世界消滅さすらい彗星

東海林 春山

世界消滅さすらい彗星


 どうせ地球が滅びるのなら、大切な人と一緒にいたかった。


 街にはサイレンが絶え間なく鳴り響き、通りには種々様々な音楽が爆音で流れ、ときどき硝子が割れたか何かが爆発したような音、叫び声、タガが外れて狂ったような笑い声、怒号が飛んでいた。


 2時間ほど前、突如もたらされたニュースは世界を文字通り震わせ、どん底に突き落とした。

 曰く、小惑星が地球に向かっているのがわかったとか、その軌道は間違いなく地球のど真ん中目がけていて、まあ間違いなくこの世界は半日ほどすれば消えてなくなるのだとか。



* * * * *



 今日も今日とて変わらぬ日常の繰り返し。

 いつも通り会社からくたくたになって帰宅した部屋の中、帰りがけのスーパーマーケットで買った弁当を温め直すのも億劫でそのまま食べ始めた矢先、流し見していたテレビからけたたましいアラート音が発されて、"地球滅亡"というニュースが飛び込んできたのだった。


 およそ現実味のない現実を報せるテレビ画面から視線を、ぽろりと箸の間をこぼれ落ちたじゃがいもへ移す。安っぽいプラスチック容器に転がる冷たい芋を見つめながら、ため息をつく。

 こんなことなら、投げ売りされていた鶏そぼろ弁当なんかではなく、少し迷って結局諦めた焼肉弁当にしておけばよかった。

 あ、小惑星の衝突は明日の昼過ぎ頃という話だから、これは言うなれば最後の晩餐だったわけだ。弁当などと言わず、有り金つっこんで最高級の霜降り牛でもどっさり買って、ついでに七輪と炭も手に入れ、豪勢なひとり焼肉でもするべきだった。


 ――ひとり焼肉なんて発想が出てくるあたり、自分の交友関係の希薄さを思う。

 地球が滅ぶからといって、急いで安否を確認したい人がいるわけでもなく。


 ……いや。本当は、この報せに触れてすぐ、思い浮かぶ人がいた。

 というより、その人は、この頭のなかにいつでもうっすらと存在していた。

 もうすぐ会わなくなって2年にもなろうというのに、焼肉をしたあと衣服へ染み付いて取れない匂いみたいにして、脳の片隅にこびりついた存在。


 あいつ、焼肉好きだったな。

 よく二人で行った、激安の小汚くて狭い焼肉屋を思い出す。そんなわけはないのに、タレと煙と肉の焼ける匂いがふっと香った気がして、鼻を鳴らす。

 携帯電話を手にして、連絡先の一覧からその名前を開いた。


「……」


 今さら。


 ぽいと携帯電話を放って、極小賃貸アパートの唯一の美点、いつでもそばで部屋の主人を待つベッドの上へ転がり、ぼうっとテレビを眺める。


「あ、地球滅亡すんなら、明日仕事行かなくていいじゃん。ラッキー」


 がばりと身を起こし、冷蔵庫へと赴く。備えあれば憂いなし。もちろん冷えたビール缶が己の手には握られている。


 にわかに騒然としだした世の中を写すテレビ画面に目を向けながら、耳はテレビとは違う音も拾っている。少し前から、窓の外はちょっとずつうるさくなっていた。

 翌日出社しなくていい現実を陽気に歌うよりも、その現実はもはや維持されないということを嘆く人が世間一般には多いみたいだ。緊急事態に対応する車両の数種類のサイレンが近づいては遠のく音、言葉自体は聞き取れないが、何かを激しく罵る声、勇ましい雄叫びなどが聞こえ始めていた。

 ベランダの窓へ慎重に近寄って、カーテンの隙間から外の様子を伺う。夜のとばりのもと、揺らめく赤色に照らされた街のシルエットと煙が、遠くのあちこちに見える。火の手がここまで来ないことを祈るしかない。

 カーテンをしっかりと閉めて、ちゃぶ台の前へ力なく腰を下ろす。

 不穏さを増す空気に縮こまる心臓を認めたくなくて、缶を傾けビールを喉に流し込む。やけに苦味を強く感じた。



 世界の終わりにあたって誰からのコンタクトもなく、静かに床で転がっている携帯電話へ視線を送る。

 ……やっぱり、連絡をとりたい。

 携帯電話を手繰り寄せて、その名前を見つめた。


 でも、なんて? どんな言葉が正解なんだろう?


