第11話 出遭い

今日は休日のため、琴音ことね桜花おうかにいた。会議室で、山積みになった過去の資料をパラパラとめくりながら組織について知識を得ようとしている。

望月もちづきは、パソコンを使って先日までの桜花の活動記録と資料を作っていた。


「琴音さん、ダイとルリの写真を撮ったのですが、載せておきますか?」


窓から差し込んだ陽の光が、資料から顔を上げた琴音を照らす。


「……よく撮れましたね」

島本しまもとが、『シャッターチャンスだ!!』とか言って…」

「本当に流石です。和也かずやさんらしい。最年長だから、自信と余裕でみんなを引っ張ってくれているんですね」

「えぇ、まぁ、大半がムチャですが。……あれ、島本って歳は幾つでしたっけ?」

「今年で45歳になられるはずですよ」

「琴音さんにとっては父親のような年齢ですね」


2人は微笑した。



今は、特に大きな活動をしている訳でもないので、休日の仕事場には人が少なかった。

緑川みどりかわは、コーヒーの入ったカップを片手に、朝刊を読んでいた。


「……」


しばらく何かを考えている素振りをしていたが、コーヒーを一気に飲み干すと、カップと新聞をデスクに置き、必要最低限の物しか入っていない小さなカバンを肩にかけた。


「ちょっと外出てくるね」


他のリーダーたちにそう告げて、部屋を出て行った。



会議室では、琴音と望月が2人がかりで古い資料を読んでいた。


奏多かなたさんって、資料作るの速いですよね」

「そうですか?琴音さんに比べたらそうでもないですよ」


当然のように言う望月に、いやいやいや、と琴音は照れたように首を振り、笑った。

開けておいた窓から強い風邪が吹き込み、琴音の髪を揺らす。読んでいた資料のページがペラペラとめくれる。


「……今、夏の匂いがした気がします」


琴音は、髪を耳にかけながら窓の外を見つめた。


「夏かぁ…」


望月が呟く。


「今年はスイカ割りでもしますか」

「わぁ、いいですね!楽しそう」


そう言うと、琴音は風で開かれたページになんとなく視線を落とす。


「……」


そして少し考えてからボソッと声に出した。


「公安警察って、例の組織についてどこまで調べているんでしょうか…」

「…恐ろしいこと考えないでください」

「別に、恐ろしくはないですよ。特に意味はありません。彼らだって、3年前のニューヨークの事件を調べていたはずです。放っておくわけないでしょう」

「意味が無いはずないでしょう。何をするつもりなんですか」

「…まだ、何もしませんよ。そのうちの話です」


望月は嫌な予感がして身震いした。


「ムチャな考えを持つところ、島本に似たんじゃないんですか」


琴音はにっこり笑った


「そうかもしれないですね」

_____________________________________________


夜も更けた頃、廃ビルの屋上に人影が2つあった。


「こんな所に何の用だ」


黒く、ピッチリとした服に身を包んだ男は言う。


「あら、ダメなの?私はただ、答え合わせに来ただけよ」


緑川は冷たく笑う。


「……ほぉ…」


男は振り返り、緑川を見た。


「今朝、朝刊であなたの記事を読んだ時、ここを中継地点にすると思ったわ。朝のうちに下見をして、来てみたけどまさか本当にいるなんて」

「捕まえるのか?」

「いいえ。怪盗には興味が無いの」


男は少しだけ目を伏せた。


「怪盗なんてカッコイイもんじゃねーよ。俺はただのドロボウだ」


緑川は何も言わなかった。


遠くから、パトカーのサイレンが聞こえる。


「おっと、近づいてきたみてぇだな。またな、ネェちゃん。カゼひくなよ」


男はそう言って、屋上から飛び降り、姿を消した。


「…」


緑川はその様子をただじっと見つめていた。

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