生き延びて!そして太陽を掴んで!

 力も学も財も何も持たない山羊飼いの少年ジュールの運命が大きく変わったのは十四歳。
身体と心に深い傷を負った少年が迷い込んだのはオルレアンの森でした。
半死半生のジュールを助けたのは裕福な商家の息子ヤン。それは運命的な出会いでもありました。
 だがそれは救いなのか新たな苦しみの始まりだったのか。
美しく生まれついたのと引き換えるように、自分の意思なとお構いなしに、次々と人々の間で傷つき翻弄されて行くジュールの青春時代。
 身分の差に喘ぎ、理想と現実の狭間でもがき苦しみながらヤンとの真実の愛を守ろうとする姿が人の世の不条理と共に切なく胸打たれます。
 そして人は善悪のみに生きるものでは無いことを、登場人物全ての人々が教えてくれます。
 一人の少年が、その背負った宿命と闘いながら青年へと成長していく深い人間のドラマであり、純粋な愛の物語でもあります。
 1ページごとに綴られる情景描写や心理描写、その文章力の素晴らしさが読むものをジュールの森へと誘い込みます。それがどんな森なのか、一歩踏み出せばきっとあなたは深みにはまるはず。
 そしてその森は華やかで雑多なパリやオルレアンの深い木々の香りに満ちている事でしょう。一読される価値のある素晴らしい感動作です。

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