第9話
二学期はバタバタとあっという間に過ぎていった。過ごしやすい季節はほんの短い期間で終わり、いつの間にか肩を縮めて歩くようになっていた。年が明けると、受験のため三年生は委員会活動に参加しなくなるので、飯田先輩に会う機会はぐっと減った。もう丸々二ヶ月以上は見ていないが、特に寂しいだとか、会いたいと思うこともない。廊下の先に、無意識に姿を探すこともなくなった。自分の飯田先輩への感情も随分落ち着いたものになったのかもしれない。よかった。安堵している自分がいた。次に会ったらちゃんと目を見て挨拶できるだろう。
二月の草むしりは、3年生の代わりに先生も参加していた。雑談にも応じてくれるし別に怖い先生でもないのだが、みんないつもよりはそれなりに緊張感を持って草を抜いていた。自分たちの脇を、帰宅する生徒たちがスルスル通り過ぎていく。
「お!精が出ますね!」
心臓が、一気に全身に血を送った。全然落ち着いてなんかなかった。気持ち悪いくらいに身体中が騒がしかった。顔を上げられない。
「飯田ぁ、いいところに来たな。お前推薦もう決まってんだろ、草むしり手伝っていけ」
「いやいや、遠慮しときます!俺は陰からそっと応援してますんで、みんな!ファイト!!じゃ失礼しまーす」
先生と飯田先輩の楽しげな掛け合いと、それを囲むみんなの笑い声が鼓膜を打つ。俺は草を握り締めたままじっと先輩の足が過ぎ去るのを待って、ようやく顔を上げた。隣を歩く友人の肩を叩いて笑う、先輩の後ろ姿が見えた。何故だか泣きそうになって、慌てて視線を草に戻す。消えてくれ消えてくれ消えてくれ。自分の胸に向かって念じながら、目の前一帯の草を毟り取った。
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