ひとは慈しみ合うことでまた歩き出せる。例えその存在が人間でなくとも。

転生ものですが、舞台は現代日本。そう、逆転生してきてしまった物語世界の住人「稀人」のオークであるザグルと、彼を拾い一緒に暮らすことになった女性、雪江を巡るものがたりです。
なんといっても、このものがたりの一番の見所はザグルのキャラ造形の見事さ。見かけからして怖いという印象しかまず持てないオークである彼ですが、その心根は暖かく、ちょっとコミカルで不器用ながら雪江を思いやる気持ちはどこまでも優しく一途。とにかくその存在全てが愛おしく、親しみやすい。その存在感にくるまれながらストーリーを読み進めることができます。ザグルというキャラが醸し出してくれる、安心感と心地よさが、この作品の醍醐味であると感じて止みません。
対して数々の過去に痛みを抱えて生きてきた雪江も、ザグルの存在に心癒やされ、やがて、自身の心の傷と真摯に向き合っていく過程が丁寧に描かれています。その心の変化を追っていけば、いつのまにか、主人公達の幸せを願ってやまない自分に気付きます。見事に引き込まれました。そして迎える大団円……!
読了後、ああ、この世は捨てたもんじゃないなあ、というほんわかとしつつも深い感慨にとらわれました。
なんとも幸せな気分です。
きっと、このお話を必要としているひとが、この世には沢山いるはず。
それだけに、このものがたりがもっと多くの方に届くことを願ってやみません。

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