エピローグ

 窓から雪を見ていた。

 ただジッと、雪を見ていた。


 暖かい部屋の中で、鱗のように結露した窓を手のひらで拭って、部屋の明かりが漏れる外の景色を静かにのぞき込んでいた。

 暗闇の中、窓の向こう側だけがぼんやりと明るくて、白くて、そんなモノトーンの景色に自分を重ね、つくりと痛む胸を押さえるように、寝間着にしている黒いジャージを握り締める。四年前のあの日と同じクリスマスイブの夜に。

 相変わらず男に縁がないまま、気づけば年も二十四歳クリスマスイブ

 年々、純潔も重くなる。


『今、話題の青年実業家……』


 テレビの音すら忌々しい。私は深い溜息をついてテレビのリモコンを……


『牛鬼秋人社長、こちらの商品はどういった経緯で……』

「あーーーー!!!」


 秋人がテレビに映ってる。相変わらずのリーゼントと、一層趣味の悪くなった成金ジャケットを着て。何が青年実業家だって?

 クソ田舎のヤンキー風情が。私の三百万返せってんだ。

 何て会社だ?

 あぁん、何ぃ?

 ビューティーウインターコーポレーション?



 …………バッッッカじゃねーの!?



『お仕事をされている方や学生さんのような、お洒落したくてもなかなかできない女性のために、ネイルチップのオリジナルプリントを一枚から格安でお届けしてます』


 …………あの時誕生日に気づけよ!! 欲しかったんだよ、こんなネイルが!!


 はぁ、もの凄く心が疲れた。もうどうでもいいや、あんなヤツ。

 忘れよう。忘れちまおう。

 どこか私の知らないところで野垂れ死んじまえよ。

 雪じゃねぇんだよ。凍ってんだよ。私の心は。

 もう、どんな熱を持ってしても溶けたりしねぇんだよ。


 ピンポーン。


 唐突にインターホンが鳴る。





 ―――― Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪を溶く熱 えーきち @rockers_eikichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説