第65話 文化祭2、麗華knows...


 2Aの教室を出た麗華は代田を後ろに引き連れて特製プラカードを掲げ各教室の前をまずは一回りすることにした。代田はいつものカバンを手にしている。


 2年生の教室前から3年生の教室前に回っていき、最後に1年生の教室前の廊下を通った。


 廊下には手の空いている生徒たちがそれなりの数歩いており、派手な電光プラカードを持った上、生徒にとってのいわゆる高嶺の花である麗華は注目を集めた。


 麗華自身、プラカードにそれほど集客能力が有るとは思っていなかったが、なんであれ注目を集めていることは確かなので、ある程度の集客効果はあるのだろうと軽く考えていた。


 一通り各クラスの前を通って様子を見た麗華だったが、取り立てて目を引くような出し物はなさそうだった。文科系サークルの出し物でも見てみようかとプログラムを見たところ、じきに講堂で軽音楽部のコンサートが始まるらしい。


 白鳥学園の軽音楽部はその界隈では結構有名なクラブと評判なので、時間つぶしにはちょうどいい。明日も軽音楽部の出し物があるので、生徒だけの今日は一般開放される明日に向けての予行演習のようなものだろう。


「代田、講堂に行って軽音楽でも聞いていましょう」


「はい。お嬢さま」


 白鳥学園の講堂は体育館も兼ねたもので、一度テロリストに占拠されたあの体育館のことだ。


 パンフレットに書いてある開演時間が迫っていたので、麗華たちは急いで講堂に向かった。


 講堂の入り口では軽音楽部の1年生部員が入場者にパンフレットを配っていたので麗華たちは一枚ずつパンフレットももらった。


 観客の入りは三分さんぶ程度。時間帯を考えればそれなりの観客だ。麗華と代田は最前列で空いていたスチールチェアに二人して並んだ。当たり前だが、特製プラカードは麗華の膝の上だ。


 二人は入り口でもらったパンフレットを見ながら開演時間を待っていた。


「面白い曲目よね」


「これは期待できますね」


 なぜか代田の目が輝いている。


 パンフレットには、出演者の名まえとパート、それに演奏する曲目が書かれていた。曲目は4曲。


 出演者は、ギター2人、ベース、ドラム、キーボード各1人の計5人。3年生3人に2年生が2人だった。パンフレットによるとキーボードの3年生の女子がボーカルも兼ねている。


 開演時間となり、照明が落とされステージがスポットライトで照らされた。ステージ上にはすでに楽器やアンプなどが置かれている。ステージの袖から出演者が駆け足でステージ中央にやってきてその中の部長らしき生徒が口上を述べた後、それぞれの楽器の位置に着いて、音合わせを始めた。


 麗華は音合わせの中で、キーボードの音のタイミングにブレがあることに気づいた。ステージ上を見ると、何だか顔が赤く見える。


「キーボードの人、なにか変じゃない?」


「額に汗をかいています。顔色もすこし変です」


「代田、行ってみましょう」


「はい」


 麗華と代田が席を立ち、つかつかとステージに上がっていった。ステージ上の出演者も観客席の生徒たちも唖然として見守る中、代田はキーボード女子に近づいていって声をかけた。


「だいじょうぶですか?」


「すみません。お腹が痛くて、もう我慢できないくらいなんです」


「すぐに救急車を呼びます」


「待ってください。わたしが病院に運ばれたら代わりの者がいません」


「それならわたしが代役を務めるわ。キーボードってピアノのような物でしょ? 楽譜があるみたいだからだいじょうぶ。わたしに任せなさい」


 相手は麗華の1年先輩の3年生の女子だが、麗華の物言いに何も言わずうなずいた。ステージ上の部員の他ステージのそでにいた軽音楽部の担当教師が慌ててキーボードまで駆けてきた。


「先生、わたしが代役を務めますから大丈夫です。救急車が来たら先生は付き添いお願いします」


 代田は麗華が話している中、スマホを取り出し119に電話して救急車を呼んでいる。


 それから10分ほどで救急隊員がストレッチャーを押して講堂に駆け込んできた。女子生徒は軽音楽部の担当教師付き添いの下、ざわつく講堂の中を救急車に運ばれて行った。


 その間、麗華はアンプを絞ってキーボード上のスイッチ類の使い方を確かめていた。


「それじゃあ演奏を始めましょう。時間がだいぶ過ぎているから4曲のうち2曲だけね。しっかりやりましょう」もはや軽音楽部の部長である。


 麗華の仕切りで演奏が始まった。もちろん麗華はキーボードだけでなくヴォーカルも務めている。



 ……。


 1曲目が終わった時に来場者が急に増え講堂はほぼ満員になった。


 2曲目が終わり、アンコールコールが湧き起った。

 

 10分ほど時間を延長してもらい、全4曲演奏してしまった。次の出し物のため軽音部の生徒たちがすぐに舞台の上の機器を片付け、あとの出し物の迷惑にならないようにした。


 コンサートの後、軽音楽部員たちの感謝の言葉と観客の生徒たちの拍手と視線の中、麗華たちは講堂を後にした。


「ところでお嬢さま、軽音楽というのは昭和時代の演歌のことだったとは。私も軽音楽のファンになりました」


 1曲目が北〇宿から、2曲目が冬〇ホタル、3曲目が川〇流れのように、4曲目が函館〇女では無理はない。


「今の4曲を軽音用にアレンジした人は昭和の演歌によほど思い入れがある上に才能あるみたいよね」


「わたしと同世代だったのかもしれません。

 それはそうと、お嬢さまの歌声。アルトというんですか、圧巻でしたな」


「あら、ありがとう」


「お嬢さまがあれほどお上手に演歌を歌いあげられるとは」


「曲が軽音風にアレンジされてたけど、うまく歌えたところを見ると、わたしに演歌の歌詞って合っているのかも」


「お嬢さまはなんでもお似合いですからな。

 屋敷にカラオケ設備を導入してカラオケルームでも作りませんか? ミラーボール付きで。

 屋敷の皆もきっと喜びますよ」


「それくらい好きにやってくれていいわよ」


「さっそく手配いたします」


「そういえば代田の歌って聞いたことないからある意味楽しみね」


「へたの横好きで、昭和の演歌限定ですが結構レパートリーはあるんですよ」


「へー。そうなんだ。意外だけど、確かに代田はなんでもこなすから歌も相当うまそうだものね」


「お嬢さま。ハードルを上げないで下さい」


「ははは」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

法蔵院麗華~無敵のお嬢さま~ 山口遊子 @wahaha7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