第63話 文化祭準備4、麗華邸で特訓2


 今回麗華がクラスメイトたちに振舞ったカレーは、料理長の宮本が作ったもので、以前麗華が作ったカレーとは比べられないほどおとなしい・・・・・ものになっている。それでも、ある程度麗華の好みに沿ったカレーなので市販のカレーの辛口よりも当然辛い。


 匂いからして辛そうなカレーなのだが妙においしそうな匂いでもある。


 生徒たちは、カレーの入った深皿から、ご飯の上にスプーンでひとすくいカレーをかけて、その部分を一口口に入れた。


「おいしい!」と最初は誰もが思ったのだがその数秒後、口の中に辛さが襲ってくる。


「「か、辛ーい!」」


 生徒たちの中で続けて2口目を口に運ぶ者はなく、野菜サラダに手を伸ばしたり、水の入ったグラスに手を伸ばしていた。


 麗華にすれば少し辛みが足りなかったので、宮本が調合した辛さマシマシ用ガラムマサラを振りかけて「この辛さよね」とご満悦だった。


「辛さが足りない人は、テーブルの上の瓶に入っているガラムマサラを振りかけると少しですが辛みが増すのでどうぞ」


 1クラス分の生徒の中には、恐いもの見たさ的な思考をする者もいるわけで、試しにガラムマサラの瓶から一振りカレーに振りかけ、それをすくってご飯にかけて口に入れた者もいた。


 一口口に入れたその生徒は「これくらいなら。……」


 それ以降言葉もなく、水をガブ飲みした。


 麗華の使用人たちは、食事をいったん中断して、冷水の入ったポットを持ってテーブルを回り、空いたグラスの中に冷水を注いでいった。


「お替わりの方は遠慮なくお申し出ください」


 そう言って回ったところ、ご飯のお替わりだけはあったようだ。


 麗華とすれば、そういった気配りをメイド喫茶のメイド担当者に期待しているわけだが、真意が伝わったかどうかは定かではない。



 食事が終わり、食器が片付けられ、口直しにメロンが配られた。一玉1万円ほどのマスクメロンである。各人に8分の1に切って振舞われたので、一人頭にすれば少し高級な洋菓子並みの値段である。


「あまーい」「おいしー」「こんなにおいしいメロンは初めてだ!」


 大好評だった。




 食後しばらく休憩した後、午後からの練習が始まった。


 麗華は料理係を引き連れて厨房に移動していった。午後からはピラフを作る予定である。ここで作ったピラフは冷凍し、文化祭当日運び入れ、電子レンジで温めるつもりだ。


 文化祭用に麗華は1500ワットの業務用電子レンジを2台購入している。教室の電源は10キロワットまでという話だったので、電子レンジを2台同時に使った上、湯沸かしポットを何個か使ったところで問題なく使えるだろう。購入した電子レンジは電気店にそのまま置いており、文化祭の前日麗華の教室に運び込まれて取り付けられることになっている。文化祭が終わればそのまま取り外し、家庭科教室に運んで学校に寄付する予定だ。



 ピラフは麗華のレパートリーにはないので、料理長の宮本が料理を教えることになっている。


 内容はエビピラフと、ビーフピラフ。米は魚沼産の最高級コシヒカリ。エビは南紀産の車エビ、牛肉は赤身が自慢の土佐あかうしだ。


 材料費だけでもかなりのものになってしまうが、現物支給なので問題ない。一千万単位で補助しようと思っていたので、百万使ったところでたかが知れているし、そもそも、必要な物にお金をかけることは当然と思っている麗華は食材費など気にしたことはない。最高は最高だからこそ最高なのだ!


 ピラフの他に喫茶店で提供する食事物は、麗華の厨房で作ったカレーを小型の耐熱容器に一食分ずつ小分けして冷凍し、文化祭本番ではクーラーボックスで麗華の屋敷から会場の教室に搬入し、電子レンジで解凍し、別途用意するパックご飯でお客さまに供することを考えている。





 こちらは、昼食の食器などが片付けられた大広間。


 整列したメイド係の生徒たちに向かって、今度は麗華の屋敷の次席執事の田宮が講師になって説明を始めた。


「午後からの練習では、いわゆるメイド喫茶的な練習になります。

 お客さまを迎えるところから練習します。

 それでは、『お帰りなさいませ、ご主人さま!』、はい」


「「お帰りなさいませ、ご主人さま!」」


「もう一度、感情を込めて『お帰りなさいませ、ご主人さま!』」


「「お帰りなさいませ、ご主人さま!」」


「もう一度」


「「お帰りなさいませ、ご主人さま!」」


 本格的練習が始まったようだ。


「次はお席に案内します。

『ご主人さま、こちらのお席にどうぞ』」


「「ご主人さま、こちらのお席にどうぞ』」」


 ……。


「次はコーヒーをお客さまにお出しします。

 この時、お砂糖の数、ミルクの有無を聞いて、お砂糖、ミルクを入れて差し上げます。

『ご主人さま、お砂糖は何個かな?』

 ここで、語尾を『かな?』から『きゃな?』などに変化させるのもアリです」


 そこで、一同がなぜか首をかしげて「きゃな?」とつぶやき始めた。


「『ミルクは入れるのきゃな?』」田宮もサービスで、首をかしげながら『きゃな?』と言ってみた。


 今度の生徒たちの反応は「かわいーー!」「きゃーー!」だった。


「最後は、

『XXXの愛情をどのくらい入れて欲しいかな?』

 XXXは事前に自分の愛称を決めて、名札に書いて胸元につけておけばよいでしょう。

 お客さまに指定されたお砂糖などを入れた後、カップに向かって愛情の投げキッスを送ります。何回指定されても、最高で3回も投げキスすれば十分です」


 そこで、生徒たちが「投げキス、エー!」「ほんとにするのー」とか言いながら嬉しそうに・・・・・騒ぎ出した。


「それではやってみましょう。

『ご主人さま、お砂糖は何個きゃな?』

『ミルクは入れるのきゃな?』

『タムチンの愛情をどのくらい入れてほしい?』

 因みにタムチンとはちょっと変ですが私の高校時代のあだ名です。

 それでは、はい」


「「『ご主人さま、お砂糖は何個きゃな?』

『ミルクは入れるのきゃな?』

『○×◇の愛情をどのくらい入れてほしい?』、キャーー!」」


 ……。


「後は、お菓子や軽食類の提供時ですね。両手の人差し指と親指でハートを作り、

『おいしくなーれ 萌え萌えキュン』、はい」


 生徒たちが両手でハートを作って、


「「『おいしくなーれ 萌え萌えキュン』、キャハハ」」


「もし、セクハラ的なお客さまがいた場合は、極端な場合は別ですが、怒り出すのではなく、

『エッチなのはいけないと思いまーす』、はい」


「「『エッチなのはいけないと思いまーす!』、アハハハ」」


 大受けである。



「それでは、お客さまが席を立ちます、そうしたらー。そうです。

『いってらっしゃいませ、ご主人さま』、はい」


「「いってらっしゃいませ、ご主人さま!」」


「はい」


「「いってらっしゃいませ、ご主人さま!」」




 その日の訓練の最後に、


「みなさんのメイド姿をデフォルメしてポスターなどに使用したいのですが、よろしいですか?」


 もちろん、みんな了承し、メイドに扮する女生徒たちの顔写真を田宮がデジカメで撮影していった。



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