第12話 「Dear K」 【オパイTheセーラーウーマン⑥】


 暑くも寒くもなく、程よい加減のとある放課後、人気のない路地を行くあたし(折井衣舞おりいいぶ16歳)は、何か事件を匂わせるような場面に遭遇してしまう。

 やたらでかいリュックを背負った茶髪の熊みたいな大柄な男が、道に倒れたJKらしき女の子に覆い被さっていたのである。

 Avの撮影かと思って辺りを見回したが、真っ黒いスモーク貼ったバンやら、マジックミラーを張り巡らしたトラックやらは見当たらず、とりあえず恐る恐る声を掛けてみた。


「あの~、どうしました?」

「oh! オジョーさん、いいトコロに。助けてクダサイ」

 振り返った大男は青い瞳の、どー見ても外人さんである。うわぉ、困ったな、アタシ英語はからっきしなんだけど。


「え、えーっと、あいきゃんのっとすぴぃくいんぐりっしゅ?」


「イヤ、だから日本語でハナシとるヤン?」

 と、流暢な日本語(しかも関西弁)で突っ込まれてしまった。


「へ? ああ、すいません。それでどーしました?」

 

 事情を聞くと、彼は世界中を旅してそれを動画配信してる人らしい。で、たまたまここで道に倒れてるJkを見つけたんで助けようとしてた時、ちょうどアタシが通りかかったという事だった。


 大男から説明を聞き、まずJkの様子を確認する。意識を失っているけど外傷はなさそうだし、呼吸も安定してる。気絶してるだけっぽいな。


「ボクが近寄ったトキにはまだイシキがあってん。ドナいしたん?って聞いたら、なんかツブヤいてはったから」

 うーん、外人さんの関西弁が流暢過ぎて頭に入りにくい。

「それで、なんて言ってたんです?」

「ウン、たしか……『Dear K』ってキコエたよーな? シランけど」

「え? 何です?」

「だから『Dear K』やねんって」

 ネイティブの関西弁の中にネイティブの英語を混ぜないでほしい。余計、こんがらがるわ。


「親愛なるK……ですか? また変わったダイングメッセージですね」

「 オイオイ、ダイニングにメッセージ残してドーすんねん? 『このチャーハン、チンしてタベテね』とかフツーか⁉ ソレを言うならダイイングメッセージやっチューねん。つか、まだシンでへんし」

 と、怒濤のように突っ込んで来る外人さんがとってもめんどくさい。


「とにかく、それは聞き間違いじゃないですかね?」

「カモねカモねソーかもネ」

 あーちょっとウザイな、この外人。


 何と聞き間違えたかは置いといて、手掛かりがないかJkを仰向けにしてみて、何か違和感を覚えた。制服の胸の辺りがブカブカなのだ。失礼しておっぱいをまさぐってみたら、まっ平らな胸にそぐわない大きさのブラをしている感触があった。まるでいきなりおっぱいが縮んだような……んん? 


 何かイヤ~なデジャブを感じていると、が路地の影からユラリと姿を現した。

 ソレを見るや、思わず叫んでしまうあたし。


「デケェ!!」 


「ソレや!!」


 叫んだあたしの言葉に被せるように叫ぶ外人さん。

「これかい!! そんでお前かい!!」

 『デケェ』を『Dear K』に聞き間違えたのか、って無理あるだろ!? 更に現れたのはやっぱりだった。


 見た目Jk風で、額に二本の角、おっぱいが三度見しそうな程のデタラメなデカさ。

 その名を青井プラスと言う。他人のおっぱいエネルギーを吸ってでかくなるという、真性の変態改造人間である。てか、いつも思うんだけど、おっぱいエネルギーってなんだよ?


 そして、今回現れたコイツはいつもに増して変態度が上がっていた。身体に対しておっぱいが異常なまでにデカいのである。まるでデフォルメされた巨乳マンガのキャラの様だ。


「あんた、そのおっぱいなに?」

 聞くと青井+がうんざりしたような顔をした。いや、うんざりしたいのはコッチなんだけど。

「またお前かぁ。ワ○ピースの○ミみたいなおっぱいが出来るか試してたんだよ」

 そうのたまう青井+。やっぱり馬鹿だな、コイツ。アレはマンガだからいいんであって、実際あんなのがいたら異常にしか見えないだろ?

