1章
第1話 我々は桜花だ
今から3年程前、世界を巻き込む大きな事件があった。国際連合のあるニューヨーク一体が、ある組織の手によって焼き尽くされたのだ。
この事件について、FBIやCIA、公安警察など様々な機関が捜査を行ったが、組織の足取りは掴めないままだった。
そんな状況の中、1つの組織が結成された。それは、「
「桜花」の創設者は、
だが、桜花が結成されて2年が経った頃、2人は殺害された。ボスとNo.2を失った桜花は混乱し、路頭に迷ったが、当時No.3だった
夕暮れ時、学校帰りの琴音は、路地裏にある鉄の階段をのぼり、他の建物に隠れるようにひっそりと建っている灰色のビルに入っていく。
「今日も
入ってすぐ左の部屋。扉を開けると、比較的広い部屋で、資料が散らばっていたり積み上がったりしている机が沢山並んでいるのが見える。桜花のメンバーたちの仕事場だ。
「お疲れ様です」
メンバーたちに笑顔で声をかけた。
「あ、琴音さん。お疲れ様です」
琴音の姿を見たメンバーたちは頭を下げる。それを見て琴音も一礼し、扉を閉めた。
メンバーたちの仕事場から出て真正面。ここにも部屋がある。
「ただいま戻りましたぁ」
琴音はそっと扉を開け、中にいる細身な男に声をかける。男は振り返り、優しく微笑んだ。
「おかえりなさい、琴音さん」
男につられて琴音も微笑む。扉を閉め、部屋の中に入った。ここは、ボスである琴音とNo.2である望月の部屋だ。
「今日は、指名手配犯の確補、ご苦労様でした」
「いやいや、大したことじゃありませんでしたよ。それより、いつまで部下が『琴音さん』と呼ぶのを許すつもりですか。あなたは、桜花のボスなのですよ。『ボス』と呼ばせた方がいいんじゃないんですか?」
「ふふふっ。いいんです」
琴音は、中央に置かれた2つの机のうち、1つに近づき、その上に乗っている写真を手に取る。そこには、琴音の両親が写っていた。
「私は、ボスと呼ばれるには相応しくありません。それに、名前で呼んだ方が親近感が湧くでしょう?」
望月は、ピクッと眉間にシワを寄せる。
「あなたは十分、ボスに相応しいと思いますよ」
琴音は悲しそうな笑みを浮かべる。
「…ありがとうございます」
持っていた写真を机に置き、望月の方を向いた。
「4人を呼んできてください。今晩の最終チェックを行います」
望月は軽くため息をつく。
「わかりました」
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桜花の内部はボスとNo.2以外に大きく4つのグループに分かれている。
ターゲットに近づく為や、情報収集の為に他組織などに潜入する「潜入隊」。
ターゲットを捕獲する時に乗り込む「突入隊」。
桜花が活動する為の道具を作ったり手配したり、時には情報操作も行ったりする「工作課」。
会計を行ったり、ターゲットをリストアップしたり、外部と連絡をとったりなど事務仕事を行う「事務課」。
そして、それぞれのグループにはリーダーがいる。潜入隊から順に、
彼ら4人と琴音、望月は桜花の幹部となっている。
「今晩の動きについて、最終チェックを行います。まず詳細を、雪さん」
琴音が緑川を見て言うと、緑川はにっこり笑って手元の資料を持った。
「今回のターゲットは宝石強盗、銀行強盗などを繰り返している組織、『金猫』です。彼らが活動を始めたのは昨年の9月。地方の銀行での強盗です。最新の活動は先月末、大型デパートに入っている宝石店での強盗でした。それと、彼らに接触するのに際して注意をしなくてはいけないことがありまして。どうやら、金猫のメンバーの中に例の、3年前ニューヨークを襲った組織のメンバーがいるだとかいう噂があるようです」
「そのことについてですが、先程連絡がありました」
潜入隊リーダーの峰崎が話を引き継ぐ。
「確かに、金猫のメンバーの中に例の組織の者はいました。でもどうやら任務ではなく、自己判断で加入しているらしくて…。さらにはその人、例の組織の中ではコードネームももらえないようなかなり下っ端だということが分かりました。なので、そんなに警戒しなくても問題なさそうです」
「だったら作戦は、例の組織を無視できるな」
突入隊リーダーの島本が、図の描かれている紙を6人の前に広げる。
「これは、金猫のアジトの見取り図です。突入隊をA班とB班の二手に分け、先にドアからA班を入れ、その後にB班を窓から入れます。…琴音さんはどうしますか?」
琴音は顔を曇らせ、俯いた。
(…私が行ったらきっと、足でまといになってしまう。前みたいに。)
「私は、ここで待機しています。何かあったらすぐに連絡してください」
顔を上げ、微笑む琴音を他の人たちが悲しそうに見る。
「琴音さん、たまには参加されてみてはどうでしょう?琴音さんが行けば、例の組織について何かわかるかも知れませんし…」
望月が促してみるが、
「いいえ。私はここに残ります」
と言うだけだった。5人は顔を見合せ、どうしたものかと肩を落とす。
「それでは皆さん、健闘を祈ります。怪人さん、武器の準備と車の用意をお願いしますね」
そう言い残し、琴音は部屋を後にした。残された5人は、その悲しげな背中が去っていった扉を見つめることしか出来なかった。
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夜もすっかり更けた頃、望月と、島本率いる突入隊は金猫のアジトの前にいた。
「よーし。そろそろ位置につけ」
島本の合図でスーツを着た隊員は2つのグループに分かれ、拳銃を持ってドアの前と窓の前に動いた。望月はA班、島本はB班をに入った。
トランシーバーから隊員の声が小声で流れる。
「こちらA班。スタンバイ完了です」
「こちらB班。スタンバイ完了です」
報告を受けた島本は、トランシーバーに向かって声を張り上げる。
「A班、突入!!」
A班はドアを荒々しく開け、中に入り、金猫のメンバーに銃を向けた。
「動くな!」
「な、なんだお前ら…」
突然のことに動揺する金猫のメンバーたちに望月は近づき、言った。
「我々は桜花だ。あなた方金猫を拘束する」
「こいつ…」
メンバーの1人が拳銃を抜き取るが、望月によってその拳銃は撃ち落とされた。その瞬間、
「B班突入!」
という島本の声がして、窓が激しく割られ、B班がアジトに入ってきた。
「警察を呼んだ。大人しくするんだな」
金猫は拘束され、しおらしく床に座った。
「呆気ないな…」
「あとは警察にお任せですね」
「…あぁ、そうだな」
望月はスマホを取りだし、報告の電話を入れる。
「金猫拘束の任務、完了しました」
電話口からは「お疲れ様でした」と、琴音の安堵の声が返ってきた。それを聞き、全身の緊張が解ける。
望月は休ませている突入隊員たちに向かって、
「さぁ、警察が到着する前に撤収作業をしよう。さっさと戻るぞ」
と声をかけた。隊員は腰を上げ、テキパキと撤収作業を始めた。
「何事もなくてよかった」
隊員たちを見ながら呟く島本に、
「本当、その通りだな」
と返し、2人は作業に加勢した。
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