第7話 珈琲は月の下で 〜オパイtheセーラーウーマン2〜



 ある日の放課後、真っ直ぐ帰宅せずに駅前の商店街でウロウロと道草食ってたあたし、折井衣舞おりい いぶ(16歳)はとあるゲーセン前で足を止めた。

 店舗入口すぐに据えられたUFOキャッチャーの景品に目を惹かれたからである。

「うわぉビーチくんじゃん⁉」

 それは、ゴルフボールくらいの大きさのおっぱい型のマスコットであり、まるで本物のような手触りで揉むとランダムで5種類の喘ぎ声を出し、更に先っちょのビーチクを押すと『チンコ〜ン』と鳴るという、とってもファンキーなアイテムだった。

 う〜ん、これはなんとしても欲しい。

 今はあたしと同じくらいの女子高生らしき女のコがプレイ中だから参考の為、後ろで見させてもらう事にした。

 そのやや茶色掛かった綺麗な髪をツインテールにした少女はかなり入れ込んているようで、鼻息荒くレバーを操作している。

 するとアームがうまい具合におっぱいを2つ掴み、そのまま持ち上げていく。

「うおっしっ! 2個同時キタ――――‼」

 テンションか最高潮に上がる少女。が、次の瞬間、おっぱいはポロリとアームからこぼれてしまう。

「ノォ――――⁉」

 見るからにめっちゃ凹んでる少女。あたしも

「あ〜っおっしい」と、思わず呟いてしまった。

 その声が聞こえたのか、ツインテール少女がくるりと振り返った。

「見た⁉ 見た⁉ さっき2個掴んでたよねっ⁉」

「あっ、うん。惜しかったね……?」

 少女の迫力に押されながらそう言いつつも、その顔に何か違和感を覚えるあたし。 あれ? この顔、どっかで見たよーな?

 やや丸みを帯びた童顔にくるりんとした瞳。額の両側には親指程の角が生えていて……って、ツノ⁉

「あ――――っ‼ アンタっいつぞやの変態! 忘れもしない、えーっと誰だっけ……、確かTARZANターザン?」

「しっかり忘れてるやん! せめて BRUTUSブルータスって言えよ! 青井+あおいぷらすだよっ!」

 ああそうだ。コイツは改造おっぱい人間の青井+。人のおっぱい揉んでそのエネルギーを吸収して膨らむってゆ詳しくは『サンダルでダッシュ』を読んでねー、○○用品みたいなヤツだ。本当の姿は小学生のはずなのに今は女子高生ぐらいに見えるのは、既に何処かで誰かのおっぱいエネルギーを吸収したって事だろう。

 その青井+があたしの顔をジロジロ見、その視線が胸へと移動した瞬間、

「あ――――っ‼ おまっ、あたしを散々陵辱した女‼」と叫ぶ。

 でかい声で陵辱とか叫ぶなよ? つかコイツ、顔じゃなくておっぱいで人を識別してんのか?

 商店街だから、道行く人が何事かとコッチを見てくるし。

「ちょっと、恥ずかしいから叫ばないでよ?」

「うるさいっ! ここで会ったがコンニチハ、勝負だっおっぱい女!」

「はぁ?、こんなトコで暴れたら迷惑でしょ? それにあたしはおっぱい女じゃなくて、折井衣舞おりい いぶね?」

 あたしがそう言うと、青井+は多少声のトーンを落とした。

「それもそうだな。よし、ならクレーンゲーム勝負だっ」

 どうしても勝負したいのか、コイツは? まあいいや、クレーンゲームならあたしは得意中の得意だ。

「いいよ? じゃ、罰ゲームはどーする?」

「勝った方におっぱいを揉まれる」

 ……結局それかい。別にあんたのおっぱい揉んでも嬉しくないんだけど?

