第4話 変化

桜花が活動を縮小して、1週間が経った。今日も望月もちづき琴音ことねは2人で過去の捜査資料の整理をしていた。

琴音は、桜花の皆でピザを食べた日からやたらと明るかった。今も鼻歌混じりで作業をしている。


「琴音さん、先週から随分とご機嫌ですね」


望月に言われて、琴音は少し照れた仕草をする。


「先週のピザパーティーが楽しくって。桜花の皆さんと賑やかに食事なんてずっとやっていなかったので」


それは、あなたがずっと暗かったからですよ、と心の中で思いながら、良かったですねと苦笑いする。ここのところは、桜花の雰囲気も明るくなった。以前は、1人で抱え込む琴音を桜花のメンバーが心配して、支えられない自分たちを責めたせいで息が詰まるような空気を漂わせていたから、今の状態はとても過ごしやすい。


「本当、皆琴音さんが大好きなんだから…」


望月は少し嬉しそうに呟いた。当の本人は、上機嫌がピークに達したらしく、ピザパーティーでの話を1人でブツブツと話し始めたので、望月もそこに参加することにした。


2人でピザパーティーの思い出話に花を咲かせながら作業をしていると、部屋の扉がノックされた。どうぞ〜と、明るく琴音が応えると、緊張した顔のメンバーの男が入ってきた。


「…事務課の者です!その…書類整理をしていたら、亜由美あゆみさんが書かれたであろうメモを発見致しまして…」

「お母さんが?!」


2人は、事務課の男に駆け寄り、差し出されたメモ用紙を覗き込んだ。そこには、


『ダイ、ルリ、林家のパーティーに出席』


と書かれていた。


「ダイ?ルリ?おい、誰なんだ?一体…」

「それは、わかっていなくて…」


困惑する望月の隣で、琴音は青い顔をして口元を押え、立ち尽くしていた。

そして、震える声を絞り出すように話した。


「…前に、母から聞いたことがあるんです。『お母さんたちが捕まえようとしてる悪い人たちの中にね、ダイっていう男の人がいるのよ。』って…」


それを聞いた望月と事務課の男は硬直した。

何もない、空白の時間が流れる。



少しして琴音は口を開いた。


「…事務課リーダーの、ゆきさんに話をつけて、事務課で、ある程度のことを調べてください。その後、潜入隊をパーティーに送り込みます」


事務課の男は戸惑った様子を見せる。


「で、ですが…」


望月は落ち着いた声で琴音を諭そうとする。


「琴音さん、気持ちはわかりますが、活動を縮小してまだ1週間しか経っていません。動くには、まだ早いのではないでしょうか…」


琴音は短く深呼吸をし、望月に向き直る。それからじっと目を見つめ、低い声で言った。


「そんなことわかっています。何も考えなしに言っているわけではありません。今年の林家のパーティーは確か3日後。もし今年もその2人がパーティーに出席するのであれば、それは絶好のチャンスです。逃したく、ないんです」


その真剣な表情に、望月は吸い込まれそうになった。

望月は眉間にシワを寄せてじっと考える。


「………わかりました。琴音さんの『考え』に乗りましょう。但し、もしかしたら例の組織への急な接近になるかもしれません。我々もしっかり、参加させていただきますよ」


琴音の顔がパァっと明るくなる。


「もちろんです!皆さんには、頑張っていただきます!」


そうと決まれば、と、メモのことを知らせに来た事務課の男に向かって


「雪さんにそのメモのことを伝えて、ダイとルリ、林家のパーティーについて調べるように指示を出してもらってください!その後の事は私が指示します!」


と言った。

男は、はい!と大きく返事をし、仕事場へ向かった。


「では琴音さん、まず最初の指示を…」


望月が話しかけた時


奏多かなたさん」


琴音は俯き、静かな声で言った。


「もし、潜入することになったら、私も行っていいと思いますか…?」


望月は息を飲む。

琴音が、ある事故以来現場に行かなくなってからもう半年が経っていた。あんなに頑なに行こうとしなかったのにどうして…。

もしかして…と思い、ゆっくり慎重に答えた。


「もちろんです。その場合は、私が全力でサポート致します」


琴音の中で『何か』が変わったことを噛み締めるように。

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