 テレビを消して、まずは素直に思いの丈を綴ったら、ちょっと気持ち悪いほど長い文章が誕生してしまった。

 トトトトト、消す。景気付けにビールを飲み、冷蔵庫にあっただけの缶を並べ、液晶画面を睨みつけ、指を動かし、消しては、飲み。



 するうち、気がつくと、カーテンの隙間からぽっかりとした真昼の光が挿していた。

 どうやらいつの間にかベッドの上で眠っていたようだ。慌てて携帯電話で時刻を確かめる。あれ、あと1時間もしないうちに滅亡予定時刻なんじゃ?

 てか、会社から3件着信履歴があった。地球最後の日にも律儀に出社する人間はいるらしい。あほくさ。


 カーテンを開ければ、うねる狂気の気配に暗く沈んでいた街は、どこか妙に静まり返っていた。

 ん、もしかして、地球が終わるなんてのは、自分の見た夢だったのかもしれない。急に先ほどの着歴が気になる。ちょっとばかり焦ってテレビを点けると、いくつかのチャンネルはそもそも何ら写しておらず、公共放送は、なんのことはない、やはり、来たる終わりの瞬間を、なんだか半信半疑で伝えていた。

 テレビの音量を絞り、裸足でベランダに呆然として立つ。よく晴れており、そよぐ風が気持ちよかった。



 ぽつりぽつりと犬の鳴き声が届き始め、やがて、ワオワオ、アオー、ワワワワウ、と街中で野生に還って咆哮し、遠吠えを響かせ、共鳴するようにその渦は拡がっていった。

 次第に、カタカタカタ、と大気が揺れるのがわかる。地震に似ているが、見上げたら明るい空を走る流れ星のようなものが無数に光って見えた。

 ああ、ああ、と狼狽える、唸りにも、恍惚とした嬌声にも似た人間の声があちこちからいくつも聞こえた。



 そうか、もう、会えないのか。


 素早く携帯電話を手に取り、「会いたかった」とただ一言だけ書いた。やけっぱちで、メッセージを送信する。


 はは。送っちゃった。

 ずず、と壁に背を預けて床までずり落ちる。

 地球滅亡に背中を押されて、もう金輪際会えるわけもないタイミングで、ようやっと押さえつけていた気持ちを伝える己の不甲斐なさが笑えて、涙が滲む。膝を抱えて頭を埋める。

 読んで、くれるかな。……間に合うかな。



 どれぐらいそうしていたか、ふと静けさに包まれていることに気づく。顔を上げて耳を澄ましたが、うるさかった犬の鳴き声も、空気を震わせる振動も感じられない。


 ベランダから身を乗り出して通りを見渡す。駆けた格好のまま、停止している猫を見つけた。テレビへ振り返ると、停止ボタンを押したみたいに画面の中は動く様子もない。空を見上げてみる。落ちる無数の隕石が、輝く尾を引きながら空中でぴたりと止まっている。

 スニーカーだけひっかけて鍵もかけずに家を出て、道路の猫を確認してみた。やはり、走った途中で完全静止している。ネコ科のしやなかな体運びを表現した、見事な剥製のよう。

