第7話 林家パーティー1日目③

琴音ことね望月もちづき峰崎みねざき島本しまもと緑川みどりかわ山本やまもとは1つのテーブルを囲うように座っていた。


「それでは、作戦会議を始めたいと思います。先に今に至るまでの経緯をお話します」


琴音の進行で、会議は始まった。


「今朝、事務課の方が私のところへメモを持ってきてくださいました」


琴音は、


『ダイ、ルリ、林家のパーティーに出席』


と書かれたメモを机の上に置いた。


「これは、私の母……桜花の先代No.2であった愛田あいだ亜由美あゆみによって書かれたものです。ここに書かれているダイとルリは、例の組織のメンバーのコードネームを指しています」


なるほどなぁ、と島本が呟く。


「だが、これだけでは今年、パーティーにヤツらが参加するか確証が持てない…」

「はい、そこで、事務課の方々にお願いして、調べていただきました。ゆきさん」

「はい」


緑川が机の上に数枚のプリントを並べると、リーダー達がそれを覗き込んだ。


「林グループは、いくつか貿易会社を持っていることがわかりました。これが、その取引会社一覧です」


峰崎は、緑川の指したプリント上に見覚えのある名前があることに気づいた。


「あら?フクダ商?聞いたことがあるわね」

「そうなんです。…この資料を見てください。これは、3ヶ月前の桜花の活動記録です。我々は、フクダ商が拳銃密輸をしていると疑い、一度潜入しているんです」


あー、そうだったと峰崎は手を叩いた。


「そしてその結果、フクダ商は拳銃密輸をしていたことが判明しました。しかし、当時は別の件で忙しかったため、取り押さえるまでは出来ていませんでした。では次に、この資料を見てください。これは、フクダ商の収入と林家の支出・収入の表です」


山本は、腕を組んでまじまじと眺めた。


「ほぉ…数字が食い違っているね…」

「はい、ここまでの情報を合わせて考えられることは、フクダ商が拳銃の密輸をして、それを林家に売り、林家が例の組織に売っているということ。そして、その取引を毎年、外部の人間が出入りしやすいパーティーで行っているということです」


そこまで言って緑川は、プリントをひとまとめにして隅に置き、以上ですと琴音に向かって言った。

琴音は軽く会釈をし、言葉を続ける。


「そこで、パーティーに潜入し、ダイとルリを取り押さえたいと考えています。…ざっくりとした手順は先程全体にお話した通りです。今日から潜入隊には林家に行ってもらい、発信機と盗聴器を仕掛けてもらいます。そしてパーティー当日、潜入隊の方々とパーティーに参加し、ダイとルリを捕らえます」


琴音は、望月の淹れたお茶を飲み、一息つく。


「では、今回の作戦の詳細について説明します。まず、林家に潜入する方法です。今まで通り、こっそり潜入する方法だと、もし潜入したことが、今回の件に関わりのない第三者に知られてしまった時が大変です。なので、堂々と潜入できる口実を探してきました。…これです」


机の上に、カラープリントされた求人ポスターを出した。そこには、


『宿泊1日バイト!大手グループのメイド、執事を体験してみませんか?』


と書かれていた。


「これの、今日の17時~翌日17時までの分を申し込んで、バイトとして潜入してもらいます」


ほぉーっと関心の声が上がる。


「さすが、名案ですね。でも、よくこのタイミングでそんな都合のいい求人がありましたね」


琴音は苦笑いした。


「ありがとうございます裕依子ゆいこさん。この時期になると、パーティーの準備で忙しくなるのでこうやって、お手伝いさんを探しているみたいです。…中学生の頃、毎年、通学路にポスターが貼られているのを見ていたのでたまたま知っていただけですよ。今年も貼られているか奏多かなたさんに確認してきてもらいました」

「今日の17時〜翌日17時までの枠が空いているかも、確認済みです」


と、望月は付け足した。

それだったら、と緑川が手を挙げる。


「うちにそういうのが得意な子がいます。後で確認してみますね」

「よろしくお願いします。では次に、林家に潜入してからのことです。バイトとして潜入できるのは1人だけなので、内部での作業は全てその方にやってもらいます。やることは、建物内に盗聴器を仕掛けること、建物内にいる林一族に発信機を付けることです。そのための盗聴器と発信機を至急用意していただきたいのですが、怪人かいとさん、可能ですか?」


