13話 はじめてのクエスト
13話 はじめてのクエスト
ロイとカヤが2人きりで話し込んでいた頃、ファルタ王国の王宮内では、テミスが隠密機動部隊隊長のスーリを呼び出していた。
「どうなさいましたか? テミスお嬢様」
「先日のお茶会で話に上がっていたロイ君について、何か得ている情報はある?」
「いえ。さすがに授業を監視することはできませんので。何かありましたか?」
淡々と返すスーリ。
「今日の授業で模擬戦が行われたんだけど、彼は元Aランク冒険者の教官を打ち負かしてみせたわ。それに、私も見たことがないような高位の魔法を使っていたの。私も接触を試みたのだけど『自由に生きたいから貴族としては関わるな』と突っぱねられたわ」
「自由に生きたい⋯⋯ですか。しかし、こちらで調査するとして、どこまで踏み入って良いのでしょうか? もしもこの国にとって危険と判断した場合は⋯⋯」
「そうね。彼について色々なことを知りたいのは山々なんだけど、一方であまり深入りもして欲しくないの。ルナがね、彼に友達になって欲しいんだって。だから、もし彼が危険人物だと判断した場合は先に私に相談してくれる? ルナを悲しませたくないの」
ルナにとってテミスが唯一の気を許せる友達である様に、テミスにとってもそれは同じであった。
「かしこまりました。部下に周囲を探らせます」
***
朝がきた。
今日は受ける授業がなくて学校には行かないので、朝から自由に行動できる。
特に急ぎで終わらせないといけないような用事もないので、今日は初めてのクエストに行ってみよう。
実は、この学校は冒険者学校と銘打つだけあって冒険者としての実力を高く評価してもらえる。
特に俺達みたいな特待クラスの生徒は冒険者ギルドでCランクになると、それだけでほぼ卒業が認められる。
だから、とりあえずCランクまでは上げておこうという考えな訳だ。
それから、朝食を食べて少しゆったりと過ごしてから冒険者ギルドへと向かった。
「さすがにしょぼいクエストばっかだなぁ⋯⋯」
かけだしのEランク冒険者である俺が受けられるのは、Dランクのクエストまでだ。
そもそも、クエストには4つの種類がある。
魔物討伐系、薬草などの採集系、商人や貴族などの護衛系、魔物とは関係のない肉体労働やお手伝い系の4つだ。
最後のは俺みたいな低ランク向けのクエストだな。
とりあえず、1番手っ取り早い討伐系クエストだけをこなしていくか。
俺は、張り出されているクエスト募集用紙の中からDランクとEランクの魔物討伐系クエストをいくつか取って受付へと向かった。
「あの、クエストの受注をお願いします」
俺が手渡した紙の内容を確認して、受付のお姉さんは怪訝な表情を浮かべた。
「登録の際にも確認があったと思いますが、クエストは期限までに達成されないと違約金が発生しますし、そもそも1人でこんな討伐クエストなんて⋯⋯」
お姉さんからすると、俺を止めるのは当たり前だ。
だが、俺の方としてもこんな簡単なクエストをちまちまと受けるのは面倒だ。
ここは見逃して欲しいな。
「本当に問題ないので、どうかお願いします」
目力強くお姉さんに迫ると、少し悩む素振りを見せてから折れてくれた。
「私はちゃんと警告しましたからね。まだ子どもとはいえ、冒険者としてクエストを受注した責任は避けられません。ですが、そんなものは命があってこそです。無茶はしないでくださいね」
なんだかお母さんみたいな人だな⋯⋯。
逆に考えたら、甲斐性があるからこそこういった仕事をしているのかも。
「ありがとうございます! すぐ終わらせてきます!」
俺はさっそく町から出て、該当の魔物が出没するエリアへと向かった。
今回のクエストで討伐しなければならないのは、町の近辺の森にて出没が確認されたオーク10頭、ゴブリン10匹、ジャイアントボア5頭。
いずれもこれらが最低限の数となり、これ以上の討伐は報酬にボーナスが付くらしい。
ちなみに、ゴブリンはEランクの魔物でオークとジャイアントボアはDランクだ。
「そろそろだな。"
森の中まで入った俺は、上級探知魔法を使って目標の位置を補足した。
この魔法は、地面に立っていながらもその名のごとく、空から俯瞰しているかのように辺りが見渡せる魔法だ。
そしてこの魔法の優れたところは、望遠鏡を覗く様に自由自在に視点のズームが行える点で、このことから実際に飛んで空から自分の目で確認するよりもはるかに便利となるのだ。
オークとゴブリンの群れは比較的、町に近いところに位置しておりジャイアントボアの群れは少し離れた森奥に位置しているみたいだ。
まずはゴブリンから行くか。
「"
俺はゴブリンの個体数分の火矢を発動し、易々と1匹残らず心臓を撃ち抜いた。
魔物討伐には火矢が向いている。
局所的な攻撃魔法であるため意図的に討伐確認部位を残すことができ、同時に死体を燃やすこともできる一石二鳥だ。
魔物の死体を野外に放置してしまうと他の魔物をおびき寄せてしまったり、魔人によりアンデッド化させられたりするのできちんと処理を行うというのがルールだ。
それに大きな音も出ないので、他の魔物が音を聞いて寄り集まるといった危険を招かない。
討伐確認部位である右耳は、火が燃え移る前にきちんと切り取っておいた。
全部で13匹。
たったこれだけでゴブリン狩りは終わりだ。
まぁゴブリンだけでなく、オークも同じ手法で狩るんだけどな。
それから、オークの群れがいるところへと向かうと10頭ほどの大人のオークと5頭ほどの子どものオークがいた。
オークは繁殖力がとても高いので、群れを発見したら早めに壊滅させる必要があるとされる。
力が強いだけで知能は低いのだが、数が増え過ぎると食料を求めて人里を襲いだすのだ。
「"
オークは身体が大きいので、ゴブリンのときよりも少し威力を高めた火矢で心臓を撃ち抜いた。
「⋯⋯急がないとな」
オークはその身体に蓄えている脂肪の多さからか、火の広がりが早いのだ。
俺は急いで右耳を切り取ってジャイアントボアの群れの方へと向かった。
「"
辺りに人がいないのはさっきの探知魔法で分かっているから、飛んで行っても問題はないだろう。
俺は群れに近づいたところで一旦、空中で止まった。
状況を確認するためだ。
ジャイアントボアは全部で6頭。
夜行性の魔物なので、今はみんなそろって寝ているみたいだ。
これは好都合だな。
「"
俺は風の中級魔法でジャイアントボア達の頭を切り落とした。
そして、胴体の方を近くの木に逆さまにして吊るす。
いわゆる血抜きだ。
そう、このジャイアントボアは肉がとても美味しいのだ。
だから燃やしてしまうのはあまりにもったいない。
だから、血抜きが終わったら大まかに解体してアイテムバッグに入れて持ち帰る。
ただ、さすがに量が多いな。
ミシェルさんやターナの両親にでもお裾分けしに行こう。
血抜きをしてから肉を解体している間に、きちんと右耳を切り取って残った頭の部分は燃やしておいた。
「よし! 帰るぞ!」
そうして俺が町に帰った頃には、時刻はまだ昼前だった。
冒険者人生ではじめてのクエストだったが、このレベルだとさすがに楽勝だったな。
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