「で、この娘のおっぱいエネルギーも吸った訳だ?」

 この変態におっぱいエネルギーを吸われると恐ろしい事におっぱいが萎み、2、3日は元に戻らないのである。

「ああ、おかげでKカップまで行ったぞ? 次はお前のを吸ってLだなw。エルはLOVEのエルだ」

 今時、Theかぼちゃ○イン↓昔、夏休みとかになる度やってましたとか誰が知ってんだよ? って、Lとか服のサイズじゃあるまいし。

 まあこの流れで行くと、おっぱい揉まれた途端、正義のセーラー少女が飛び込んで来るのがお約束なんだけど。

 だがしかし、さあ来なさいと身構えたその時、外人さんが割って入ってきてしまったのであった。


「オー! コミックからデてキたよーなキョニュー! Kカップおっぱい! ファンタスティック!! 」

 興奮して叫びながら青井+の手を取ってブンブン振る外人さん。


「誰がゴールデンアップル味↓都市伝説になったヤツですねやねん? ってか、このオッサンだれ?」

 と、青井+があたしに聞いてきたんで説明してやった。つか、面倒くさいボケ方すんなよ。


「ふうん、アレか。アレ? えーっと、あずきバーみたいな?」

「惜しい、ユー○ューバーだ、バカ」

「ドコがオしいネン? 阪神電車と阪急電車くらいハナレてるわ」

 ツッコミにツッコミを被せるなよオッサン。つか例えがわかりにくいから。


「で、迷惑系じゃないだろーな?」

 青井+が外人さんを睨みながら言う。

「メッソーもない、メイワクなんてカケないですわ」

 うん、既にセーラー少女の出番は潰しちゃったけどね。

「この倒れてる子、助けようとしてたしさ、いい人なんじゃない?」

 一応、フォローは入れておく。

「そうか。なら、ちょっと待ってろ」

 青井+はそう言いつつスマホを取り出し、何処かに連絡し始めた。


 待つ事数分、けたたましい爆音と共に3台のバイクがやってきた。どれもヤンキー仕様である。


「ウイッス、姐さん。お待たせしました」


 そう青井+に挨拶する3人は、いつぞやのニューハーフ愛ちゃんに筆下ろしされた疑惑(詳細不明)のヤンキー達だった。新しい世界が開けたかどうか知らないが、いつの間にか青井+の舎弟になってたらしい。


 青井+がヤンキー達になにやら指示を出す。

 するとヤンキー達は外人さんを強引にバイクの後ろに乗せ、あっと言う間に走り去ってしまったのだった。


「ちょっと、あの人何処に連れ去ったのよ? まさかまた改造とかするんじゃないでしょうね?」

「するかっ。観光スポット適当に回って駅まで送ってやれ、って指示しただけだ。あと、最後にお土産も持たせんのも忘れんなよ、って」

「はあ? あんたら悪の組織なんでしょ? なんでそんな親切なのよ?」

「バカか? 外人さんには親切にするのは当然だろーが? それが日本人だ」

 うーん、コイツの物の基準がわからない。まあ、親切なのはいい事だけどさ。




  ◇



 その数日後、動画サイトに例の外人さんの動画がアップされた。

 主に日本のアチコチを紹介しながら旅する動画である。

 その後ろの方に『コミックみたいなキャラに遭遇した!』って場面があり、あたしや青井+が軽くモザイク掛かって登場してた。そのあとヤンキーたちと愉しげに名所を回る珍道中があり、そして最後には山ほどの土産物の袋を持って日本を去る、とても満足そうな彼の姿があった。


 そしてその動画のタイトルは


『Dear K』だった。(たぶんKカップのK)










 『オパイTheセーラーウーマン』

 〜【Dear K】〜


  おしまい




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