 しばらく住宅街を歩くと、三人で肩を寄せ合い、揃って見開いた目を空へ向ける、おそらく父・母・子の家族がいた。あの、と声をかけるが反応はない。

 古びた家の配管から、水が噴き上がったまま曲芸よろしく空中で留まっている。



 ――どうやら、自分以外の時間はみんな停止している。



 乾いた笑いが出た。そして、自然と思った。

 会いに行こう。文字だけを送るんじゃなく、直接顔を見るのだ。

 もしかしたら、自分と同じように、この止まった時の中を泳げるかもしれない。


 ここから、あいつの家は数駅離れている。

 こんな状況で望むべくもないけれど、とりあえず私鉄線の最寄り駅に向かう。



 駅へ歩く途中、黒い煙がまるで建築物みたいに空へ伸びているのが遠くからも見えていて、嫌だなあと思っていたら、何度か入ったことのあるお蕎麦屋さんが燃えていた。目に染みる匂いと、火の爆ぜる音が聞こえてきそうな風景だけれど、音もしなければ炎が揺らぐこともない。消化活動に励む消防士たちも含めて、全て精巧な作り物みたいに停止した時間のなかに縫いとどめられている。

 地球丸ごと燃え上がるか塵になろうとしているのに、今この小さな火を消し止めたところでどうなるというのか。

 冷笑と嘲りに唇が歪みかけて、だが、と思い直す。ホースを支える一人一人の顔つきを見る。


「……」


 背筋を伸ばして、少しの間頭を下げておく。


 駅前の広場へ着くと、ものものしい制服を着た警察と、負の感情に顔を険しくした人たちが二手に分かれ、その間を瓶や瓦礫、石などが飛び交っていた。

 砕け散った何かの破片などがたくさん空中に浮いて、埃っぽい一帯を作っている。遠回りしてそこを避け、駅に向かうこともできたけれど、好奇心からあえてそこへ進んでみることにした。

 浮遊していた瓦礫の欠片に向かって手を伸ばして触れれば、あっけなく重力に従ってぱらぱらとそれらが地面に落ちていった。


「おお、おお」


 少し不思議な現象に楽しくなりながら、物が浮かび埃の立つ場所をかき分けて進む。警官の眼前に迫っていた瓶を掴み、地面に置く。

 歯を剥き何事か叫んでいるらしき暴徒といった風情の人たちを眺める。


「君たちは、なんのために戦ってるんだい」


 もちろん返事はない。なかには、犯罪者ですと声高に主張するかのごとく目出し帽をかぶった人もいた。身分を隠したところで、その名前も体も何もかもこの惑星上から消えるのに。こんな暴挙を働いていても、"地球が滅亡することを避けて、このあとも社会や法が存在する可能性"をどこかで信じていて、ある意味では希望を捨てていない人間といえるのかもしれない。

 なんだか寂しくて仕方なくなった。


 視線を逸らした先に、花屋の店先で佇む鮮やかな花々が目に入った。

 ふとした思いつきで、花束をいくつか失敬した。暴れる人たちの手の中にあった石や棒、警官たちの握る警棒を引き抜き、代わりに花を一本ずつ挿していく。


 全ての硬い無機質な物体を柔らかな花々に置き換え終えて、広場を見渡す。彼らの表情は未だ楽しげではないが、灰色にくすんでいた光景はいくらか色を得て間抜けになった。こんな意味のない行為をする自分こそが間抜けなのはわかっているが、ひとつ頷いて駅舎に入る。



 ほんの少しどきどきしながら、ICカードをタッチすることもなく改札機を通ってみたら、何も反応はなく、透明人間になったようだった。

 来るはずのない電車をぼうっと待ってみる。タタタン、と懐かしい音が耳に届く。電車がすーっと線路の上をやってくる。アナウンスも何もなく、ドアが開く。乗り込むと、まばらに乗客がいた。果たせるかな、彼らは静止したままだ。またアナウンスなしに扉が閉まり、電車は走り出した。


 座席に腰掛けた上半身を捻って窓の外へ、絶望の表情を向けているおじさんがいる。小さい子どもをぎゅっと抱きしめている母親がいる。両手で顔を覆って泣いているらしい少女がいる。


