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好き好んで不味いカレーを食べたいヤツなど居ないはずだ…。
「いや、結構です…」「このスパイスはヤバいよ…」「さっきのが台無し!」
そう言ってボク等は、キッチンに置いてあったグラスに蛇口から水を注ぎ、二度三度口を濯いだ…。
「元カノのカレーよりも、きっとインパクトはあるはずでしょ?コレを食べているから、あちこちで話題にするってわけ。忘れられないカレーでしょうね?フフフ」
「オマエも酷いな…」「鬼だな…」「ヤツ以上に悪だ!」口々に悪態が飛び出す。
「でも天誅ですよね…」後輩だけがやはり独り、カノジョの味方をした。
確かにカレは、事ある毎にカノジョのカレーの話を持ち出していた。
もはやネタだな…そうボクは思ったことすらある…。
酔うと必ず「不味いんだぜ?」と始まるわけだ…。
"不味いカレー"の話で、カレは常にカノジョを思い出しているのかもしれない。
ん?ひょっとしたら、口では文句を言うけれど、むしろ今では気に入っているのかもしれない…カノジョのカレーを。
そう思うとボクは、カレが普段文句を言っている"問題の"カレーの方も、試してみたい気になった。
「食べる分とは別に、そのスパイスを入れた…"ヤツのカレー"も作ってみてよ?」ボクは言った。
「試してみるんだ?」再びニヤリと笑うカノジョ…。
二十分後…。ボク等用の"普通のカレー"と、"ヤツのカレー"がテーブルに並べられた。
"普通のカレー"は、"普通"に旨かった。味見のときよりも更に馴染んでいた。
「うん、美味しい!」「なかなかだな…」「オレ、好きかも…このカレー」
口々に皆が褒める。
「光栄ですわ」嬉しそうにカノジョは笑った。
それぞれの皿に盛られた"普通のカレー"は、すぐに皆の胃の中へと消えた。皆が揃って完食した。
そして問題の"ヤツのカレー"…。それまでとは打って変わって皆、テーブルの真ん中に置かれた小皿へと恐る恐るスプーンを伸ばす。
中には目を瞑ってスプーンを口に運ぶヤツも居た…。
「う~ん…。不味くはないけど、あまり旨くはないな…」
「さっきの方が断然、美味しいですぅ~」
「アレの後じゃあ、ひと口で充分だな…」
「やっぱり、最後のスパイスは余分じゃね?」
それぞれの反応は、やはりどれも肯定的とは言えなかった…。
だが、ボクの頭には、先ほどよぎった考えが再び浮かんだ。
愚痴こそこぼしているが、もはやカレはこのカレーを嫌いではないはず…。
カレは、カノジョのカレーの愚痴を言うことを楽しんでいるのだと。
「きっとヤツは、このカレーを気に入ってると思う…」
呟いたボクに、皆が一斉に反論する。
「はぁ~?!」「んなわけないだろ?!」「先輩、何言ってるんですか?!」
ただ…カノジョだけは違う反応だった。
「そうかなぁ~?」と今度はニンマリと笑う。
「じゃあ、そろそろ"普通に美味しく"作ってあげようかな?」
カノジョのコトバに、スパイスは色々と…実に複雑な味がするものだと、ボクは思った…。
*****
料理にはドラマがある。馴染みの料理ほど、それを巡って数多くのドラマが繰り広げられているのかもしれない。
-了-
スパイス色々…。 宇佐美真里 @ottoleaf
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