19話 クエスト出発

19話 クエスト出発

 

 「こんばんは〜。フリーデ村でのクエストの集合ってここで合ってますか?」


 王都への出入り口である大門の近くへやって来た俺は、簡易的に受付をしているギルド職員の若いお姉さんへ話しかけた。


 「そうですよ〜って⋯⋯、もしかしてギルマスのお弟子さんですか?」


 「はい⋯⋯。あの、その噂ってもうかなり広まってる感じですか?」


 昨日も思ったのだが、噂の広まりが速すぎないだろうか。


 「えぇ。それが、昨日のような出来事を絶対に起こさない様にと、ロイさんの情報はギルマスからギルド職員全員へと迅速に伝えられたんです。もう冒険者の方々にも広まりつつあるみたいですね!」


 ⋯⋯そんな簡単に情報が職員から冒険者に広まって良いものなのだろうか。

 心の中で溜息をつきながら受付を済ませると、既に集まっていた冒険者が近づいて来た。


 「なぁ! メリーナさんの弟子って坊主のことか?」


 俺に話しかけてきたのは20代半ばくらいだろうか、栗色の短髪に整った顔つきの男だ。


 「一応そうです⋯⋯。ロイっていいます」

 

 「そうかそうか! 俺はロベルト、よろしくな!   メリーナさんには駆け出しの頃から色々とお世話になってな、今となってはAランクパーティのリーダーなんてやってるんだよ!」

 

 ⋯⋯ロベルトって名前は両親から聞いたことあるな。


 「あの⋯⋯。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、向こうでお話しても良いですか?」



 不思議そうな表情を浮かべながらもロベルトさんは了承してくれた。


 「それで聞きたいことって何だ?」


 「ウィードとエリスって名前に聞き覚えありませんか?」


 「坊主⋯⋯ロイっていったか。メリーナさんの弟子だけあってよく知ってるな。その2人は俺の恩人なんだ」


 先ほどとは打って変わって、どこかしんみりとした態度のロベルトさん。


 「俺はそのウィードとエリスの息子なんです。両親から教えられた、王都で信頼できる人の名前にロベルトさんの名前もあったのでもしやと思って」


 「なっ! ⋯⋯本当か?」

 

 「はい。確か魔物に襲われているところを父さんが助けてから仲良くなったと聞きました」


 ロベルトさんは顎に手をあて、何かを考え込んでいる様子だ。

 俺の言っていることが真実かどうか考えているのだろう。

 それからいくつかの問答を繰り返した結果、


 「⋯⋯うん。嘘ではないみたいだな! 市民の英雄2人の息子と同じクエストに参加できるなんて、俺も成り上がったものだぜ! お〜いお前達!」

 

 ロベルトさんは俺の素性について知るや否や、クエストのため集まっていた冒険者達のところへ走っていってしまった。

 なんだか圧が強くて忙しない人だな、なんて考えていたら、数人の冒険者達が俺の周りに集まってきた。 

 そして、なんとその一人一人が丁寧に俺に挨拶してきたのである。


 「こいつらはみんな俺が可愛がっている後輩でな。俺がクランでお世話になっていたウィードさんはもちろん、エリスさんに憧れている奴も多いんだ」


 クランとは冒険者ギルドにおける派閥のようなもので、父さんは王都にいた頃に最大手クランのリーダーを務めていたのだ。

 当時は新人の手助けを先輩が行ったり、クランメンバー同士で有益な情報を交換し合ったりといったクラン活動の良い点が目立っていた。

 しかし、父さんが王都を離れて以降、ここぞとばかりに他のクランが規模を大きくするために新人冒険者に悪質な勧誘を行ったり、敵対クランにいやがらせをしたりといった事態に陥ってしまったらしい。

 そのため、メリ姉がギルマスになってからはクラン活動を禁止したのだ。


 「あの、両親のことはそこまで隠し通せるとは思ってないんですけど、あまりひけらかすつもりもないので⋯⋯」


 結局のところ、俺は時間稼ぎがしたいのだ。

 実際、俺は有り余るほどのお金と実力を持ち合わせているので、ファルタ王国から他の国へと移り住んでしまえば気楽な生活自体は送れることだろう。

 だけど、せっかく知り合った人達との関係を終わらせるには王都での生活はあまりに短か過ぎるからな。

 しばらくは今みたいな生活を楽しみたいのだ。


 「心配しないでくれよ! 今日ここにいる奴等の中に言いふらすようなことをするのはいないぜ!」


 ニッと笑って自慢げに親指を立てるロベルトさん。

 ロベルトさんも後輩の人達――俺にとっては先輩だが――も良い人達そうだし、ここで知り合えて良かったかもな。

 

 「分かりました! それにしても、ロベルトさんのパーティメンバーはクエストに参加しないんですか?」


 Aランクパーティのリーダーと言ってはいたが、先ほどからロベルトさんと先ほど挨拶してくれた彼の後輩冒険者達のみしか見当たらないのだ。

 

 「ウチのメンバーか! 出発時刻までにはちゃんと来ると思うぜ! 早くロイのことを紹介してやりたいんだがな〜」


 ロベルトさんの仲間だから大丈夫だとは思うが、高ランク冒険者は変人が多いと聞くし、どんな人達なのか気になるな。

 


 それから少しの間、ロベルトさんの後輩達から色々と質問攻めにあっていた。

 もうそろそろ出発かと思った頃、3人組の男女が歩いてきた。


 「お、来た来た! あいつらが俺の仲間なんだよ! ご対面の前にちょっとロイのことを話してくるわ!」


 ご対面って、別に俺はそんな崇高な存在とかではないんですが⋯⋯。


 

 「参加される冒険者の方が全員揃われたので、今から出発と致します! それでは馬車にお乗り下さい!」


 どうやらパーティメンバーと挨拶する前に出発となってしまうみたいだな。

 当然ながら馬車はギルドが用意してくれるのだが、これがいかんせん安物の馬車なので狭いし揺れも激しいらしい。


 ⋯⋯飛んで行ってもいいだろうか?


 「お〜い! ロイは俺達の馬車に乗れよ! メンバーの紹介をしたいし!」


 一方で、収入の多い高ランクの冒険者パーティともなると、自前の馬車を買うこともある。

 かなりの値段にはなるだろうが、遠征の際なんかは安物の馬車ではやってられないのだろう。

 飛んで行くことはできないけど、上等な馬車だからまだマシな方か。

 人付き合いも大事だしな。


 「そうですね! お邪魔します!」

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貴族嫌いの田舎者 フリーガム @freegum

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