第6話 林家パーティー 1日目②
「お父さん、お母さん。私、変われるかなぁ…」
自分の腕の中に、顔を埋める。
「まだ、怖いんだ…。またミスをしたら、今度こそ取り返しのつかないことになっちゃうかもしれないと思うと…」
沈黙が続き、部屋には静寂が訪れる。アナログ時計が、秒針を刻む音だけが響いていた。
しばらくして、でも、と琴音は身体を起こした。そして、自分に言い聞かせるようにゆっくりと呟く。
「私には、みんながついているから、大丈夫」
琴音は、自分1人で背負うことをやめようとしていた。
その時、琴音のスマホが小刻みに震えた。電話だ。琴音は勢い余って立ち上がり、応答した。
「もしもし」
「琴音さん、見つけました。バイトの求人です」
相手は、琴音の指示で外に出ていた
電話口で、琴音は口角を上げる。
「了解です。戻ってきてください」
電話を切り、着席する。あとは、事務課の報告を待つだけだった。
事務課では、リーダーの
(あと1つ、あと1つ情報があればわかる。林家は恐らく…)
「ありました!!」
林家とフクダ商の関係について調べていた部下のうちの1人が大声を出した。
緑川は急いで彼のデスクに行き、パソコンの画面を覗き込んだ。
「もう既に消されていたデータでしたが、なんとか復元出来ました。フクダ商の輸入品目と収入、林家の支出と収入です」
彼は興奮した様子で画面を指す。
「フクダ商の収入と、林家の支出の数字が合いません。それに、林家の収入の数字が異常に大きいと思いませんか?」
緑川はニヤリと笑った。仮説が確信に変わったのだ。
「フクダ商が拳銃を密輸していることを踏まえると、林家と例の組織の関係は恐らくそれね。ふふっ。見られたくない情報は、ネットにあげないようにしないと…消したところで無駄なのにね。」
サイトをプリントアウトするように部下に言って、屈んだ体制から起き上がる。
「私は琴音ちゃんの所へ行ってくるから、他の人はもう少し調べていて」
「はい!」
部下の返事を笑顔で返し、プリントを受け取ったあと、緑川は琴音の待つ部屋へ早足で向かった。
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緑川が満面の笑みで、琴音と望月の部屋に入ってきた。それから、プリントを琴音の前に差し出し、得意げに言う。
「ありました。今年、ダイとルリが林家のパーティーに参加することを決定付ける資料です」
琴音は資料を受け取り、目を通した。
「なるほど、フクダ商が拳銃の密輸をして、それを林家に売り、林家が例の組織に売っているということですね。その受け取りを毎年、外部の人間が出入りしやすいパーティーで行っている…。良く調べられましたね。さすがです」
琴音に褒められ、緑川は、ふふんと胸を張る。
「持つべきものは、優秀な部下です」
「そうですね、あなたも優秀な私の部下の1人です」
キリッとした笑顔に、緑川の顔は少し赤らんだ。
と、そこへ望月が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
琴音は立ち上がり、資料を持って望月の方へ向かった。
「
望月は、資料に目を通した。
「なるほど、これは…」
「では、みんなに次の指示を出しに行きましょう!」
資料から読み取れることを言おうとした望月に被せて琴音は言い、部屋を出て行った。
「琴音ちゃん、張り切っているわね」
「あぁ、いいことだな」
2人は苦笑いを交わし、琴音の後を追った。
仕事場の扉を開いた琴音は入り口で立ち止まり、全体に向かって声を張り上げた。
「皆さん、お仕事です!」
メンバー全員が入り口に目を向け、騒がしかった部屋は一瞬にして静まり返った。
「3日後に行われる林家のパーティーに、例の組織のメンバーであるダイとルリが参加することがわかりました。彼らの目的は、林家がフクダ商から買い取った密輸された拳銃を受け取ることです。そこで我々桜花は、そのパーティーに潜り込み、彼らを取り押さえようと考えています」
辺りが少しだけざわめくも、すぐにまた静かになる。琴音は話を続けた。
「先日の騒動もあるので、今回は極力目立たないように活動します。ざっくり説明すると、まず今日から潜入隊には林家に潜り込んでもらい、盗聴器等を仕掛けてもらいます。潜り込むきっかけは用意しました。そこで、更なる情報を引き出し、それを元にして当日パーティーに潜入します。取り押さえる時も、ダイとルリが席を外した時を狙います。細かい計画については各リーダーへ伝えるので、リーダーの方々はこの後、集まってください。以上です。パーティーは3日後なので、皆さんの迅速な対応が必要となります。急で申し訳ありませんが、どうか、よろしくお願いします」
琴音はおじきをし、扉を閉めた。胸に手を当てると、鼓動が速くなっているのが感じられる。深呼吸をし、顔を上げると目の前に望月が、背後には各グループのリーダーがいた。琴音は微笑み、
「さぁ、作戦会議です!」
と言って、部屋へ入って行った。
残った人達は顔を見合わせて嬉しそうに笑い、琴音の後を追った。
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