14話 Cランク冒険者
14話 Cランク冒険者
「クエスト完了の手続きをお願いします」
受付でそう言って冒険者証明書を提示すると、今朝と同じ受付のお姉さんから、今朝と同じ怪訝な顔をして対応された。
「それでは討伐確認部位の提出をお願いします。現時点である分のみで構いませんので」
俺は、あらかじめアイテムバックから出していた布袋をお姉さんに手渡した。
「これは⋯⋯」
お姉さんは驚きの表情を浮かべ、そして小さく溜息をついて何も言わずに裏の事務室へと引っ込んでしまった。
これはまずいな⋯⋯。
恐らく、本当に俺が集めたのか疑われているんだろう。
普通に考えたら15歳の子どもが1人で討伐できる量とスピードじゃないからな⋯⋯。
俺もそこまで頭が回らない方ではないから、一応こうなったときの対処法は考えている。
あまり気乗りはしないんだが、背に腹はかえれまい。
しばし受付で待っていると、受付のお姉さんが強面のおじさんを連れて戻ってきた。
「なぁ坊主。気持ちは分かるがルールは守らねぇとな。ちょっと裏に来てもらうぞ」
やはりこうなったか⋯⋯。
もうあの人に出てきてもらうしかないな。
「分かりました。だったらまずはギルドマスターに話を通してください。ロイが来たと云えば大丈夫です」
そう、何を隠そうここ冒険者ギルドにおけるギルドマスターのメリ姉と俺は知り合いなのだ。
メリ姉に頼めば、こういった類の面倒ごとはちゃちゃっと解決しくれるはず。
ただかなり癖の強い人だから、できれば避けたかったんだけどな⋯⋯。
受付のお姉さんと強面のおじさんは、俺の言葉の真意が気になっているみたいだったが、俺達の関係について分かるはずもない。
「⋯⋯まぁどっちにしろお前の処分はギルマスが決めるから、今から会ってもらうつもりだ」
それから俺は、応接室に通され1人で待たされることになった。
数分経った頃だろうか。
ドアが開かれ、プラチナブロンドの長髪に、人族より少しだけ長い耳を持つエルフのメリ姉が入ってきた。
俺を見るや否や深呼吸をひとつ。
そして、ドアが閉まった瞬間――。
俺の顔はメリ姉の大き過ぎず小さ過ぎないくらいの胸に埋められていた。
「ロイく〜〜〜ん! ようやく私に会いに来てくれたのね! お姉さん待ってたのよ!」
この人、昔からものすごく俺のことを可愛がってくるんだよなぁ⋯⋯。
良い人なんだけど、度が過ぎていて少し面倒なところが玉にきずだ。
「メリ姉、久しぶりだね。話は聞いてると思うけど、実は今ちょっとピンチなんだ」
「あら、安心して? あの子達には私からしっかりお話をしておくから⋯⋯」
瞳の奥が一瞬だけ輝きを失っていたけど、一体どんな話をするつもりなんだろう⋯⋯。
「さぁさぁそんなことよりも、お姉さんロイ君の話が聞きたいなぁ〜! この部屋には誰も入ってこないようにしてあるから、ゆっくりお話しましょう!」
それから数時間に渡って話に付き合わされるのであった。
結局、俺が冒険者ギルドを出たのは昼過ぎで、町の人々はとっくに昼の休憩を終えて午後の労働に勤しんでいるようだ。
かなり時間がかかってしまったけど、今日のクエストはきちんと完了の手続きをしてもらったし、本来Dに上がるはずだった俺の冒険者ランクはおまけで――メリ姉の権力で――Cにまで上げてもらえた。
十分すぎる成果だな。
さて、ターナとカヤとの訓練までもう少し時間があるからミシェルさんの店へジャイアントボアのお裾分けをしに行くか。
「ごめんくださ〜い」
店に入ると、誰もいない。
だがすぐにミシェルさんの娘のミーアちゃんが厨房から出てきてくれた。
「すみません今は仕込み中なので⋯⋯ってこの前のお客さん?」
「どうもミーアちゃん。ミシェルさんいる?」
「は、はい! お母さん〜!」
ミーアが大きな声で呼ぶと、ミシェルさんはすぐに現れた。
