第01話 家族

―― 衝撃の神の啓示から、二週間。



黒髪を、ツーブロックのマッシュショートで可愛くスタイリングした男子は、空の茶碗ちゃわんを差し出し、元気な声で言った。


「「 母さん、おかわり! 」」


同時に、おかわりを要求したのは、黒髪を赤いかんざし二本で結い上げ、赤い着物を着、赤い茶碗に、赤い箸と…赤に染まった少女、長崎ながさき奈留ナルだ。


剣の神の啓示けいじによれば、十四歳のナルは、この先、いくつもの残酷な宿命を乗り越えていくことになるだろう。

…彼女は、世界に七人いる巫女の内の一人、《剣の巫女》なのだから。


「やった!姉ちゃんに勝った!」

どうだと、言わんばかりに右腕を伸ばしている男子の名は、長崎ながさき根尾ネオ…ナルの二つ下の弟である。


「ふっふっふ、ネオ甘いわね!母さんが、空の茶碗を受け取って、初めておかわりは成立するのよ!」

そう言いながら、リーチ差でネオの茶碗を追い越したナルは満足気だ。


「はいはい、二人ともたくさん食べなさいね」

ネオの茶碗を受け取った女性は、米を山盛りにしてネオに返した後、ナルの茶碗を受け取った。


ネオは僅差の大勝利に満面の笑みでナルを見上げるが、ナルも次は負けないよ、とばかりに笑みを返している。


そんな二人に、何も言わず微笑みだけを向けているのがナルの父親で、山盛りにした茶碗を優しい笑顔でナルに返しているのが母親だ。


最高神が消失しようと、しまいと、そこには、いつもと変わらない仲睦まじい家族があった。


その食卓で、ナルがこっそり小皿に分けていたミックスベジタブルのグリンピースと人参を、ひたすら食べているベジタブル妖精……それが私だ。



―― 天上界では、とんでもない事態になっているようだが…

地上界は変わらず平穏な日々が流れていた。


ある巫女が動き出すまでは…

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