第9話 愛と呼べない夜を越えたい 〜オパイ the セーラーウーマン③〜


 随分と寒くなってきたとある冬の夜、あたし(折井 衣舞おりい いぶ16歳)は帰宅途中、近道する為に公園の中に突入した。普段は照明ポツポツの薄暗い公園なんだけど今はちょっとしたイルミネーションで飾られてて、結構明るい。

 おそらくクリスマスのイルミネーションなんだろうけど、ちょっと前にハロウィン終わったばっかりで、まだ11月下旬なんだけどなあ。ほんと、こういうイベント事って変わるサイクル早いよね。

 ……ってか、カップル多くね? クリスマスを待ち切れないのか、こんなショボいイルミネーションに誘われて、まあカップルがそこかしこに居るわ居るわ。蛍光灯にたかる虫のごとく、うざいったらない。後学の為、ちょっと観察していこうか?ってノリで空いてるベンチに腰を下ろした。

 ったく、どいつもこいつもよく節操なくこんな公共の場でベタベタできるよねえ。

 ……とか思ってると、冬の夜の公園らしからぬ、とてつもなく場違いなモノがやって来た。

 それはビーチボールを抱えたエロい水着姿の女二人だった。どちらも豊満な胸をユサユサ揺らしながらカップル達の真ん中ぐらいに陣取り、おもむろにビーチボールで遊び始める。えっと、一体何が起こってるんだろ? あまりの出来事に頭が追い付かない。周りのカップル達もイチャイチャも忘れてドン引きしてるし。そんな冷たい視線もお構い無しでキャっキャと嬌声を上げながら遊んでる女子二人。クリスマス間近の夜を、強引に真夏に引き戻されたかのような、クリスマスキャロルをサンバのリズムで上書きされたかのような気持ち悪さ。

 しばらく口をあんぐり開けて見てると、アタシの方にボールが転がってきた。

 目にしみるような原色ビキニの女の子が後ろからトテトテと駆けてくる。

 間近で見ると、なにそれ?ってほどおっぱいデカかった。体つきもめちゃエロい。

「えっちだ……」

 転がってきたビーチボールを渡しながら思わずそう呟いたら、

「アイですよ?」

 と、エロい女の子に言われた。

「?」

 一瞬何の事かと思ったら、どうやらカップの事らしい。アタシは体つきがエッチだって言ったんだけどな……って、Iカップだと!? どんだけーっチョ○プラテンションで!?


「お姉さん、お一人ですか?」

 そのIカップショートボブのエロ可愛い女の子がアニメ声で聞いてくる。

「そーだけど?」

 多分、同年代っぽいんでタメ口でいく事にした。

「それはまた寂しいですねー」

「うっさいわ、ほっといてよ」

「一緒にビーチバレーしません? 水着もありますよ?」

「絶対やだ。つかなんでこのくそ寒い中、わざわざ水着でビーチバレーよ?」

 と聞くと、Iカップ娘はニマッと笑って言った。

「これはですねぇ、公共の場でイチャイチャしてるバカップル達のいい雰囲気をぶち壊すといういやがらせ作戦な訳です」

 うわあ、サイテーだな。つかそのパターン、こち亀でめっちゃ見たわ。

 アタシが呆れてると、もう一人の方もセミロングの髪をなびかせながら近付いてきた。

 あ、な〜んかイヤな予感がするな〜

 ……って思ってたら案の定、額から角が二本はえてるし。


青井+あおいぷらす、お前もか……」

 思わず呟いたら向こうも気付いたみたいだ。

「あっ、またお前かっ。行くトコ行くトコ出てきやがって。おま、ストーカーか?」

 いやそれコッチの台詞だっての。つか、そもそもド変態のアンタに言われたくないわ。

 そう、コイツは他人のおっぱいからエネルギーを吸い取ってデカくなったり縮んだりするという変態おっぱい改造人間なのである。その名を青井+あおいぷらすという。因みに中の人は小学生だったりするんだけど今の見た目は女子大生くらいってところか。前回の女子高生バージョンより、若干肉感的になってるし。

