「グスコーブドリの伝記」という、宮沢賢治の童話があります。
グスコーブドリという、一人の少年が、押しつぶされそうな現実の中を生き、しかし周りの幸いのために、災害にたった一人で立ち向かった男となった話です。
本作は、そのグスコーブドリが、現代に、それも新宿という地に生まれ落ちたら……というお話です。
のっけからグスコーブドリが女の子という時点で、もうハードな展開しか予想がつきませんでしたが、そのハードさを飲み込んで、読んでいく価値のある一作だと思いました。
ひとりの人間が生まれ、生きて、生き抜いて、そして己が才により、周りをより良くしていくことができ、そしてそして……そんなお話です。
哀愁の中、不思議な魅力と迫力をたたえている逸品です。
どうか、ご一読を。
社会の片隅で生きる少女、グスコー。
その生は踏みにじられ、弄ばれる。
少女の瞳から光が消えていく。
一人の歌い手、古ぼけたギター。
「全ての曲は憧れと愛情と憎悪を原動力に作られた」
言葉が、沁みる。
「虚無からは何も生まれない」
グスコーはギターを手にとる。
歌が生まれる。
少女の瞳に、光が灯る。
グスコーは歌う。憧れ、愛情、そして憎悪。
一番届け難い歌だ。私たちが蓋をしたい感情。呑み込まれてしまう感情。
でも、グスコーは歌う。憎悪の先で生きる自分を。
グスコーはちゃんと届けるのだ、みんなに。
この物語を契機に、「グスコーブドリの伝記」を読んだ。
知らないだけで、私たちは幾人ものブドリの先で生きているのだろう。
耳を澄ませば、歌声が聴こえる。
私たちはこの世界を渡る。祈るように。
憧れと愛情と憎悪を、原動力として。