17話 ルナの頼み

17話 ルナの頼み


 「ロイ君! ちょっといいかな?」


 授業終わりに武道館から出ようとしていたところ、ルナが声をかけてきた。


 「別に構わないぞ?」


 「あの、もし良かったら私に稽古をつけて下さい!」


 「稽古?」

 

 突然の頼みに少しキョトンとしてしまった。


 「私も闘技大会に出場しなければいけないのだけど、さっきの授業でロイ君からもらったアドバイスが凄く分かりやすくて⋯⋯。時間があるときに少しでもいいから、お願いできないかな?」


 上目遣いで頼んでくるルナ。

 一々、動きや表情が憎いほど可愛らしいんだよな⋯⋯。


 「俺は出場しないからライバルにはならないし、別に構わないけど。公爵家のルナなら一流の魔法使い達に教えてもらい放題じゃないのか?」


 わざわざ俺に頼む必要はないと思うんだが。


 「実はね、学校のクラスメイトと一緒に勉強したり訓練したりするのが夢だったんだ! それで、闘技大会が開催されるから丁度良いかな〜なんて! でもロイ君の場合は対等な教え合いっこはできなさそうだから、色々と学ばせてもらおうかと⋯⋯」


 真剣な表情でそう返すルナに他意はなさそうだし、これはクラスメイトとしての頼みだ。

 ターナやカヤとの訓練に支障が出なければ問題はないかな。

 正直、さっきの授業で見るかぎりルナの実力は想像以上だ。

 模擬戦のときは一瞬で負けそうになっていたが、あれはあれでラフィーナが強過ぎるのかもしれないな。

 

 「そうだな。だったらクラスの他の連中にも声を掛けよう。皆んなで練習した方が勉強になるし。問題ないだろ?」


 さすがに2人きりで教えるつもりはない。

 クラスの皆んなで一緒に練習ってことなら下手にこれ以上、目を付けられることもないだろう。

 というか面倒だから付けないでくれ。


 「うん! 私の方は問題ないよ!」


 「それなら別に構わないぞ。闘技大会までの練習メニューを練っておこう⋯⋯。後は皆んなが参加してくれるか、だな」


 俺が了承すると、ルナは分かりやすく喜びを表現した。


 「やったぁ〜! ロイ君がアドバイスしてくれるんだし、きっと皆んな参加してくれるよ! 今度、クラスで皆んなが集まっているときに声をかけてみるね!」


 それから今後の大まかな予定を決めた後、ターナと昼食をとる予定があったのでルナと別れた。


 食堂へ向かうと、入口でターナが待っているのが見えた。

 

 「授業ぶりだね、ロイ君! いきなりお手本役に選ばれるなんてさすがだよ! クラスメイトの人達も、ロイ君が剣術と魔法のどっちもこなしちゃうから驚いてた!」


 会うや否や、いきなりのベタ褒めだ。

 

 「剣術の方ならあのくらいならターナも楽勝だろ?」


 「両方できるのが凄いんだよ〜」


 各々の食べたいメニューを食堂のおばちゃんに告げて、お金を払ってから受け取った。

 俺が頼んだのは野菜炒め定食で、ターナが頼んだのはワイルドディアのステーキ定食だ。

 定食は主食であるパンと具材多めのスープが付いてくるので、食べ盛り達でも満足のボリュームである。

 ちなみに、ワイルドディアとは非常に好戦的な鹿の魔物のことだ。

 ワイルドディアの肉はジャイアントボアのそれよりも歯応えがあり、ジャーキーにして非常食としても美味しい。


 「ターナは本当に肉が好きだな」


 もしゃもしゃと肉を咀嚼するターナを見てると妹のリリィを思い出すな。

 俺が旅立ってから数日経つけど、元気にやっているだろうか。


 「ロイ君こそ子どもとは思えないくらい野菜好きだよね! 私はやっぱりお肉一筋だよ!」


 「山奥で育ったからな。肉も好きだけど、野菜も同じくらい好きなんだ」


 リリィは肉ばっかり食べようとして母さんに怒られていたな。


 「そうだ! ロイ君に聞こうと思ってたんだけど、ドワーフのレコルさんのお店で頼んだ防具っていつ頃、出来上がるのかな?」

 