 哀れな人間たち、と思う。まるで神様になったみたいに。



* * * * *


 目的地の駅で電車を降り、通い慣れたおんぼろアパートへ行く。2年経った今も変わらず住んでいるかは……わからない。

 玄関のインターフォンのボタンを押したものの音は鳴らない。ドアノブを回してみたが、扉が開く気配はない。鍵がかかっているらしい。


 アパートの脇をすり抜け、庭のほうへ入る。ブロック塀をなんとか乗り越え、目当ての部屋を覗いてみても、カーテンの引かれた中は窺い知れない。

 1階なんて防犯上危ないんだからやめておきなよ、と忠告したことがあった。本人は「へーきへーき」と笑っていたけれど。

 縁側に面した窓をノックしてみて、やはり返事がないのを確かめる。罪悪感がないではないが、庭から大きめの石を拾い上げて、窓に向かって投げつけた。無音が支配していた世界の、鋭く割れる音。


「……ユヅキ?」


 窓を開けて部屋の中へ恐る恐る声をかけたが、誰もいなかった。記憶のなかの家具と同じものがあり、そして何より懐かしい匂いがした。今日に至るまで引っ越しはしていなかったようだ。


「……」


 一応全部の部屋を確かめたものの、案の定もぬけの殻だった。

 庭のほうへ戻り、途方に暮れて縁側に腰掛ける。寂しさが胸をいっぱいにした。


 この止まった世界でたった一人、どうすればいいのだろう。地球が失くなるのは怖いが、このままただ一人でずっと滅亡直前の世界を彷徨うのだって怖い。


 迷子みたいな心持ちで、電話をかけてみる。意外にもコール音は鳴った。けれど電話の主が出ることはない。

 ふうと息をつき電話を切ろうとして、遠くからかすかに電子音が鳴っていることに気がついた。

 たちまち携帯電話を握ったまま走り出す。

 音の出どころは、何度も二人で行った近所の公園だった。


 息を切らせて辿り着いたそこには、探し求めていた姿。

 タコの形をした赤い滑り台のてっぺんに立ち尽くし、張り詰めた面持ちで、鳴り続ける携帯電話を見つめていた。

 一瞬信じられなくて、でも爆発的な嬉しさが全身を駆け巡る。

 あいつ! 同じなんだ! 動けるんだ!


「ユヅキっ!」


 喜びに詰まりそうな息を吐き出して、その名を呼びかける。けれど呼ばれた当人は微動だにしない。


「ユヅキ!」


 タコの足を模した滑り台を遮二無二駆け上る。

 目の前に立っても、相変わらずユヅキは緊張感を保ったまま画面に目を落としている。


「ユヅキ……」


 見慣れた自分の名前を表示して鳴り続けている着信画面をしばらく一緒に見つめて、それから電話を切った。のろのろと、ボトムスの尻ポケットに自分の携帯電話を突っ込む。


 あとには静寂しかない。


「なんで。……なんで、ちくしょう」


 自分だけ。自分だけ動けて。なんでその声が聴けない。その目がこっちを見てくれない。

 ユヅキの頬へ震える手を伸ばし、止める。

 もし、冷たかったらどうしよう。

 ごくりと息を呑んで、そっと指先で触れた。柔らかい。温かい。

 生きてる、生きてるはずだ。なのに。


「しゃべってよ。起きてよ、もう昼だよ、地球滅亡するよ」


 わかっている、とばかりに目を見開いて、切羽詰まった表情を顔に貼り付けているが、返事を寄越すことはない。


「てかなんで地球が終わるってときに滑り台なんか登ってんの、ばかかよ。ほんとに」


 ばかかよ、と指摘すると、いつもへらりと笑って「まーね」と得意そうに応えていたものだ。


 その手から注意深く携帯電話を取り出して、それを自らの左の尻ポケットにしまいこむ。

 恐る恐る試してみたら、動かぬ人の腕を動かせた。宙で不自然に浮かぶからの腕をその両脇へ丁寧に下ろさせる。

 似合わない、緊迫した顔つきを、「起きない? これでも、起きないか?」とほっぺたを両手のひらでむにむにと撫でくり回して、まず口元の緊張を解く。やっぱりユヅキが目を覚ます兆しはない。

