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そんな裏話を聞きながらカノジョは既に、"ご自慢のカレー"に取り掛かっていた…。
「知ってるよ。アイツが方々で文句言ってるのは…。アハハ!」
文句を言われているのを知りながらも、何故カノジョはその味を改善しようとはしないだろう…。同じことをその場に居た皆も思ったはずだった。
「前にね…」
鍋の中のカレーをオタマでゆっくりと混ぜながらカノジョは言った。
「付き合い始めてすぐの頃に、カレーを作ったんだ…」
静かにオタマを動かし続ける。
「そんなに上手ではなかったと思うよ…確かに。でも、カレに言われちゃった…」
「何てです?」後輩が訊いた。
「元カノのカレーの方が旨いって…」
一瞬張り詰めたその場の空気…。
「酷いですぅ~!」後輩だけでなく、男どもも口を揃える…。
「あらららら…」「ヤッちまったな…」「サイアクだぁ~っ!」
「だよね…。で、ワタシもそれから美味しくできるように努力したよ…。でも、ふと悔しくてチョット懲らしめてやろうか…って思ったわけ」
「いや、それもどうかと思うけど…」ボクは言った。
「うん…。それで色々と試しているうちに、スパイスカレーに出会ったのよ。これが実際、面白かったの…。ルゥで作るカレーよりもね」
言いながら小さなスプーンを取り出し、鍋の中からひと掬いすると味見をして言った。
「大方、完成かな。あとはもう少し煮込むだけ。味見してみる?」
そう言って小皿におタマから少しだけカレーを注ぐ。
ここまでの話を聞いていなかったら、この時点で誰も味見をしたがらなかっただろう。しかし、様子は当初とは少し変わっていた。
後輩が先ずキッチンへと立ち上がり、カノジョからスプーンを受け取って味見をした。ボク等もそれに続いて立ち上がり、次々に味見をする。
「普通に旨いね」「うん」「いや、レベル高いでしょ…これ?」
「ありがとう。じゃあ、今度はコレを舐めてみて?」
別の小皿に何やらスパイスをひと振りしてボク等に差し出した。
ボク等は代わる代わる、皿の中のスパイスを指で舐めてみた。
「うわっ!」一瞬、酸味がツンと鼻に抜けた後に、苦味が口の中に広がった。
「このスパイスをカレのカレーにいつも入れてるんだけど…。入れてみる?」
カノジョはニヤリと意地悪く笑った…。
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