 実は、ターナは冒険者として登録はしているものの、活動自体はまだ未経験だ。

 焦る必要はないし防具が完成してからでいい、と俺が止めているためである。

 早くクエストに出てみたくてうずうずしているみたいだな。


 「確かに、出来上がりの日付を聞いてないな。それじゃあ今日の授業が終わったら訓練前にレコルさんの店に行ってみるか。俺も進捗が気になってたし」



 それから昼食を食べ終え、ターナは午後の授業へと向かい、俺は冒険者ギルドへと向かった。

 午後の授業は魔法の座学なので出席しないのだ。

 Cランクに上がったところだし、少しは歯応えのあるクエストが見つかるんじゃないだろうか。


 ガタッと扉を開き俺がギルドの中へ入ると、他の冒険者達の注意がこちらへ向いたのを感じた。

 ひそひそと話を始めた人もいるな。

 冒険者学校の生徒が冒険者登録を行うのは特に珍しいことではなく、これまでもこんな好奇の目にさらされたことはなかったのだが⋯⋯。

 とても気にはなるのだが、とにかく募集クエストを見てみるか。


 掲示板に目を通すと、俺に向いてそうなクエストが1つ見つかった。

 クエスト内容はアンデッド系の魔物の討伐で、クエストランクはBだ。

 アンデッドの致命的な弱点である聖属性魔法が使える俺からしたらクエストの攻略自体は楽だろう。

 そして何より重要なのは、このクエストがフリーデ村というところから依頼されている点だ。

 募集要項によると、フリーデ村とは王都から馬車で30分ほどのところにある村らしい。

 実は王都以外の色々な町や村にも行ってみたかったので、遠征ができるこのクエストは俺にとって非常に魅力的なのだ。


 受付にクエスト募集用紙を持っていくと、昨日のお姉さんが対応してくれた。


 「すいません。このクエストを受けたいんですが」


 「あ⋯⋯。あの、その前に昨日は疑ってごめんなさい。まさかギルマスのお弟子さんだとは思いもよらなかったので⋯⋯。どうか許して下さい」


 どうやら俺はメリ姉の弟子だからあれくらいは楽勝だ、といった感じで説得してくれたみたいだな。

 お姉さんは昨日、俺を疑ったことを心から申し訳なさそうに謝罪をしてくれた。

 まぁあれが仕事だし、仕方ないことだと思う。


 「いえいえ! 気にしないで下さい。もう疑いも晴れましたし、ランクもCまで上げてもらったので。昨日のことは水に流して今後もお願いします!」

 

 「ありがとうございます! そう言っていただけると幸いです!」


「あの、さっきギルドに入って来たときに他の冒険者達からもの凄く視線を感じたんですけど、何かありました?」


 「実は、新人冒険者の中にギルマスのお弟子さんがいるという噂が広まってしまったようで⋯⋯。ロイさんは瞬く間にCランクに昇格した期待の新星ですし、どこからか『弟子ロイさん説』ができあがったみたいなんです。すみません⋯⋯」


 噂ってこんなにもすぐに広まるものなのか⋯⋯。

 まさか実はメリ姉が俺のことを自慢して回ったとか、そんなオチじゃないよな?


 「は、はぁ。まぁ事実なので問題ないです⋯⋯」


 「はい! それではクエストの説明をさせていただきますね!」


 気付けばお姉さんの口調は既に元のハキハキとしたものに戻っていた。


 それから受けたクエストの説明は思ったよりも長く、大体こんな感じだ。


・未確認な事柄があるため、クエストランクはBランク以上とする

・被害としては、スケルトン系の魔物により夜に村の周囲を囲う柵が壊されたり村の畑の農作物が盗まれたりしていることが確認されている

・村を襲った魔物は、上位の魔物もしくは魔人に率いられていると思われ、その被害の内容から組織的な攻撃という可能性もある

・群れを率いている魔物や魔人が特定されたら、可能な限りその魔物の討伐を図ること

・複数の冒険者達に臨時パーティとして協力してもらい、クエスト攻略にあたる

・聖属性魔法が使える魔法使いを積極的に募集している

・出発は今日、夕方過ぎ


 ちなみに、スケルトンはゴブリンと同じDランクに位置する低位の魔物だ。

 身体が骨のみなだけあって脆く、戦闘力が低いため魔人からは雑兵として使役されることが多いという。


 話を聞く限り、アンデッドが何か他の魔物や魔人に率いられているというのは間違いなさそうだ。

 そもそもアンデッド系の魔物が自然に生み出される可能性があるのは魔物が密集していて空気中の魔素が濃い場所のみで、王都近辺にはそのような地域は確か存在しないはずだ。

 そのため、そのアンデッド達は十中八九、魔人や魔王軍等から召喚術によって生み出されたと考えられるのだ。

 まぁギルド側もそれを分かっているからこそ複数パーティでの共同討伐クエストということにしたんだろう。


 「分かりました。俺は聖属性魔法を使えるので役に立てると思います!」


 「さすがはギルマスのお弟子さんですね! それではクエストを受注させていただきます!」


 扱いが昨日と一変してなんだか凄い違和感だな⋯⋯。


 それから俺はギルドを後にして、クエストの準備に取り掛かるのだった。

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