人が人を愛するということ

 この小説を読んで思ったのは、国がどこでも、時代がどうでも、愛する相手が同性でも異性でも、人間の営みは普遍的だ、ということ。
 小説の中でジュールは本当にひどい目にあうけれど、でもそれは多分、ジュールだけに起こっていることではない。

 フランスでなくても、19世紀でなくても、ジュールと同じ思いをして生きている人はたくさんいると思う。

 泣きながら苦しみながら傷つきながら、それでもジュールが生きていけたのは、ヤンがいたから。一度でも誰かを心の底から信頼し、信頼され、愛し、愛された、という経験があるからなのではないか。それこそが、自覚はなくとも「自分はそれでも生きていく価値のある人間なんだ」と、心のどこかで思える原動力になるのではないかと思う。

 恋のときめきを超えたところにある愛の世界。自分の存在意義を自身に植え付けてくれる「愛」というものの価値。

「ジュールの森」は、そういうことを教えてくれる小説だと私は思う。


 
 

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