 そう思いつつ女子高生バージョンの青井+の胸の辺りをマジマジと見る。

 C〜Dカップくらいかな? まあ、容姿と相まって多少そそられるもんはあるかも。そのあたしの視線に気付いたのか、青井+は手で胸を隠すようなポーズをとった。

「……この変態!」

 うわぁ、ド変態に変態って言われちゃったよ。凹むなぁ。




 ◇



「じゃあ行くぞ? スタート!」

 その号令とともにあたしと青井+がゲーセン店内に散る。

 勝敗は制限時間60分でGETした景品の数とおよその値段で決まるってルールだ。

 安くて取りやすい景品を狙うか、高くて難しい景品を狙うかが勝負の分かれ目だろう。

 青井+はどうやら大きめのヌイグルミ狙いのようだ。

 対するアタシの作戦は……。


 まずアタシは店員に声を掛けた。クレーンゲーム必勝の第一歩は店員と仲良くなる事だ。なので比較的取りやすい、初心者向けの台がないか聞く。案内された台でまず、今人気のキャラとコラボしてる缶コーヒーとカフェオレをあっさりゲット。次に季節物の景品の有無を尋ねる。例えばハロウィン、クリスマス、あるいは夏、秋、冬、春とかの限定景品はその期間中に出してしまう必要がある。過ぎてしまえばもう、価値が落ちてしまうからだ。だから期間ぎりぎりの景品があれば、簡単な設定にされている訳だ。で、秋バージョンのア○パンマンのぬいぐるみをゲット(この後ハロウィンバージョンに入れ替える為)、同じ理由で賞味期限が近い大きめなお菓子(ゲーセンのお菓子は見栄え重視の為、大概デカイ)もゲット。

 その後、でかい金のボール状のクッションをゲット。これは青井+が何度か挑戦して諦めたところをハイエナして取れた。こういうデカイ物を扱う台は、アームのパワーが何回かに1回、最大になるという設定が多い。つまり、取れないからといって台をころころ移動するより、一つの台に集中した方が取れる確率がぐっと上がるのだ。そして大切なのがプレイする時には常に店員に側で見ていてもらう事。これは変な位置に転がった時にすぐ直してもらうのは勿論、その台に幾ら使っているかちゃんと把握してもらう為でもある。これは、店として台ごとに幾らくらいで取れるかを設定しており、あまりにも取れないと逆にヤバい為、失敗が続くとある程度店員が手助けしてくれるのだ。

 そんな感じで順調に景品GETを重ね、最後に小さ目のマスコットを2つGETした時点で終了時間となった。

 

 で、勝敗の結果だが、両手に大小様々な景品を抱えるアタシに対して、青井+は初心者台の缶コーヒーが2本のみという散々な有様だった。

 これはもう完全勝利と言っていいだろう。

「ふふ〜ん、どうみてもアタシの勝ちだよねw?」

 そう言ってやると、若干涙目になってぷるぷる震える青井+が叫んだ。

「おまっ! ずーっと店員横にはべらせてて絶対ズルしたろっ⁉ 見てたんだぞっ!」

「はぁ? 何、その言いがかり。店員さんには近くにいてもらったけど、取ったのは全部自力だからね?」

 これは本当の事だ。まあ、アドバイスは貰ったけどね。

「ウソつけっ! 絶対認めないぞっ! お前なんかこうしてやるっ」

 そう言うなり、青井+は素早くアタシの背後に周り、胸に手を回してきた。

「ちょっ、止めなさいってばモミモミモミモミ! あぁん」


 ―――その時。


「止めろ! 変態‼」

 その声と共にセーラー服姿の華奢な少女が青井+にライダーキックで突っ込んできた。

「ふげっ」

 キックがヒットした青井+が潰れたカエルみたいな声を出しながら倒れ込む。

「だ、誰だーって、あぁっ、またお前かぁ‼」

「あーっ! あの時のミルクガール‼」

 青井+とアタシがほぼ同時に叫ぶ。


 そう、そこにいたのは、いつぞやのセーラー服の少女だから、『サンダルでダッシュ』読んでねだった。


「ん? やぁ久し振り、お姉さん。って、ボクを某M1王者みたいに言わないでよ」

 そう言ってセーラー少女がニコっと笑う。ううっ、相変わらず美少年っぽい顔立ちに白い八重歯が眩しすぎてクラクラしそうになる。

 ってこの娘、いつもアタシのピンチに現れるけど、まさかストーカーじゃないよね?

「おまえ――‼ ここで会ったがこんにちはっ。あたしと勝負しろ――っ⁉」

 相変わらず空気読まない青井+がセーラー少女に叫ぶ。コイツはホント、勝負が好きだな。

「こんにちは。何の勝負?」

 いや、キミも冷静に受けんのかい。

「2対2で、アレで勝負だっ!」

 そう青井+が指差したのは、エアーホッケーのゲームだった。空気で浮かんだパックを互いの穴を目掛けて打ち合うアレである。

「いや、コッチはいいけどさ。アンタ1人じゃん?」

 アタシがそう言うと青井+はスマホを取り出し、何処かに連絡し始めた。

「ちょっと待ってろ? 今、最強の助っ人を呼ぶから」

 え、何? 最強の助っ人って。つか、いずれにせよコイツの知り合いならド変態で間違いないだろうけど。



 ◇


 待つことほんの数分でその変態は現れた。

 どう見てもパジャマとしか思えない牛柄のスエット上下に、買い物カゴをぶら下げたわりと普通っぽいオバサンだった。……胸以外は。

 最初、胸にハロウィンのおばけカボチャを入れてるのかと思ったくらい、そのおっぱいはデカかった。それはもうスイカップどころの話じゃない。もはや、ジャックオーオッパイひたすらイミフですがだ。

「どうだ、驚いたか? これが我が組織最強の刺客、改造おばさんのミノタロ代さんだ!」

 ……いや、おばさん改造してどうすんだよ?