「何迷惑な事やってんのよ? だいたいそんな裸みたいなカッコで寒くないわけ?」

 って言ってやったら、

「ぜんっぜん、寒くないわ」

 とか言ってるけど、サブイボ全開で説得力皆無だし。


「チンポをメッキすれば火もまた涼しってゆーしな」

「心頭滅却だ、バカ。チンポ金ピカにしてどーすんだよ? だいたいアンタ、チンポついてないじゃん?」

 って突っ込むと、意外な方から反論あった。

「あ、プラちゃんは付いてないけど、アタシは付いてますよー?」

 Iカップちゃんがそう言いながら自分の股間を指す。

 胸に目が行って気がつかなかったけど、……確かにこれ以上ないくらい立派にモッコリしてました。

「げっアンタ、男だったの⁉ つかエグいの、モロに見ちゃったじゃない! 隠しなさいよ」

「いや〜ん」

 とかクネクネしながら取り敢えずパレオで隠すIカップちゃん。

「ふはははは、どーだ驚いたか? コイツこそ我が組織が誇る改造男の、Iカップのアイちゃんだ!」

 ……はぁ? 男の娘改造したのか、男の娘改造したのかどっちだよ?

 前回の改造おばさんといい、コイツらの組織って丸ごとバカだな。


「ところで、ここで会ったかコンバンワだ。ビーチバレーで勝負しろ!」

 と、またアタシに向かって叫ぶ青井+。うん、まあ言うと思ったけどね。

「絶対イヤ」

「ふん、断わっても……ブオンブオーン無駄で……ボボボボーボボ覚悟し……パラリラパラリラ〜ええーいっうるさいっ‼」

 実は青井+が喋ってる間にうるさい改造バイクが3台、公園内に乗り込んできてずーっと爆音鳴らしてるんだよね。見るといかにも頭悪そーな輩が三人、アクセルふかしてニヤニヤしてる。たぶん最近、絶滅危惧種に指定されてるヤンキーって人種だろう。最初カップル達を牽制するかのように睨み回してたけど、ズンズン近付いてくる際どい水着の変態に気付いたのか、急にキョドリだした。

「な、なんで水着?」

「撮影かなんかか?」

「どっかにマジッ○ミラー号来てんじゃね?」

 と、盛大に混乱してる。

「お前らうるさいわっ! 人の迷惑考えろよっ⁉ 公共の場だぞ⁉」

 と、青井+は清々しいほどのブーメランぶん投げてるし。

「いや、あの、……スンマセン」

 変態の気迫に押されたのか、あっさりエンジン切って縮こまるヤンキーの兄ちゃん達。それはそれで情けないな。もっと反骨精神を見せて欲しいもんだ。

「ここバイク侵入禁止じゃない? 何やってんの?」

 ってアタシもS根性出して責めてみる。

「えっと、その、カップル共に嫌がらせをしてやろうかと、はい」

 もはや仔犬のように怯えるヤンキーのその言葉に青井+が反応する。

「お前ら、そんな事して恥ずかしくないのかーっ⁉」

 いや、お前の後頭部にでっかいブーメラン刺さってるのに気付けよ?

「そんなんだから未だにドーテーなんだよっ!」

 って、初対面で決め付けるのは流石にどうかと思うけど。つかアンタの中の人、小学生だよね?

「そーっす、オレらドーテーっす。だから悔しいんすよっ」

 あ、認めちゃった。

「バカヤロ、だからって八つ当たりみたいな事するのは人として間違ってるぞ⁉」

 真冬にエロ水着でビーチバレーやるのは間違ってないのだろーか?

「まあ、まあ、プラちゃんもお姉さんも、そんなに責めないであげよ? 素直な良い子たちじゃない?」

 と、Iカップのアイちゃんが仏のような慈悲をみせる。すると何故かチェリー達がおっぱいを拝み出した。

「ははぁ〜ありがとうございますおっぱいありがたやおっぱいありがたやありがたや~」

 そりゃ童貞に爆乳って、猫にマタタビみたいなもんだよね。おっぱい見る目が血走ってるし。でもそれ男の娘なんだけど。

「あの〜説教された後で何なんすけど、お姉さんがた良かったら俺らと合コンしていただけませんでしょうか? ちょうど3対3ですし」

 一人のヤンキーがえらく下の方から提案してきた。つか性別的には4対2なんだけどね?

「きゃあ楽しそうっ」

「え〜、ヤダよ。アタシは遠慮しとく」

 男の娘アイちゃんはノリノリだったけど、アタシは全然その気ないし。

「よしっ、なら勝負だ!」

 と、何故かこの状況で唐突に叫ぶ青井+。

「だからビーチバレーなんかしないって」

「ちげーわ。アタシらの中で誰がモテるか勝負すんだよ。コイツらに決めさせる」

 はぁ? 全く何言い出してんだか。……って、ちょっと待て。この勝負、アタシのリスク大き過ぎない? だって、相手は見栄えはいいけど中身ど変態の小学生と、もう一方は男の娘だよ? もしこんなのに負けたら一生トラウマ級モンの精神的ダメージ食らわない?

