第8話
夏休みが明けるなり体育の授業が全部体育祭の練習になって、軍隊みたいに並んだり体操したり走らされたりでかなり疲弊していたが、ようやく今日でそれも終わる。曇っておいてくれたら過ごしやすかったのに、雲ひとつない晴天に恵まれて体育祭は始まった。自分の出番さえ終わってしまえば、あとは友達と駄弁っていたらいいのだから、普通に授業を受けるよりかはずっと楽な1日だった。すでに残す競技はあとひとつ、3年生のリレー、それが終わったら閉会式で解散だ。来たる成績発表を前に自分のクラスの順位を予想し合っていたところで、トラックの向こう側に並び立つ生徒の中に飯田先輩を見つけて、一瞬友達の声が遠くなる。先輩のクラスは五人中の四位だった。次がアンカーだから、ここでいかに巻き返せるかで順位が決まるだろう。
バトンが渡るなり、弾かれるように飛び出した先輩は速かった。カーブのところで一人、二人と抜いてついに二位に躍り出た。おおおっと歓声が上がって、こちらに向かって話していた友達の目線も自然と先輩に注がれた。俺はというと、ぐんぐんこちらに近づいてくる先輩と、杞憂だと分かってはいるが、万に一つでも目があってしまったら困ると、バトンを握る先輩の手ばかり見ていた。筋が浮かび上がるくらい力の入った拳だった。俺の前を通り過ぎたあたりでぐっとその拳が先へ先へと上がる。
あぁ、あのバトンが俺の腕だったらな
突然湧き上がった自分の感情に、意味が分からなくて、恥ずかしくて気持ち悪くて俺は思わず目を伏せた。わああぁぁと一際歓声が盛り上がったので、バトンはうまくアンカーに渡ったのだろう。しかし俺は、もう3年生が退場門にはけていくまで顔を上げられなくて、結局先輩のクラスが何位になったのかも分からなかった。自分のクラスの総合順位ですら、気がついたときには発表が終わっていて聞き逃してしまった。
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