 まあ恐らく精神的に最強な『おばさん』って人種を更に肉体的に改造したら、とんでもなく強くなってもおかしくはないけどさ?

「モー、プラちゃんはいっつも人使いが荒いモー。ちょうどその辺で買い物してたから良かったけどモー」

「……💧」

 うわあ、語尾にモーとかベタ過ぎるわ。ホントにコイツラ一体、どういう組織なんだろ?






「よし、じゃあ勝負だ!!」

 アタシとセーラー少女vs青井+とミノさんの戦いが始まる。

 さて、最強の助っ人ミノさんってどれだけの実力があるんだろ?

 改造おばさんと言うからには、もの凄いパワーを持ってるのかそれとも、目にも止まらぬスピードで動くんだろうか?

 そう考えてるとミノさんは「よいしょっとモー」と、ゆっくりパットを持って体制に入る。

 ……どこが最強なんだよ?


 が、その見下した感想は甘かった事をアタシ達は直ぐに思い知る事になる。

 ミノさんが前傾姿勢を取るとその巨大なおっぱいがデロンと台に垂れ、ゴールの穴を完全にふさいでしまったのだ。そしてそのミノさんの背中に青井+が覆い被さるような態勢でパットを持っている。守りと攻めを完全に分けた形なんだろう。

「ちょっとそれ反則じゃない!? 絶対ゴール入んないじゃん!?」

 たまらずアタシが抗議すると、

「おっぱい垂れるのは仕方ないモー? わざとじゃないモー」

「そうだ、そうだ! ただおっぱいがデカイってだけだぞ! 悔しかったらお前らもやってみろ」

 と、煽られてしまった。くっ、アタシはともかく、セーラー少女はほぼまな板だし。


 スタートの効果音と共に赤いパックが発射さる。それをいきなり強く弾いてくる青井+。女子高生モードとはいえ、かなりのパワーなのは間違いなかった。なんとか弾き返すアタシとセーラー少女。が、こちらが弾いたパックはミノさんのおっぱいガードに阻まれ、ゴールに入れるのはほぼ絶望的だった。

 落ち込んでる暇もなく、青井+がガンガン打ち込んでくるパックに必死で食らい付いていく。まずい、このままじゃ絶対勝てない。

 何かいい手はないものか……あっ!?


 ピンと閃いた。


 ちらりと横目で、必死に動いてるセーラー少女を見る。この子を利用するしかない!!

 実はこのセーラー少女、牛乳を飲むと瞬間的におっぱいがでかくなり、驚異的なパワーを発揮するという、一風変わったスーパーガール良い様に言ってますが要するに変態ですなのだ。

 今すぐ彼女に牛乳を飲ませたらきっとこの状況を打開してくれるハズ。

 でも、そんなに都合よく牛乳なんて持ってない? いや、あるんだな、これが。


「ちょっとだけ頑張ってて!!」

 アタシは少女にそう告げると、脇に置いてあった景品袋の中をガサガサ探る。

 あった! 

 取り出したのはさっき取った景品のカフェオレ。これって小洒落た名前してるけど要はコーヒー牛乳だよね? 取り敢えずミルクの要素があればいいハズ。

 でも、どうやって少女に飲ませよう? 今必死に応戦してるから渡せないし。

 よし、意を決したアタシは缶を開け、一口それを含む。

 そしてタイミングを見て横から素早く少女に顔を寄せ、口移しでセーラー少女に飲ませた。

「!!!!!!!?」

 一瞬目剥き固まる少女。

 その瞬間を狙われたらヤバかったけど、固まったのは向こうの二人も一緒だった。

「お、お前らなにやってんだーっ!?」 「キャーキャーキャーっΣ(゚∀゚ノ)ノ」

 と、わめくわめく。

 スッと口を外すと、ゴクンと少女の喉がなり、その瞬間おっぱいがボコンと膨らんだ。

 まだ唖然としてる少女にニッと笑い

「いっちゃって?」そう促した。

 すると少女は理解したのか、「うんっ」とうなづき、おもむろに台の上で逆立ちをした。

 えぇっ、ちょっと君何やってんの!?

