第64話 文化祭1
麗華の通う私立
麗華の屋敷での特訓も終わり文化祭の準備も着々と進んでいった。
本番前日の金曜日。生徒たちの準備は夕方前にはあらかた終わっていた。その夕方、電気店から電子レンジなどが麗華の教室2年A組に運び込まれ取り付けられ準備は完了した。
本番初日の土曜日。午前9時から文化祭が始まる。それまでの間、各クラスは出し物の最後の準備をすることになる。終了時刻は午後4時。
麗華の屋敷から、午前8時に当日分のカレーやピラフ、それにクッキーなどがワゴン車で送られ、教室に運び込まれている。飲料水用のポリタンク、湯沸かしポットや食器類は麗華のクラスメイト達が各家庭から持ち寄ったものだ。
教室は厨房部分と喫茶部分と簡単な着替え部分に分けられて、着替え部分だけカーテンで仕切られている。喫茶部分では、机が4つくっつけられたテーブルの上に、白地のビニールクロスが掛けられている。このクロスは、先週麗華邸での昼食時に使用したものを適当に裁断したものだ。普通に購入すればビニールクロスと言えどもそろえるには結構な金額となるため、麗華が持ち寄ったという形にしたものだ。
文化祭本番でのメイドの服装は、裾を少し上げた冬物の制服に自作の白いエプロン。それに白タイツを履いて、頭に自作のプリムを着けるだけである。プロに発注しない以上その程度に落ち着くだろうと麗華も予想していたので衣装について何も言わなかった。
2年A組の教室前の廊下には、麗華の次席執事、田宮が撮影した顔写真を元に作られたメイド姿の女子生徒のデフォルメ画像がポスターになって並んでいる。ポスターの背景がピンクだったこともあり、どこかの風俗店っぽいところがあったが、麗華を含め誰もそこには思い至っていない。数名の男性教師は気付いたようだが、あえて
校内に数カ所ある掲示板には宣伝係が自分たちで作った
麗華自身は、どの班にも属していなかったので、文化祭の二日間とりたてて仕事はない。強いて言えば、クラス全員参加の最後の後片付けだけである。
よそのクラスの発表や、講堂などで行われる演劇部や音楽関係のサークルの発表を見て回るつもりだったが、ただ見て回るのでは意味がないため、2年A組のメイド喫茶の宣伝をしながら校内を見て回ることにしていた。
具体的には、麗華は宣伝要員の遊撃手として特製のプラカードを持って校内を回るつもりだ。ただ単純にプラカードを持って歩くだけでも麗華が持っているだけでかなり目立つのだが、本人はそういった認識はないため、凝ったプラカードを専門の業者に発注して製作してもらっている。
リチウム乾電池内蔵のプラカードの表裏には高輝度で発光する薄膜ディスプレイが張られており、『2年A組』、『メイド喫茶』などの文字の他、教室の前のポスターと同じ女子生徒のメイド姿をデフォルメした画像などが順に表示される仕組みになっている。プラカードは若干重いが半超人化している麗華には全く苦にならない重さである。肝心の麗華の服装だが、こちらはいつもの女子学生服だ。
午前9時5分前。
クラス全員が教室に集まっている。すでに全員の準備は完了して、客の入店を待つばかりだ。
「それでは、張り切ってまいりましょう」
「「はい!」」
麗華の声に応じたクラスメイト達はそれぞれの持ち場に散っていった。麗華はクラスの様子を見ることもなく、特製プラカードを持って教室を出ていった。
午前9時にチャイムが鳴り、文化祭は開幕した。
生徒限定の初日のため、仕事もなくブラブラしている生徒はまだ少ない。それでも、いないわけではない。2Aのメイド喫茶にも、男子生徒が入ってきた。
教室にいるウェイトレスは5名。その5名が揃って、
「「お帰りなさいませ、ご主人さま!」」
その声に、男子生徒はびっくりしたが、それでもいい気持ちではある。
男子生徒を席に案内して、女子高生メイドが伝票を用意して注文を取った。
「ご主人さま、ご注文は何かな?
お勧めは、ミルクティーと、梅干しクッキーだけど、カレーもピラフもおいしい
最後の
「じゃあ、お勧めのミルクティーと梅干しクッキーお願いします」
「かしこまりました。ご主人さま」
伝票を持った女子高生メイドが、厨房係にオーダーを通す。
すぐにお盆の上に梅干しクッキーの乗った小皿と小皿の上に紅茶の入ったティーカップとティースプーン、それにミルクピッチャーと角砂糖の入った砂糖ツボが置かれた。
お盆を持った女子高生メイドが客の男子生徒の前に、紅茶とクッキーを置き、
「ご主人さま、お砂糖は何個かな?」
「は、はい。2つで」
角砂糖を一つずつシュガートングで挟んで、
「ひとーつ、ふたーつ。
ミルクは入れるのかな?」
「はい。お願いします」
女子高生メイドがミルクピッチャーからティーカップにミルクを注いだあと、
「
「えっ?」
「初めてのご主人さまだからサービスで3ついれてあげるね!」
女子高生メイド
「おいしくなーれ、萌え萌えキュン。おいしくなーれ、萌え萌えキュン。おいしくなーれ、萌え萌えキュン」
本人を含め周りで見ていた女子高生メイドたちが大笑いを始めた。
男子高校生は頬を赤くしてしまったが、明日もまたここにこようと心に決めていた。
紅茶を一口飲み、梅干しクッキーを手に取って口に運んで、前歯で食べようとしたが歯が立たない。奥歯の方に移動させ、思いっきり噛んだら何とか砕けた。その間に梅干しが落っこちてしまっている。運よく皿の上に梅干しが落っこちたので、クッキーを皿に一度戻して、先に梅干しを食べることにした。自分のうちで目にする梅干しよりよほど大きな上に焼いているので甘酸っぱい梅の香りが強く鼻を刺激する。口に入れると、甘味と酸っぱみ、そして塩味が絶妙のハーモニー、いやコラボレーションでお互いを引き立てながら口の中一杯に広がった。
梅の種までおいしい。いつまでも種を口に入れてもおけないので、種を皿の上に出して、紅茶を口に入れると、今度は紅茶のわずかな苦みと砂糖の甘味、ミルクのまろやかさが、先ほどの梅干しの味をすっきりと洗い流していく。
そして、クッキーを口に入れ一齧り。
知らぬ間に紅茶を飲み干し、クッキーも食べ終わっていた。
「「いってらっしゃいませ、ご主人さま!」」
男子生徒は代金200円を払って大満足で2Aのメイド喫茶を後にした。
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