また始まった…とボクは思いながら、酔っぱらったカレの愚痴を右から左へと流していた。

「不味いんだよ…毎回。毎回だぜ?信じられないだろっ?」

「信じられないね…」

毎度毎度の愚痴だった…。余程カレの心の中に"しこり"となっているのだろう…彼女のカレーは。

「カレーって、失敗しないレシピだと思うんだよな…。だろ?」

「そうだね…基本的には」

「スパイスから作るとか言って、わけの分からない余計なスパイスを混ぜてるんだぜ…」と溜息をついて、焼酎のジョッキを傾ける。

「スパイスから作るなんて本格的だね?素人なら市販のルゥを使えば済むだろうに…」

「だよな?オレも言ってんだよ…。でも、またその次の時にも変わらず変な味にするんだよ…」

「そこまで言うんなら、今度はオマエが作ればいいのに…カレーライス?」

このセリフも毎回ボクは言っている。ここまでがワンセットだったりするくらいだ…。だが、何故かカレはけっして自分では作ろうとしない…。


幾つもの疑問はあった。

カノジョの料理…他は皆、不味くないらしい。むしろ旨い方だと言う。

味見はしないのか?…カレが見ていると味見らしきことはしているらしい。

「不味い…」と言われて何と言い返すのか?…「そうかなぁ~、不味いかなぁ?美味しいと思うんだけど…」だそうだ。

本人には不味いという自覚がない…。それでは改善もなかなか難しいだろう…。

「頑固だよな?そう思わない?アイツ…」

かなり酔いもまわり、呂律も怪しくなりながらカレは言う。


果たして頑固なのは、味を変えようとしない彼女なのか、意地でも自分で作ろうとしないカレなのか?

そんなことを思いながらボクは、皿の上で既に冷えてしまったツマミを、食べるでもなく箸で突いていた…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る