 その感想は向かいの二人も同じだったようだ。再びその攻撃の手が止まる。

 スカートで逆立ちしたらパンツ見えるかと慌てたけど、ちゃんとスパッツ履いてた。うーん、ちょっと残念。

「行くぞ! 必殺炎のシュート呼吸ではありません!!」

 逆立ちの少女が叫ぶ。すっげぇ、逆立ち状態からどんなシュートが飛び出すの!?

 そう思ってたら、少女は普通にしれっと着地して、普通にシュートした。

「ええっ、今の逆立ちはなんだったの!?」

 まあとにかくシュートは普通だったけど、今はパワーアップ状態なだけあって、パックはそら恐ろしい勢いで左右に反射を繰り返し、やがて横向きだったのが縦になり、ミノさんのおっぱいの谷間に吸い込まれるように入り込んだ。そしてパックは谷間に挟まれてなお高速回転を続けている。

「な、なに!? ま、まだ回転してるモー!? た、谷間が擦れるっ、胸の谷で舞うてかっ!ああモーだめぇっ!!」

「えっ、えっ!? うそ、おい!?」

 辺りにミノさんの絶叫が轟き渡り、彼女は背中の青井+ともども後ろにぶっ倒れた。

 倒れる瞬間、パックがポンっと胸の谷間から飛び、そのままエアホッケー台に落ち、スルスルとゆっくり回転しながら向こうのゴールに吸い込まれた。

 得点が入る派手な効果音がなり、そのままタイムオーバーとなる。

「やったぁ! 勝った!!」

 ハイタッチで喜ぶアタシと少女。

 相手はといえば、見ると二人とも白目を剥いてのびていた。


「見たかっ これぞ必殺、炎のパイズ……ピ――

 わーっ、わーっ!!

 アタシは慌てて、少女の口をふさいだ。

 こらこら、ヤバいヤバい、コンプライアンスに引っ掛かったらまずいでしょうが!?







「ううっ、あんな反則技認めないぞっ」

 ミノさんのおっぱいガードは棚に上げて、青井+が泣きじゃくりながら言う。

「まあ別にこっちはアンタらのおっぱい揉むつもりもないしさ、いいんじゃない?」

 アタシがそう言うと、青井+は

「……今度会ったら覚えとけよぉ?」

 そうベタな捨て台詞を吐き、まだ昇天中のミノさんをズルズル引きずりながら帰ろとした。

「あ、ちょっと待って! はい、これ」

 呼び止めて渡したのは「ビーチくんマスコット」だ。先ほどのクレーンゲーム対決中に2個GETしておいたのだ。

「えっ、くれるの?」

 途端に青井+の顔がパッと綻ぶ。こーゆートコは年相応で可愛いんだけどなぁ。

「もう一個あるからね。それ、あげる」

「わあ、ありがとう!」

 と、輝くような笑顔で礼を言った後、すぐブスっとした顔に戻る。

「こ、こんなもんで懐柔しようとか思うなよ? 次もまた勝負だ」

「あー、ハイハイ」

 全く、ツンデレなやつだなぁ。そう思ってると、

「んっ」

 と、缶コーヒーを2本差し出してきた。これ、初心者台で取った唯一の景品だな。

「くれるの? ありがと」

 取り敢えずありがたくもらっておいた。

「じゃあな」

 と言いながら青井+は去っていく。

 ……ミノさん忘れてる気がするけど、まあいいか。






 外はもうすっかり暗くなって、綺麗なお月様がぽっかり浮かんでた。

「じゃ、ボクもこれで……ぐはっ!?」 

 サッと帰ろうとしたセーラー少女の襟首を掴んで帰さない。

「ちょっとアンタ、アタシのファーストキス奪っておいて、あっさり帰れると思ってないでしょうね?」

「えぇっ、奪われたの、ボクの方なんだけどっ!?」

「うるさい! 兎に角、連絡先交換ぐらいしないと帰さないから。ほら、そこのベンチで取り敢えず祝杯上げましょ?」

 そう言いながら、さっき青井+に貰った缶コーヒーを一本渡した。

「うーんボク、コーヒーは苦手なんだけどなぁ。お姉さん、母乳出ない?」

「出るかっ!!」

 

 


 そして……



 珈琲は月の下で、ね?







 完





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