山本は自信あり気に応えた。


「ええ、もちろんです。それで盗聴器ですが、盗聴器センサーに反応しない物が、先日完成しました。それを使われてはどうでしょう」


琴音は目を丸くした。


「そんなものが…!わかりました。それを使ってみましょう」

「では、その盗聴器と発信機の監視は我々事務課にお任せください!」

「機材の不具合がないかの心配もあるので、工作課も見させていただきますよ」


我が我がと食いつく2人に、琴音は微笑んだ。


「そうですね。その2つの課にお願いしましょう。…最後に、パーティー当日についてお話します。会場には、潜入隊数名と…私が客を装って潜入します」

「え?!」


リーダー4人は声を揃えた。


「琴音サン、現場に行かれるんですか?!」


その反応を見て、琴音は申し訳なさそうな顔をする。


「半年間も、現場に行かなくてすみませんでした…。足でまといにならないよう努めますので…」

「足でまといなんてそんな…!」

「頼りにしていますよ、琴音ちゃん」


望月は、一瞬峰崎を睨みつけた。そんな望月を見ていた琴音がクスクスと笑う。


「もう、いいじゃないですか、奏多さん。私は気にしませんよ?現にあなただって、私を琴音さんと呼ぶじゃないですか」

「そ、それは…」


望月は軽く口を尖らせた。


「ふふっ。…皆さん、ありがとうございます。頑張りますので、またよろしくお願いします。……当日までの動きはこんな感じです。当日の細かいことについては後ほどまたお話しましょう」


島本が大声を出して、望月の背中をたたいた。


「了解しました!奏多!不貞腐れている場合じゃないぞ!」


はいはいと、望月は呆れた顔になる。


…その後、琴音たちは一息ついて、話し合った内容を整理した。


「この件で、疑問等はありますか?…それでは、この計画で進めましょう。例の組織への急接近となります。気を引き締めていきましょう!」

「はい!」


こうして会議は終わった。


_____________________________________________


17時になり、潜入隊の中から1人の女性が、工作課特製の盗聴器と発信機を持って林家へバイトとして入って行った。

桜花の仕事場では、メンバーたちが寄り集まって、盗聴器と発信機の監視をしている。


「盗聴器①、電源が入りました」

「発信機①も電源入りました」

「……森川もりかわさん、聞こえますか。潜入に成功したので、この無線は切ります。何かありましたら、すぐ連絡するようにしてください。無理のないようにお願いします」


森川と呼ばれた女性は、無線で琴音の声を聞きながら、着々と設置を進めていった。


「奥様、背中にゴミが…あ、明日の御衣装はこちらですね?」


衣服をそっと触り、発信機をセット。盗聴器は掃除のフリでもして花瓶の後ろに置いておく。


「至って順調だな!」


島本が望月の背中をバシバシたたく。


「はいはい、盗聴器の音声を流すから…頼むから大人しくしていてくれ」


山本は受信機とスピーカーを繋ぎ、電源を入れた。

砂嵐のような、ザー、ザーという雑音の後、女性の声がスピーカーから流れた。


“あら?森川さんはどこへ行かれたの?”

“はい、彼女は、夕食の手伝いに行きました”

“そう、よく働く子ね。次から次へといろんな所へ行って…”

“ええ、この時期は皆忙しいので、助かります”


「…うん、受信にも問題は無いね」


琴音はほっと胸を撫で下ろす。


「ではしばらくこの監視を続けましょう」


_____________________________________________


仕事場のデスクには、出前でとったラーメンやギョーザのしょうゆ皿やレンゲなどが無造作に置いてあり、部屋の中は油っこい臭いとニンニクの臭いで充満していた。

緑川と望月は換気をし、その残骸を黙々と片付けている。


“…ねぇ、今年もやるの…?”

“なんだ?不安なのか?”


「…緑川、どこの会話だ?」


えっと、と緑川はモニターを確認する。


「当主の部屋ね。奥さんと話しているみたい」


“不安よ!…だってあの組織…不気味じゃない…”

“大丈夫だよ。もう何年もやってる取引なんだ”

“でも…”

“とにかく、君は何も心配しなくていい。私が全てやっておく”

“そう…気をつけてね…”


「…ダイとルリのことは、本当のことらしいな」

「ええ。ただ、もう少し詳しいことが知りたいわね…」


緑川が顔を上げて立ち上がった。


「琴音ちゃん、夜も深まってきました。モニターは私たちが確認しておきますので…」

「わかりました。では他の人たちは明日に備えて休みましょう」


事務課と工作課の数人を除いたメンバーたちは、自分のデスク周りを軽く整理した後、適当な寝床を探して眠りについた。

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