「んじゃお前たち、せーので好みを指差すんだぞ?」

「「「へい、了解です」」」

 アタシの葛藤を尻目に、勝手に進める青井+。

「ちょっ、待ってって、まだ心の準備が……」

「せ―――のっ」

 だから待てっ言ってるのに、時すでにお寿司ベタですね

 恐る恐る上がった三本の指を確認すると……

 まあ、予想通りといいますか、見事に三本ともIカップのアイちゃんを指していたのでした。

「きゃあ、嬉しー」

 ぴょんぴょん飛び跳ねながらぶるんぶるん揺れてますはしゃぐアイちゃん。

「「納得いかーんっ!」」

 アタシと青井+はそれぞれ一番近くにいたヤンキーの襟首掴んでぶんぶん振りまくった。

「オマエら絶対おっぱいしか見てないだろっ⁉」叫ぶ変態に

「い、いや、そんな事ないっスよ⁉」弁明するヤンキー。

「だったらあの娘のドコが良かったか言ってみなさいよ⁉」更に責めるアタシ。

「ちよ、ちょっと小悪魔的なトコとか? かわいい顔して胸に一物イチモツあるみたいな感じがまたそそるんすよ」

 バカ、股にもイチモツがそそり立ってんだよ!とはうら若き乙女として流石に口に出せなかったけど。

「うれしーっ。アタシで良かったらいつでもお相手するよ?」

 アイちゃんのその言葉にチェリーボーイズが激しく舞い上がる。

「ま、ま、ま、マジッスか⁉」

「早速今からとかどーすか⁉」

「うん、いいよ? その代わりちゃんと満足させてね?」

「「「おおおおおおっ」」」

 ドーテーたちの声にならない歓声が上がる。

「任せて下さい! こう見えても俺ら、『羊の皮を被ったイチモツ』と言われてますんで!」

 ホーケーを格好良さげに言うなっつーの。

「やったーっ! 今日で卒業だーっ!」

 うーん、何を卒業するつもりなんだろ。あんまし想像したくない。

「よっしゃあ、それじゃあ愛の宿ラブホへGO TO トラベルだーっ」

 いや、GO TO トラブルの予感しかしないんだけど?

 ドン引きしてるアタシと青井+をよそに、チェリーたちは甲斐甲斐しくアイちゃんに革ジャン着せてやったりしてるけど、そのパレオの下には魔物が潜んでいるとは知る由もないだろう。

「ねぇ、あれほっといていいの?」

 と、青井+に聞いたら

「いいんじゃないの?奴らも新しい世界がひらけるだろ」

 その新しい世界がアブノーマル一色に染まりそーだから心配してんだけどね。


「じゃあ、姉さん方、彼女頂いていきますんで!」

「「ありがとさんです!!」」

「プラちゃんごめんね〜。お姉さんと仲良くやってね〜!」

 チェリーボーイズとアイちゃんがバイクに跨り、騒々しく去っていく。

 ふと気付けば、周りのカップルたちもいなくなってて、寒い夜の公園にアタシと青井+ド変態の二人だけが残されてしまってた。

 なんだかとてつもなく虚しい空気が流れる。


「ねえ、アイツ等どんな夜を過ごすんだろね?」

「さあ? まあとても愛とは呼べない夜を越えるんじゃね?」

 青井+が何だからしからぬ事を言ってるけど、そもそもお前ホントに小学生?

「……ところでアンタ、今日はアタシのおっぱい揉まないの?」

「えっ、何おまえ、遂に目覚めたのか?」

「ちげーわ、バカ。アンタがアタシのおっぱい揉まないと主役が出て来ないんだよね」

 いわゆるお約束って言うか、このままじゃタイトル詐欺だし。

「うーん、今日はもう面倒くさいわ。帰る」

 あ〜、流石のコイツ変態もアイちゃんの下りでお腹いっぱいになったか。実はアタシもだ。


「んじゃ、アタシも帰るかなぁ」


「おう、歯磨けよ?」


「カトちゃんかっ」


「何?カトちゃんて?」


「元ネタ知らずにボケないで欲しい」












 完


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