「あら、ロイ君いらっしゃい! 何か食べていく? 仕込み中だから大したものは出せないけど」
「さっきクエストでジャイアントボアを狩ってきたので、お裾分けをと思って来ました!」
「あら! ロイ君ったら気が利くのね〜!」
それから厨房にてジャイアントの肉塊をアイテムバッグから出したのだが、あまりの量に2人して仰天していた。
喜んでもらえたし、あれからちょっとした食事をつくってもらえて腹ごしらえもできたし、上々だ。
それでもまだ少し時間があるな⋯⋯。
訓練の時間までにカヤ用のアイテムバッグと防護アイテムでも拵えておくか。
俺は前にも訪れた小物店へ行き、布袋や麻袋をいくつかまとめ買いして寮へと帰った。
***
気付けば時刻はもう午後4時頃。
ターナとカヤとの待ち合わせの時間だ。
男子寮から出ると、かなり先に2人らしきシルエットが見えた。
といっても2人は少し離れて立っているので、一緒にいる訳ではないみたいだな。
ちなみに、寮の建物は男子と女子とで分けられてはいるが、敷地が隣り合っておりとても近い。
「おーい! 2人ともお待たせー!」
「「あ、ロイ君!」」
同時に反応した2人は少し気まずそうにお互いを見合った。
「ターナにはまだ話してなかったな。この子はカヤだ。俺の事情を知っている信頼できる友人でな。今日から訓練にも参加してもらうことになった」
「カヤだよ! ターナちゃんっていうんだね! 私もこの通り冒険者学校に通ってるから、これからよろしくね!」
カヤには昨日ターナのことを少し話していたけど、ターナは初耳だからな。
すんなり受け入れてくれるといいんだが⋯⋯。
「そ、そうなんだ! あの、私はロイ君と違ってその⋯⋯色々と凄いことはできないけど、よろしくね!」
もじもじしながら挨拶を返すターナ。
小動物みたいで可愛らしいな。
「なんだそんなことか〜。気にしなくて大丈夫だよ! ロイ君との共通の知り合いから色々と聞いてるけど、ロイ君が異常なだけだから!」
そんな屈託のない笑顔で異常なんて言われるとさすがに傷つくんだけど⋯⋯。
「それじゃあ2人のことをそれぞれ紹介でもしながら、いつもの空き地に行くか」
とは言ったものの、それからターナとカヤは2人だけの会話にのめり込んでしまった⋯⋯。
これがいわゆるガールズトークってやつか。
まぁ2人がすぐに仲良くなれたのは良かったけどな。
「さて! 今日からは3人での訓練だな。気合を入れてくぞ!」
「「おーー!」」
それから俺達は日が暮れるまで訓練をしていた。
カヤは数年間ダナードおじさんに鍛えられてきただけあり、素晴らしく洗練された動きを見せてくれたし、魔力量を増やす訓練もしていたらしくターナの数倍はあった。
これなら、俺がいない日でもカヤがターナの先生代わりになれるな。
「よし、お疲れ! 今日の訓練は終わりだ。⋯⋯そういえば、今日クエストでジャイアントボアを狩ってきたんだ。ターナの家にもお裾分けしたいから寄って行かないか?」
ジャイアントボアと聞いて目を輝かせるターナ。
「ジャイアントボアのお肉なんて偶のご馳走でしか食べたことないのに! やっぱり持つべきものは友達だね!」
なお、ターナの両親も全く同じリアクションだった。
これまで近所の知り合いなんていなかったから、お裾分けとか割と憧れだったんだよな⋯⋯。
喜んでもらえてなによりだ。
それから俺達はターナの家で晩ごはんをいただくことになった。
ターナは日頃から家の手伝いばかりしていて友達を家に連れてくることなどほとんど無かったらしく、ターナの両親はとても喜んでいた。
また狩ってきますよ、と笑顔で言ったら量が多すぎるからジャイアントボアはしばらく要らないと苦笑いで返されてしまった。
何事もバランスが大事だな⋯⋯。
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