生まれる。



……え?

最大の攻撃のチャンスだったはず…。

なのに……。


闇の巫女は、私へと一直線に迫り、私を拾い上げて、忍装束の中へ仕舞い込んだ。


「……自身を回復して、話はそれから」

闇の巫女はそれだけ言うと、ナルから離れるように疾走を続ける。



暫く洞窟内を駆け巡った闇の巫女は、大きな岩の影に身を隠した。


……しかし、まだ雄叫びを上げているナルに、場所はバレていたようだ。


ナルは、《アマテラス》を思い切り、私たちが身を隠す岩に投げ付けてきた。


直後、ナルの長い黒髪が、バサッと背中に広がる。


ナルは、頭上の《赤いかんざし》を二刀流のように持ち、投げ付けた《アマテラス》を追うように翔んで来た。


闇の巫女は、翔んだ。

下では《アマテラス》が砕いた岩が宙に舞っている。


ナルは一旦着地し、私たちを見上げながら再度、翔ぶ。


闇の巫女は上空から、ナルに向けて手裏剣を数発投擲、さらにカタルで舞っていた岩をナルに打ち付けた。


ナルは、手裏剣を《赤いかんざし》で、綺麗に捌き切り、頭や肩に当たる岩は無視して迫ってくる。


ナルは速かった。


ナルと闇の巫女の間合いは、一気にゼロだ。


右手で突き出された《赤いかんざし》は、左手カタルが、華麗に受け流した。


左手で薙ぎ払われた《赤いかんざし》を、闇の巫女は体勢を変えかわし、お返しに右手カタルをナルの胸に突き出す。


ナルは、宙に浮いていた岩を足場に、さらに跳ねてカタルをかわした。


空中戦は、ナルが上を取った。


ナルは、思い切り《赤いかんざし》を闇の巫女に振り下ろす。


闇の巫女は、かろうじてカタルで受け止めたが…。


"ガキィン"


響いた金属音を合図に、闇の巫女は弾丸のように跳ね飛ばされ、地に打ち付けられた。


「……痛い」

背中を打った闇の巫女は呟き、しかし、すぐさま疾走する。


直後、闇の巫女が居た場所に、上空から勢い良く下りたナルが《赤いかんざし》を二本、深々と地面に突き刺していた。


黒い疾風を、赤い迅雷が追いかける。


闇の巫女は急停止後、一気に方向転換した。


再び、黒と赤が衝突する。


低い姿勢から振り上げた左手カタルを、ナルは右手の《赤いかんざし》で、打ち払った。


闇の巫女は、続いて右手カタルで突きを放つが、これもナルの左手の《赤いかんざし》に打ち払われた。


だが、闇の巫女は止まらない。


闇の巫女は、突進した勢いのまま、前転し左踵ひだりかかとをナルの頭部へ叩き込む。


カタルを払うために両手を使用したナルは、防御が間に合わない。


闇の巫女の左踵は、風を切る音を上げながらナルの顔のすぐ横を通り過ぎる。


ナルは上半身を反らし、何とか踵をかわしていた。


"ドカッ"


ナルの身体が崩れ落ちる。


闇の巫女の二つ目の右踵みぎかかとは、まともにナルの後頭部を捉えていた。


着地した闇の巫女は、その足でナルの膝に蹴りを入れて、この間合いから離脱する。


"ザクッ"


闇の巫女が居た場所に、ナルが《赤いかんざし》を突き刺していた。


ナルは、叫んだ。怒っているのだろうか?

【ォオオォォオオオオ!!!】


「……あれは何?」

疾走しながら、忍装束の中に居た私に、闇の巫女が聞いてきた。


「解らないわ…ナルがあんなふうになるのは初めて」

私は自分の治癒を終えていた為、忍装束の中から闇の巫女を治癒していた。


「……厄介やっかい

闇の巫女は言葉を置き去りに、洞窟内を再び疾走する。




「姉ちゃーん!!ご飯だよぉ!」

そこに、ナルは素早く跳ねた。

そこに、闇の巫女も疾走する。


そこには、ナルの弟、ネオが立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る