 見開かれたまぶたも、死んだ人に施すみたいにして、ゆっくりとそれを下ろしてやった。そうすると、本当にその最期に立ち会ったようで、自分こそがユヅキの存在を締めくくったみたいで、どうしようもなく悲しくなった。


 静かに抱きついて、その両腕を、ごそごそとこちらの腰の後ろへ回して、抱き合うようにした。

 意識のない人にこんなことをするのは気が引けるが、他に意識のある人間がいるでもなし、これを咎める存在はいない。

 その肩に顔を埋めると、懐かしい香りがした。涙が出てきた。

 間違いなくその体はあったかいのに。ここにいるのに。会えない。



 しばらく無言で抱きついていた。


「会いたかった……もっかい、声、聴きたかった……」


 涙も鼻水も、肩口に押し付けてやる。



 すると、右か左か、尻ポケットの内側で、ぶぶ、と携帯電話が震えた。


「――え」


 何かを受信するはずもないその通信機器へ手を伸ばそうとすると、それを阻むように抱きしめられた。


「――え?」

「どゆこと」


 こちらの思考が言葉となって、しかし自らの声じゃない声で再生される。

 それは最後に、もう一度聴きたかった声。


 勢いよく体を離して見ると、困ったように笑う顔があった。そしてその口を開く。


「なんでヨウちゃんがここにいんの。そしてなんで抱きしめてもらえてるんでしょーか」

「……っ会いたかったから」


 止めようもない涙が頬を流れるのも構わず、ちゃんと自分の声で伝える。


 けれど、世界には再び音が溢れていた。

 サイレン。遠くで誰かが何かを喚き立てるスピーカー。ゴゴゴゴ、と腹の底をかき回す地響き。空気を細く裂くヒュルヒュルという音。春の陽気に誘われ踊り出した蝶たちの羽の瞬き、ヤンキーたちのお金のかかった改造車のマフラーから飛び出る威圧。真っ暗の森に身を潜めた手負いの獣が全身で行う熱い呼吸、ようやく一人歩きできるようになった乳児のたどたどしい歩み。教室の後ろで内緒話を交わす少女たちの囁き、湿った夏の夜の雷。太陽を反射する地面を汗を散らして駆ける男たちの力強い足音、乾いた落ち葉がこすれ合ってもたらす秋のため息。暗いオフィスの片隅で疲れをまとうタイピング運び、明け方の田園にそっと片足を浸すシラサギが立てる波紋。いよいよ正気を保てなくなった老いぼれどものぶっ放す大砲、あるいは祝砲。睦み合う恋人たちの悦びと苦しみ。

 そして、雪がしんしんと降り積もる冬山の、耳が痛くなるほどの圧倒的な無音。


 はっとしてユヅキを見つめる。その顔に、明るい、異常な光が照って。夜明けのごとき荘厳さが、ユヅキを包む。真上を見上げると、眩しい線を引きずりながら、高い空を飛んでゆくいくつもの大きな物体が強烈な光を放っていた。


「……終わっちゃう!」


 世界が。ようやくこの人と会えたこの世界が。


「らしいね」

「嫌だ、せっかくまた会えたのに」

「……そうだね」


 ふわりと頭を撫でられる。その優しく哀しげな瞳が、胸のうちの心細さを掻き立てていく。


「こわい……」


 思わずこぼれ出た本音に、目の前の人はくすりと微笑んだ。


「怖い映画、嫌いだったよね」


 そう言って、抱きしめてくれる。


「大丈夫だよヨウちゃん、一緒にいるから。ほら見て、綺麗」


 手を繋ぎ、街へ降り注ぐ石つぶてを、滑り台の上から共に見つめた。



 ――やがて、空が落ちてくる。

 混沌として賑やかだった様々な音が呑み込まれ、代わりに、たったひとつの音が世界を揺るがしていく。



 白く、白く輝く光が、祝福するようにこの惑星を包んだ。




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