18話 カヤとダナード

18話 カヤとダナード


 クエストに向けての準備は、ものの十数分くらいで終わった。

 具体的には、非常食として食べやすい小さなパンをいくつか買っておいたのと、後は水筒を買っておいたくらいだ。

 生活水は魔法で補えるから、空の水筒を持っているだけで良いのだ。


 さて、ターナとカヤとの訓練まではまだ時間があるな。

 少しゆったりしていよう。

 

 ***



 ロイとターナが午前の授業に出ていた頃、カヤはダナードが現在、生活している隠れ家へと足を運んでいた。


 「ただいま〜! さっそく帰ってきちゃいました!」


 さも嬉しそうな笑顔で帰りを告げるカヤと、仏頂面で出迎えたダナード。

 中肉中背で黒髪のどこにでもいそうな平均的外見をした男だ。

 年齢は30代に差し掛かっているのにも関わらず、10代後半から20代前半くらいに見える。

 いわゆる童顔である。


 「なんだ、もう帰って来たのか。ロイとはもう話したか?」


 口ではそう言うものの、その雰囲気は薄っすらと喜びを帯びているということにカヤは気付いていた。

 元々、身寄りのなかったダナードにしてもカヤは唯一の家族であり、職業柄、人との余計な接触を絶っている彼にとってカヤが帰って来たのはとても嬉しいことなのだ。


 「それがね、私ロイ君とパーティを組んだんだ! 魔法の稽古をつけてくれてるし、何よりロイ君と一緒にいると飽きない生活が送れそうだし!」


 カヤのその言葉を聞くと、ダナードは少し考え事をした後、少し微笑みを浮かべた。


 「そうか。それは良いことだ。そういえば、あいつがどこまで強くなったのか気になるし、王都での話を色々と聞かせてくれ」


 「もっちろん!」

 

 ***



 「2人ともお疲れ〜!」


 午後の授業が終わった後、待ち合わせで既に合流していた俺とターナに遅れてカヤが到着した。


 「カヤもお疲れさん! 俺達も今きたとこだ。今日はいつもの空き地に行く前に俺達の防具の進捗を確認しに行くんだ。カヤも必要なものがあれば買うといいんじゃないか?」


 「そうなんだ! 丁度、切れ味の良いナイフが欲しかったから楽しみ!」


 カヤはそう言ったが、それ以上に楽しみにしているのはターナだ。

 進捗が気になって仕方がないといった様子で先ほどから落ち着きがない。


 


 「さすがにまだ完成しきってないよ! 師匠が魂込めて作ってるからね! 3日後くらいにまた来てくれくれるかい? 今は工房に籠っていて、勝手に入ると怒られちゃうから確認も出来ないんだよね⋯⋯」


 露骨にテンションが下がったターナ。

 それにしても弟子ですら寄せ付けないって、まさに職人って感じだな。


 「あとたった3日くらいで一級品の防具が手に入るんだぜ? 職人がレコルさんじゃなければもっとかかっていたかもな」


 「そ、そうだね! やっぱりお楽しみはとっておくものだよね!」


 切り替えが早くてなによりだ。


 俺とターナがお弟子さんと話している間、カヤは店の中にある商品のナイフを物色していた。


 「カヤ、そっちはどうだ?」


 カヤの方を見ると、ミスリル製のミリタリーナイフを手に取っていた。


 「これなんて良いかも! おいくらですか〜?」


 「白金貨3枚だよ」


 目を点にしてフリーズしてしまったカヤ。


 「定価は、だけどね。前回のショートソードは師匠が適当に値引きしたから⋯⋯」


 困った様子のお弟子さん。

 おそらく、どのくらい値引きすれば良いのか分からないのだろう。

 というかナイフで白金貨3枚って、俺とターナのショートソードは一体いくらだったんだ⋯⋯。


 「あの、気にしないで下さい。これまではご好意に甘えてきましたが、今回からは定価で買わせていただきますので」

 

 いつまでも甘えっぱなしってのも良くないよな。

 それも親の威光だし。


 「そうかい? 気を利かせてくれてありがとう⋯⋯。それにしても、ロイ君は信じられないくらい大人だね〜。本当に15歳なの?」


 この感じだと、お弟子さんも色々と苦労しているのかもな。

 あのレコルさんの感じからして、売上のことなんて微塵も考えてなさそうだし。


 「あの〜。なんだかこれを買う流れになってしまっているみたいですけど、肝心のお金が⋯⋯」


 「心配しなくても俺が払うよ。むしろこういう機会にどんどん使わせて欲しいくらいだ」


 ターナの時は代金を払ったのに、カヤの時は払わないってのも不公平だしな。


 「確かにロイ君からすれば簡単に払える金額だけどね⋯⋯」


 「これを買ったら3人でミスリル武器のおそろいになるしな。そういうの、嫌いか?」


 「⋯⋯。ずるいよロイ君」


 少し躊躇っていたカヤだが、俺の説得により結局は買うことになった。

  


 「それでは、レコルさんに宜しく伝えておいて下さい!」


 「はいよ! また来てくれよな!」

 

 俺達はレコルの店を後にして、訓練へと向かった。

 

***

 

 「2人とも、今日はなんだか気合が入ってるな」


 魔力量を増やすための訓練――魔力渡しと名付けた――などの魔法訓練を終えた後、格闘訓練に移ったのだが、明らかにいつも以上に激しい動きを見せている。

 ターナはまだしも、気合の入ったカヤの相手をするのは骨が折れるな⋯⋯。


 「私もロイ君ほどじゃないけど、今後はパーティの一員として役に立ちたいからね!」


 よほどナイフが手に入ったのが嬉しかったのか。

 

 「私はロイ君やカヤちゃんに少しでも近付かないとだから⋯⋯」


 ターナには気にするなと伝えているのだが、やはり間近にいる俺達と自分を比較してしまうみたいだ。

 不合格者も少なくない冒険者学校の試験でBクラスに合格しているんだから、自分を卑下する必要は全くないんだけどな⋯⋯。



 「それじゃあ今日はここら辺で終わりにしようか。お疲れさん!」

 

 「りょうか〜い! 今日はいつもより短めだね?」


 「ふぅ〜! 疲れた〜!」


 今日は2人して飛ばしていたのに、カヤはさすがに余裕があるな。

 ターナなんかは大の字で寝転んでしまう始末だ。


 「今日は夜からフリーデ村ってところで合同クエストがあるんだ。明日の午後くらいに帰る予定だよ」


 「そうなんだ! う〜ん⋯⋯。相手がロイ君だと心配するのもおこがましいかな!」


 ターナが寝転がった状態から上半身だけ起こしてそう言う。

 なんだか嬉しいような悲しいような⋯⋯。

 

 「ま、まぁ無理はしないから安心してくれ」


 それから俺達は寮へと帰り、俺はせっせと身支度を整えて冒険者ギルドへと向かった。

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