宇佐美真里

ぴったり１００文字で語られるひと時。

ぴったり１００文字で語られるひと時。

ぴったり１００文字で語られるひと時。

ぴったり１００文字で語られるひと時。

聞こえるか聞こえないかのギリギリの大きさで、 前を歩く彼に向かって、私は言ってみた。

交差点沿いのカフェ。窓際の席にオトコが座って居る。 オトコは交差点をずっと眺めている。

隣の席、斜向かいのソファに腰を下ろした男性が、 ウエイトレスの持って来た"おしぼり"の袋を開けながら言った。 「アイスティーお願いします」

『俺の名前は×××。職業は探偵さ…』 其んな出だしで始まる探偵小説が在った様な気もするが、 其んな風に格好をつけるまでもなく、俺の仕事も探偵さ…。

制限されていた時期も終わり、人々は一斉に移動を開始した。 国内・海外。其れ迄の鬱憤を晴らすかの様に一斉に。 連日テレビに映る…箍が外れた様に移動を開始した人々の様子を、 ぼおっと…

「海が見たいな」妻が朝食後、突然言い出した。 「これから？」当然僕は聞き返す。 「そう。これから」彼女も当然と言わんばかりの顔をして答えた。

冷蔵庫より麦酒の缶を手にし、食卓で音楽なぞを聴きながら暫くグラスを傾けて居ると…

点きっ放しのテレビには、 再生を終了したＤＶＤのメニュー画面が映ったまま、 短く同じ動きを繰り返していた。 「また、やっちゃった…」

毎朝僕は同じ言葉を投げ掛ける。 其の言葉に毎回、即答する彼女。

あさのゆきみち てつなぐふたり…。

目を細めながらテレビを見ているボクを見て、母が訊く。

そう、今日は二十四日。クリスマスイヴ。

街はクリスマスのイルミネーション一色。 この季節、一年の中で街が一番に華やかな彩りを魅せる時期だと、ワタシは思う。

私は、左手に持つリードの先で歩道を右に左に…と落ち着きなく歩く仔犬に、注意しながら歩いていた。 連れは其の少し後を、鼻歌と共について来る。

さっきから何時間も、幾つもの地図を広げ彼は、 あぁでもない…こぉでもないと、頭を掻いて悩んでいました。

暖かい部屋の中で、男の子が姉さんに言いました。 「お姉ちゃん。これ、クリスマス・プレゼントだよ」

シーズン最終戦。 「今日も頼むぞ！」 いつもの様に、彼の背中を俺はポンと軽く叩いてマウンドを降りた。

ついに今年も残すところ、あとふた月足らず。 いつものとおり、この小さな建物の中では、恒例の評議会が催されようとしていた。

目の前の重い木の扉を開ける。カランカラン…と扉の上部に掛かるドアベルが低い音を立てた。 扉を内側に入る前に一度、後ろへと振り返り、誰か知っている者に見られていないかと周囲を確認す…

自室から出て来た娘が、キッチンに居る私の様子を見て、悲鳴を喚げた。 ピラフ。 本来は、炒めた米と魚介や肉等の具材を、スープで炊く料理であり、炊かれた米を具材と炒めた物はピラフと…

「何でも、君たちの描きたいと思う物を描いてごらん」 僕は幼稚園で幼い子供たちと毎日顔を合わせている。 お絵描きの時間は毎日お昼寝の時間の後に設けられる時間だ。

「何故、あんたは其の白い猿を探すんだい？」

そっとベッドを抜け出して行くカレ。 寝室の扉が静かに開き、すぐに閉まる。カチャリ…。 幾つか響いた一連の微かな音が止み、寝室には静寂が戻ってくる。

初めて入るラーメン屋。カウンターだけの小さな店だった。 "Ｌ"字状に伸びたカウンター前に固定された椅子が八つ。其れだけの狭い店。

僕は薄く黄色掛かった液体の中に浮かぶ氷をグラスの側面に当てて、カラカラと音を立てながら言った。 「そして昔の記憶が甦った…と云うわけですね」 カウンターの向こう側で、ひとつずつグ…

もっとこわいもの　やってきた　おおかみなんか　こわくない

進行中のプロジェクトも大詰め。 もうプロジェクト開始から三ヵ月が経とうとしている。 深夜のタクシー帰りもすっかり板についてしまった…。

仲間たちに囲まれて、にこやかに笑う彼を遠目で見ながら、私はふと過去を振り返る…。 彼と付き合うようになって何年？もう五年か…。

こんな汚いスニーカーをいつまで履いているつもりなのかしら…。

目の前の道は二手に分かれていた。男は立ち止まり考える。

単車に乗って、本当に心地良い気候は、 其れに乗らない人が思っている程には長くない。 もう此の季節、少し長めに乗っていると、もう寒いくらいだ。

両手で顔を触り、其れが"人"の其れでないことを再認識させられて居ると、 ベッドの隣で寝ていた妻が目を覚まし、私の頭を撫でながら言った。

高校一年の私が、中学の頃から憧れていた先輩へと、 思い切って連絡をしてみると、 週一回、少しずつ勉強を見て貰えることになった。

何ひとつ変わらないはずなのに、其の音は賑わいの中で聞く其れと 到底同じものに思えないのはどうしてだろうか…。

「だって、森の中歩いて随分経ってるよ？道…間違えたんじゃない？」 「いや、合ってるって！何度も来てるんだから…」 「こんな森の奥にカフェがあるとは思えないんだけどなぁ」

見渡す限り、氷以外何ひとつ見当たらない場所で、一羽のペンギンと一頭のシロクマが向かい合って座って居る。 いや、座って居る様に見えるのはシロクマだけで、果たしてペンギンが座って居る…

今日は遠足。 秋の遠足はバスに乗ってのクリ拾いだ。 春の遠足には歩いて、学校のそばの河原に行った。

半年前に報道された或るニュースで事態が急展開した。 『新型ウイルスに対するワクチン及びその特効薬の臨床試験が、 最終段階に入り、安価かつ大量生産・大量供給が可能となる目処をつけ…

前日から前もってアイロンでシワを伸ばしておいた浴衣を、幅広のハンガーから外し袖を通す。

尋常ではない汗だ。浮かんできた汗は、自分の重みに耐え切れず、ひと筋たらりと流れた。 ひと筋流れ始めると、玉のように浮かぶ汗は、我も続けとばかりに次々に競うように流れ始めた。 さら…

エアコンに慣れてしまった身体には当初、耐えられそうもないと思っていたはずの暑さも、蝉の声同様…不思議と気にならずになりつつあった。

テレビ局が、予定していた番組を変更し其の特報を報じたのは昨晩のこと。 此の特報は、其の"元凶"同様に瞬時に世界中へと広まり、人々を安堵させた。

店内にはジャズが流れていた。 「お疲れの様ですね…」 カウンターの内側からマスターが静かに語りかけた。 「寄る年波には勝てないさ…流石にね」

「悪くないね…」 ポーン、ポーンと鳴る音は、見た目の酷さから想像していた程には、調律が狂っていなかった。