夢から醒めた夜に

「ん……」


 あたしはゆっくりと目を開く。

 夢を見ていた。懐かしい、と言っても最近のものだけど。

 それは、あたしの中に残り続ける、楽しくて幸せだった大切な時間の欠片だった。

 

「また、見ちゃうなんてね」


 があってから、彼との思い出をよく見るようになった。

 それは、笑顔で譲った気持ちの、その奥に仕舞いこんだ感情が、どうしても消えずにいつまでもくすぶり続けているからなのかもしれない。


「……」


 べッドから起き上がりベランダへ出ると、あの時よりもはるかに冷たい夜風が寝間着のレースから熱を奪い去っていく。

 あたしの頭や身体にしがみつく火照ほてりをも、うばい去っていく。


「これで、良かったんだよね」


 暗い雲海がどこまでも広がる景色へ向けて、ひとり笑う。

 そのひとみはしからあふれるものは、いつもと変わらない穏やかな月明かりを浴びて、輝きを失うことなく床へとこぼれ落ちていく。



 黒い翼猫は静かにたたずみ、少女のそんな姿を見守っている。

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テンシの居るセカイ 南方 華 @minakataharu

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